9.使用人、リア
連載再開しましたー!
一日二回ぐらい連載できたらいいな!(希望)
その翌日――
「オスカーにはゆっくりしろって言われたけど、さすがにそういうわけにもいかないわよね!」
セシリアがそう言ったのは、自室として用意された部屋だった。腰に手を置いた彼女の前には開いているボストンバック。その中には、いつも来ている服とは別に見慣れない服もあった。
セシリアはその服を取り出し、鏡の前で身体に合わせる。
「さすがリーンよね。身体にピッタリ」
彼女が身体に当てているのは、なんとメイド服だった。メイド服といっても、レースが多くてミニスカートな、コスプレ用のなんちゃってメイド服ではなく、ちゃんとくるぶし丈スカートのクラシカルなメイド服だ。
実は、リーンにはノルトラッハに行くことを告げていたのだ。もし自分かの理由でで戻って来られなくなった場合、誰も事情を知らないと混乱すると思ったのだ。リーンは『それって行く必要ある? ちょっと危険すぎない?』とセシリアを止めてくれたが、最後には『わかったわよ。あんたは言い出したら聞かないんだから……』と、セシリアがノルトラッハに行くことを認めてくれたのだ。
その時に『何かあったら使いなさい』と渡されたのが、このメイド服である。
「リーンはこれを逃げる時のために用意してくれたんだろうけど……」
『いい? もし何か変なことに巻き込まれて、にっちもさっちもいかなくなったら、これに着替えて逃げるのよ?』
メイド服を渡してきた時のリーンのセリフが頭を掠める。敵地かもしれない場所に向かう友人に渡すのが、お守りではなくメイド服なところが大変に彼女らしいが、それを逃げるためではなく別のことに使おうとするセシリアも彼女らしいといえば彼女らしい。
「これを着てれば、使用人の人に話を聞けるかもしれないしね!」
セシリアがノルトラッハに来た目的は、ジャニスを捕まえるか彼の情報を手に入れるためである。ついでに、マルグリットの情報も入手できるならしたいと考えていた。
それならばこの衣装は適切だ。他国から来た者に自分の王族の話など軽々にはできないが、使用人同士ならば口が軽くなる。それが新米の使用人ならば、『この城で働く者の常識』として色々と教えてくれるかもしれない。
「ジャニス王子には放浪癖があったっていうけど、長年ここで暮らしていたわけだし、みんな全く知らないってわけじゃないだろうしね」
セシリアはそうつぶやきながら服を脱ぐ。いざという時のために用意されたものだからか、着るのは簡単だ。かつらをかぶり、なぜかついていた眼鏡もかける。
そして――
「よし!」
セシリアは鏡の前でくるりと回った。
襟のついた黒いワンピースに、白いエプロン。黒茶色の長い髪の毛は頭のてっぺんでまとまっていて、ヘットギアは少し小さめだ。縁の細い大きな眼鏡は彼女の特徴的な蒼い瞳をどことなく隠している。
鏡に映る自分は、どこからどう見ても『セシリア』には見えなかった。当然、『セシル』にだって見えはしない。もしかすると、オスカーぐらいなら気がつくかもしれないが、ノルトラッハの人間は十中八九気がつかないだろうし、もしかしたら警備をしている騎士たって気がつかないかもしれない。それぐらいの出来栄えだった。
「さすがリーンね」
そう感嘆の声を漏らしたあと、彼女は胸元でぐっと拳を握りしめた。
「それじゃ、行きますか!」
部屋の外へ出るために、まずは持ってきたロープでの脱出を試みた。部屋を守っている騎士たちや国から連れてきた使用人たちに、こんな格好で部屋から出ていくところを見られるわけにはいかなかったからだ。
ロープを部屋のベッドの足に括り付けると、セシリアは窓の外に残りのロープを放つ。そして、人がいないことを確認して、手慣れた調子でスルスルとロープを降りた。この辺の手解きもシルビィ家の兵士であるハンスに教えてもらったのだが、先日そのハンスから『男装して学院に通うなんて聞いてません! そんなことに協力するためにお嬢様を鍛えたわけじゃありませんからね!』という手紙をいただいた。これはもう相当おかんむりのやつである。
