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21.デートに誘われた!?



 その後、しばらくは図書館で自由時間ということになった。他にも行くところがあるので時間は一時間ほど。

 本ばかり並んでいる空間に飽きたのだろう、ダンテはヒューイを連れて図書館の外に出かけ、リーンは「こういうところの方が、執筆は捗るのよね!」とどこに隠していたのかわからないノートとペンを取り出し、机についた。オスカーはローランに強請られ本を探す手伝いをし、ジェイドはアインとツヴァイに勉強を教えている。

 一人になったセシリアは、目当ての本を探しながら図書館内を歩いていた。


「並び方がいまいちわかんないんだよなぁ……」


 ヴルーヘル学院の図書館にならば何度か行ったことがあるのだが、この図書館は初めてだった。並んでいる本の多さはすごいのだが、いかんせん何がどこに置いてあるのか判別が難しい。作者ごとでもなければ本のタイトルごとでもないのだから、きっと種別に分けて置いてあるのだろうと思うだが、目当ての本の種別がどこに分類されているのかいまいちわからないのだ。しかも本は天井までびっしり。探しているだけで一時間なんてあっという間に過ぎてしまいそうである。


(えっと、料理の歴史みたいな本があそこにあるから、多分ここのあたりだと思うんだけど……)


 本棚の上の方を見上げながら足を進めていたからだろう、セシリアは思いっきり誰かの背中にぶつかってしまう。


「――って、わわっ!」


 ぶつかった人物が振り返り、肘が彼女の肩を押した。その瞬間、足元がふらついて、身体がバランスを崩す。


「ちょっ! わっ!」

「あぶ――」


 後ろにこける直前、そのぶつかった誰かがセシリアの腕を引いた。そのおかげでセシリアの身体は地面に打ち付けられることなく、なんとかバランスを持ち直す。


「大丈夫?」

「え? ギル……」


 声をかけられて初めて気がついた。セシリアがぶつかった人物はギルバートだったのだ。

 彼はセシリアの肩をしっかりと掴んで彼女を立たせた後、「どこかぶつけたりしなかった? 肩は平気?」と気遣ってくれる。セシリアはそれに「大丈夫」としっかり頷いた。

 ギルバートはほっと息をつく。


「そういえば、ギルはなんでこんなところにいるの?」

「ちょっと探したい本があってね。セシリアは?」

「私も本探してるんだけど、見つからなくて……」


 あはは……と恥ずかしげに頭を掻くと、彼はセシリアが先ほどまで見上げていた場所を見つめる。


「なんの本? ここのことは少し詳しいから、よかったら探してあげるよ。……あの辺を見上げてたってことは、料理の本かな?」

「うん! お菓子のレシピとか載ってる本がいいんだけど!」


 覇気のある声でそう答えると、ギルバートの視線がセシリアに戻ってくる。最初、彼の目は驚いたように大きく見開いていたが、やがて半眼になり、なぜかじっとりと御し難いものを見るような目に変わってしまう。


「なに? お菓子作りでもするの?」

「うん! せっかくだからローランに良い思い出作ってもらおうと思って! だけど、そういうレシピ本みたいなのってどこにあるのかわからなくてさ」

「……」

「どうしたの、ギル?」

「なんでもない」


 ギルバートの態度は終始何かを言いたそうにしていたが、結局彼の口から言葉が飛び出すことはなかった。その代わり、「それならこっち」と踵を返して案内をしてくれる。


「そういう本はこのへんだと思うけど、……何が作りたいの?」

「フィナンシェとかいいんじゃないかなぁって! カヌレとかも興味があるんだけど」

「そういう難しいのじゃなくて、まずはクッキーとか簡単なものを作った方がいいんじゃない?」

「クッキーかぁ……」


 確かにフィナンシェやカヌレなんかよりは簡単そうだが、やるならとことん難しいのにチャレンジしてみたいという、無謀な冒険心がセシリアの胸をジリジリと焦がす。


「あれぐらいなら俺でも作り方わかるし、手伝うからさ」

「本当? でも、どうせなら一人で作りたいしなぁ」

「今回は一人ってのはやめておいたら? ローランは変なもの出して怒るような人じゃないだろうけど、せっかくうちに来たんならできるだけ美味しいもの食べてもらいたいじゃない? 一人よりも二人の方が成功率も高いと思うよ?」

