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【5巻発売記念】ダンテとのデート③

9月1日に5巻が発売になりました。

いっぱい書き下ろしているので、みなさまどうぞよろしくね!


具体的には、ノルトラッハ旅行で同室になってしまったオスカーとセシリアの夜が読めます。

(他にも書き下ろしいっぱいあるよ!)

「え?」

「なっ!」


 狼狽えたのはヤニックだ。声に出さないものの、ジャックも鼻筋を凹めて嫌悪感を露わにさせている。もうその反応だけで、ダンテの言っていたことが真実だと証明しているようなものだった。

 ダンテはカップを持ったまま立ち上がると、ガン、とカウンターに足をかける。その衝撃でカウンターに置いていたもう一つのカップが転がって、テーブルに中身が広がった。

 その瞬間、セシリアはハッとした表情になり、慌てて立ち上がると、ダンテのそばに駆け寄った。ダンテはそんなセシリアを背中に庇う。


「いやぁ、どうやって観光客をだましてるのかと思ったら、こんな方法だとはね。そりゃ、人を疑うことを知らないお人好しは罠に引っかかるわけだよ」

「ダンテ、それってまさか俺のこと?」


 ダンテはセシリアを見下ろしながら、肯定とも否定とも取れない笑みを浮かべる。

 彼はそのまま二人に視線を戻し、再び口を開く。


「それに、普通のやつはお前のでかい図体ですごまれたら、大体はビビって飲んじまうだろうしね」

 でかい図体、というは、もちろんジャックの方を指している。つまり、ヤニックが獲物を捕まえてきて、ジャックが仕留めるという役割なのだろうか。なるほど、よく考えられている。


「いやぁ、俺もさ。正直こんなところで身包み剥がされるやつは自業自得だと思うよ? 馬鹿で阿呆でどうしようもない奴らだって。……だけど、ただ歩いているだけのやつに毒盛って脅すのは良くないだろ?」


 ダンテはもう一度、ガン、とカウンターを蹴る。


「それこそやりすぎだって」

(ダンテ、怖い)


 あはは、といつもと変わらない笑みを浮かべているところが怖い。それこそ、出会ったばかりの彼を彷彿とさせるぐらい怖い。ジャックだって体格だけでいったらダンテよりもいいはずなのに、彼の放つ雰囲気に全く動けなくなってしまっている。


「お前、もしかしてダンテか?」


 そう聞いたのは額に汗を浮かべるジャックだった。ダンテはその問いに「わぁお。俺ってば有名人」と明るい声で答える。その答えを聞いて、ジャックはヤニックにつかみかかった。


「お前、なんてやつ連れてきたんだよ!」

「いやだって! こんなヒョロそうなやつが、あのダンテだって思わないだろ! 確かに髪色も特長も一緒だけどさ! あの掛け闘技場を潰したダンテだって知ってたら、俺だって――!」


 何やら言い争いを始めた二人を見ながら、セシリアはダンテの服をついついと引く。


「ねぇ、ダンテ。闘技場、潰したの?」

「うん。何も知らない観光客を無理やり捕まえて猛獣と戦わせるとかいう、クソな催しをしてたからね。観光客には『相手に勝ったら賞金が出るし、逃してやる』なんて言ってさ。本当、たちが悪いよねー」

「それは……最悪だね」


 思ったよりも治安が悪い闘技場だった。セシリアの同意にダンテは「でしょ?」と唇を引き上げる。

 そうしている間に何やら二人はつかみ合いの喧嘩になってた。ジャックの体格にヤニックは叶わないように見えたが、どうやらそうでもないらしく、二人は互角にやり合っている。


「ほらほら、仲間割れしない」


 ダンテはそんな彼らの間に入り、喧嘩を仲裁する。彼は二人を交互に見ると、片眉を上げた。


「ってことで、どっちが連行される? 俺の知る限り二人とも初犯だし、どっちかだけは見逃してやるよ」

「はぁ!?」


 ジャックとヤニックの声が重なる。二人は顔を見合わせた後、いつの間にか近づいていたダンテを振り払った。


「というか、証拠はあるのかよ!」

「そうだ、そうだ! そんなもんただの紅茶だ! 毒が入っているなんて、言いがかりだ!」

「ここにきてそれを言うかなぁ」


 先ほどまでの態度で白状しているようなものなのに、彼らはそんなことなど関係な糸ばかりにダンテを責め立てる。


「それともあれか? その手にあるやつ飲んでみるか?」

「確かに! お前がそれを飲んで中毒症状が出たら、俺たちも言い訳できねぇだろうなぁ」


 彼らがそう言って指差すのは、セシリアが飲むはずだった紅茶だった。今はダンテが手に持っている。どうせ飲めないだろう、を言外に滲ませながら、二人はまるで勝ち誇ったように胸を張った。