(ハンス兄には次会った時にちゃんと謝らないとねー)
そんなふうに苦笑を漏らしながらセシリアはロープを降りきると、スカートをはらい、皺を伸ばした。
彼女が最初に向かったのは、王宮の端にある使用人室の方向だった。使用人から話を聞くのならば、使用人が多いところで話を聞くのが一番だとおもったからだ。しかし……
(どう話しかければいいのかなー)
リネン室や使用人たちの調理場が集まっている場所だからだろうか、予想していた通りに使用人たちの数は多い。セシリアの隣を通る使用人たちは彼女のことを少しも不審がることはないのだが、だからと言って話しかけてくることもなかった。使用人たちの中に混ざればなんとかなると思っていたので、これは予想外だ。というか、単純な準備不足だ。
(私から話しかけてもいいんだけど、できるだけ変な印象は残したくないしな……)
そう思いながら足を止めたその時だ。
「ちょっと、貴女!」
「はい!」
後からかかったその鋭い声に背筋が伸びる。振り返れば、背の高い年上の女性がこちらに向かって早足で歩いてくるところだった。彼女はセシリアの前で足を止めると、少し早口でこう告げる。
「いま暇?」
「えっと、暇というか、なんというか……」
「暇ならこっちを手伝いなさい」
いきなり手首を持って引っ張られた。セシリアは「え?」と目を白黒させるが、彼女はそんなこと知ったことではないというように彼女を引きずるように何処かへ連れて行く。
「まったく、朝礼の話を聞いてなかったの? 今日は貴賓用の食事室を使うから手の空いた者から掃除をしにくるようにって話だったでしょう?」
「そう、でしたっけ?」
「そうでしたっけって……」
セシリアを引きずりつつ、彼女は出来の悪い子供を見るように振り返った。はぁ……とため息をついているが、悪い人ではないのだろう。
そうして連れていかれたのは、言われていたように貴賓用の食事室だ。大きなシャンデリアが吊り下げられている室内には何人もの人間が並んで座れるような長机と椅子が置いてある。ダマスク柄の壁も重々しいベルベットのカーテンも、どれも煌びやかでさすが王宮と言った感じだ。
「わぁ……」
セシリアは感嘆の声を漏らす。シルビィ家の邸宅にある来客用の食事室だってそこそこ豪華だが、ここまでの広さはないし、豪華さもない。
「なにキョロキョロしてるのよ。さっさと仕事に取り掛かりなさい」
「あ、はい! えっと……」
(な、何をすれば……)
セシリアはオロオロと視線を彷徨わせる。掃除自体のやり方はわからなくもないのだが、そもそも掃除をするための道具がどこにあるのかもわからないし、なんとなくグループ分けされているそのコミュニティにどう入ればいいのかわからなかったからだ。もしかしたら、彼女たちは常日頃自分達が何をするかとかの役割分担があるのかもしれない。
セシリアの動きがぎこちないことに気がついたのだろう、彼女をここまで連れてきた使用人の女性は訝しげな表情で片眉をあげる。
「……もしかして貴女、新入り?」
「あ、はい! 実は、今日入ったばかりで……」
「どおりで、見たことがない顔だと思ったわよ」
彼女は「はぁ」とため息をこぼしたあと、セシリアに向かって布を投げる。それをセシリアがキャッチすると、女性は顎をしゃくって並んでいる机のほうを指した。
「んじゃ、とりあえず椅子をその布で拭いてくれる? 埃なんて一つも残さないようにね」
「は、はい! 頑張ります!」
セシリアの素直な頷きに、女性は頬を引き上げながら「がんばって」と口にした。
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