「それもそうだね! 私一人で作ったやつは、また別の機会に渡せばいいんだし!」

「そうそう」


 うまく乗せられているとも知らず、セシリアはそう納得した。


「それじゃ、クッキーの作り方とか書いてある本を借りないと! どこら辺にあるかなぁ……」

「これじゃない?」


 ギルバートがセシリアの背中側にある本棚に手を伸ばす。本棚にもう片方の手をついて、少し背伸びをすると、彼の腕の中にすっぽりとセシリアは収まってしまう。

 見上げた彼の輪郭に、セシリアの胸がわずかに音を立てた。


「はい。……って、どうしたの?」


 そう彼が聞いたのは、セシリアが呆けたようになていたからだ。


「いやぁ、なんていえばいいのかな。ギルって大きくなったんだなぁって実感しまして」

「大きくなったって、そんな今更……」

「だって、昔は私よりも小さかったんだよ? 身長だってこんなんだったし!」


 こんな、といって手のひらで示したのは膝より少し高い位置だ。ギルバートは彼女の仕草に軽くふきだす。


「俺がそのぐらいの時は、セシリアもそのぐらいだったよ」

「それはそうなんだけど……」


 セシリアは視線を下げると唇を尖らせた。


「なんだか少し寂しいなぁって」


 なんだか一人だけ勝手に大きくなられた感が否めないのだ。少なくとも身長が今の膝丈ぐらいだったころは、セシリアの方が精神的にも肉体的にも上だったように思う。なのに今は逆どころか一周回って追いつかれた感じだ。


「でも、俺は大きくなってよかったって思うよ。だってほら、小さくて弱いままだと、セシリアのこと守ってあげれないでしょ?」

「私だって守ってあげたいって思うのに!」

「なんでそこで張り合うのさ」


 耐え切れずといった感じでギルバートは笑う。その笑いが馬鹿にされているような感じがしてセシリアはますます頬を膨らました。

 ギルバートはそんな彼女に目を染めた後、先ほど手に取ったレシピ本を「はい、どうぞ」と差し出した。

 セシリアは少し納得がいっていないような表情でそれを受け取った。「ありがと」という声はちょっと拗ねている。


「そういえばさ、今度の休日って空いてる?」

「えっと、空いてるよ! 確か何も用事なかったはず!」

「もしよかったら今度の休み、デートしない?」

「え? ギルどこか出かけたいところがあるの? あ、わかった! クッキーの材料買いにに行くの?」

「別にそういうわけじゃないけど。久しぶりに一緒に出かけたいなぁって。だめ?」

「だめじゃないけど……」


 こんなふうに甘えられたのが久しぶりすぎて、セシリアは曖昧な返事を返してしまう。そんな彼女の返事に焦れたのかもしれない、彼は「じゃ、予定空けておいてね」と無理やり予定をねじ込んできた。


「え、ギル――」

「ギルー! ここちょっと教えてー!」


 図書館にも関わらず、大きな声でジェイドがギルバートを呼ぶ。

 ギルバートはそんな彼に一瞬だけ目を向けると、すぐさまセシリアの方に向き直った。


「それじゃ」

「あ、うん」


 セシリアは本を持ったまま去っていくギルバートを見つめた後、首を傾げた。


(なんか、甘えたかったのかな……)

「ギルバートも積極的になったわねぇ。私がいるってわかってるのに誘うだなんて……」

「へ。リーン!?」


 本棚と本棚の隙間から顔を覗かせたのは、リーンだった。彼女の手には執筆のために使うためだろうか、何冊か本が握られている。


「アンタも、あんなにあっさりとOKするなんて思わなかったわよ。いや、最終的には行くと思っていたけれどね」

「なんのこと?」

「なんのことって、デートよ」

「デート?」

「ギルバートにさっき誘われてたでしょう?」

「へ?」


 セシリアは首を傾げたまま、先ほどのギルバートの言葉を頭の中で反芻させる。


『もしよかったら今度の休み、デートしない?』


「え? デートって、デート?」

「そうね。少なくともギルバートはそのつもりで誘ったんじゃない?」


 固まっていたのは、二、三秒の間。

 セシリアは顔を真っ赤に染め上げて「ど、ど、ど、どうしよう!!」とうろたえた声を出しながらリーンの両肩をぎゅっとつかんだ。


「どうしようって言われても、了承したんだから行くしかないでしょ? それとも『やっぱりやめよう』とか言うわけ?」

「そ、それは……」


 さすがにそれは失礼だろう。断るなら先程の段階だったはずだが、てっきり二人で出かけたいだけだと思っていたので、そういう意味のデートだと思わなかったのだ。


 固まるセシリアに、リーンはさらに追い打ちをかけてくる。


「ま、何事もものは経験よ! デート、頑張ってきなさい!」


面白かった時のみで構いませんので、評価やブクマ等していただけると、今後の更新の励みになります。

小説4巻、コミカライズ4巻。

どちらも絶賛発売中ですので、どうぞよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今度はギルのターンですね!二人きりのデート、わくわくします♪ ギル、頑張れ〜!
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