15.自殺的な行為
その後三人は、セシリアが使用人としてピカピカに掃除をした食堂で食事を終え、解散となった。食事会の間、三人の空気は今までにないほど穏やかで、時に笑いも入ったりして、雰囲気的にはとてもよかった。その食事会でローランの『セシル様』を『セシル』に改めることもできたし、本当にいい時間だったと思う。
自室に帰ってきたセシリアは、改めてオスカーに昼間の話を振った。
「オスカー。ローランの話、どう思った?」
「ジャニス王子の話か? まぁ、正直突飛な話だなとは思う。俺が知っている彼はそんなことで悩むような人間ではないし、ましてや自殺を考えるタチではないからな。彼の母親が事件を起こしたのは事実だろうし、その後の展開にも嘘はないのだろうが、話し手であるローランの気持ちが入っているのは否めないな」
「そっか……」
上着を脱ぎながら、セシリアは頷いた。
オスカーの考えは、セシリアの考えと同じものだった。彼女としてもジャニスが自分で自分を殺すような人間には見えなかったし、あの話にはローランの感情がふんだんに盛り込まれているのだろうとも思う。
(だけど……)
そう思う側で、ジャニスに同情してしまっている自分がいるのもまた事実だった。
どこか気落ちしているようなセシリアを目の端に留めながら、オスカーは「ただ……」と口にする。
「ただ?」
「それなら、あいつが自分のやっていることを隠していない理由に説明がつく」
「どういうこと?」
セシリアが首を傾げると、オスカーは指を立てる。
「たとえば、お前が何か悪いことをしてしまったらどうする?」
「謝る?」
「そういうやつだよな。お前は……」
オスカーは苦笑を浮かべる。
「まぁ、お前みたいな人間もいるんだろうが普通のやつはまず隠したがるんだ。その『悪いこと』が意図的なのかそうじゃないかは別にして、悪いことをしてしまった人間は事実を隠したがる。自分には何も関係ないとシラを切りたがる。持っているものが多いやつほどな。しかし、ジャニスにはそれがないんだ」
確かに彼は、今まで自分自身の罪を隠すようなことはしなかった。彼は腐っても王族で、王子で、彼の命令で動く人間は大勢いるのだから、自分の手を汚さずにこれまでのことをやってのけることはできただろう。少なくとも、矢面に立つ必要は全くないはずだ。
なのに彼は、まるで『自分がやりました』というような言動や行動ばかりする。
降神祭の時も、神殿での時も。
「ああやって姿を晒せば、自分の居場所がなくなることぐらいわかっていたはずだ。それを自殺と言っていいのかはわからないが、まぁ、自殺的な行為だとは言える」
「自分の居場所がなくなるだけじゃなくて、いろんな人に追われることになちゃったんだもんね」
「そうだな。そう考えると、ローランの考えもあながち的を外れていないんじゃないかとも思うんだよな……」
オスカーはそう自分の考えを締め括った。
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