(ダンテ、どうするんだろう……)


 セシリアは不安げな目をダンテに向ける。さすがに飲むことはないと思うが、ダンテが飲まなければ彼らは自分の罪を認めないだろう。ここにネズミなどがいれば代わりに飲ませるということもできるのだが、今はそんな小動物など近くに見当たらなかった。


「これ、飲めばいいわけ?」

「は?」

「へ?」

「ちょっと、ダンテ!」


 セシリアが止めた時にはもう遅かった。彼は一気に紅茶を煽る。そして最後の一滴まで綺麗に飲み終わると「ご馳走様」と空いたコップをヤニックの頭の上に置いた。

 ヤニックとジャックは何が起こったのかわからないと言わんばかりの表情で固まってしまっている。


「んー、いい調合じゃん。生かさず殺さずなところがいいね。これは神経毒の一種かな? 指先と舌がちょっとピリピリするね」

「お、お前、なんで……」


 震える声を出したのはヤニックだ。よほどダンテの今の状態が不思議でならないらしい。

 恐怖に慄く二人に、ダンテは爆弾を投下する。


「こんな毒が俺に効くわけないじゃん」


 毒を飲んでもなおピンピンしているダンテに、彼らの表情はこわばった。ダンテはポケットに手を入れたまま二人にツカツカと近寄ると、彼らの足を引っ掛けてその場に尻餅をつかせる。


「ひっ」

「うっ」


 すっかり怯えてしまっている二人を、ダンテは全く笑っていない目で見下ろした。


「俺とお前たちでさ。悪党としての、格が違うんだよ」

「うわぁああぁぁぁあぁ!」


 ダンテがそうすごんだ瞬間、二人は跳び上がり、その場から一目散に逃げていく。全く捕まえようとする様子がないダンテは「あーぁー」と声を漏らしながら逃げてく彼らの背中を見送った。

 そこまで済んでようやく、セシリアはハッと何かに気がついたような表情になり、慌ててダンテに駆け寄った。


「ダンテ! 何してるの!」

「あー、大丈夫だよ。最初から捕まえる気なかったし。それにああいう輩は、一度こうやって脅しておけば――」

「そうじゃなくて、毒!」


 セシリアはダンテを無理やりカウンターのところにあった椅子に座らせる。そして、彼の額に手を当てた。


「熱は……なさそうだね。というか、毒って熱が出るの? 神経毒だっけ? それって命に関わる感じのもの? あぁもう、わかんない!」


 セシリアは頭を掻きむしった後、ダンテの肩をぎゅっと掴んだ。


「ダンテ、身体でおかしなところない? 大丈夫?」

「そんなに心配しなくても、俺は平気だよ?」

「平気なわけないでしょ!? ってか、手、震えてない!?」

「あ、本当だ」


 よくみると、ダンテの手は小刻みに震えていた。セシリアはそんな彼の手を両手で包む。


「やっぱり効かないなんて嘘じゃん! ……と言うか、なんで毒だとわかってるのに飲んだりするの!?」


 セシリアの問いかけに、ダンテははっと吐き出すように笑った。

 そして――


「まぁ、ほら。せっかくのデートだし、セシルにかっこいいところ見せたいじゃん?」


 その言葉にセシリアは少しだけ頬を赤らめた後、「デートじゃないでしょ!」と彼に向かって怒鳴るのだった。



 この後、セシリアに言い付けられ、ダンテは怒ったオスカーに「危ないことはするなと、あれほど!」と、これでもかと叱られるのだった。


5巻ということで、紙本がそんなに出回らないかもしれません。

もしよかったら取り寄せなどをしてもらえると助かりますー!

みなさまどうぞよしなにー!

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― 新着の感想 ―
[一言] はぁ・・・(*´꒳`*)面白いとしか言いようのないありがたみ尊み100%の作品をありがとうございます。私ギルセシ派だったのですが、くっつかないと言う現実を受け入れきれておりません。仕方ないの…
[良い点] 続きってでますか?!ぜひ読みたいです!
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