エピローグ
神殿での騒動から一週間後。
無事に学院に戻ってきたセシリアは、呆けた様子でベンチに座っていた。冬休み中ということもあり学院に人は少なく、中庭にもセシリア以外、人はいない。
「ふぅ……」
セシリアは灰色の空を見ながらため息をつく。この一週間は、怒涛だった。
まず、国王に男装のことがバレた。
『セシリア、これはどういうことかな?』
『あ、あのですね。陛下、これは……』
あれだけの騒動を起こしておいて、謎の青年『セシル・アドミナ』に調べの手が回らないわけがなく、国王に調べられて隠し通せるほど彼らの隠蔽は完璧ではなかった。
しかしながら、男装で学院に通っていた事実よりも、セシリアたちが大量の『障り』を祓った事実の方が大きく、とりあえず男装の件は不問という形になった。しかも……
『陛下、セシリアはこれまで通りに男装で学院に通わせますからね』
事情を話してくれと呼び出された先で、セシリアの母であるルシンダは元気にそうのたまった。『いや、それはさすがに……』と狼狽える国王に、彼女は続けて……
『それなら陛下は、セシリアが「男装をしていた」という令嬢にあるまじき噂を立てられても良いのですか?』
『いや、それは噂というか、じじ――』
『それに、我が娘はオスカー殿下と婚約の身。あまりよくない噂が立つのはよくないですわよね? ……お互いに』
この女、娘のためなら国王でさえも敵に回す覚悟がある。
さすが、稀代のモンスターペアレント(善)だ。
というか本当に彼女たちは竹馬の友だったのだろうか。この関係性を見るに、竹馬の友というより、姉貴と舎弟といった関係性のような気がする。
そんなセシリアの考えを肯定するように、ルシンダの底の知れぬ笑みに国王はブルリと背筋を震わせていた。
かくして、今まで通りに男装姿で学院に戻ってきたセシリアである。
「まぁ、確かに。今更セシリアで通うのは無理があったけどねー」
セシリアで学院に通おうが最後、セシリア=セシルになってしまうことは必至である。いくら髪の毛の長さが変わろうが、体型を隠そうが、顔は全く同じなのだ。これで生徒たちが気づかないわけがない。
(あと、問題は……)
「あ、こんなところにいた!」
聞き慣れた明るい声に、セシリアは声のした方向を見た。
すると、リーンがこっちに向かって走ってくる。彼女は呆けているセシリアの腕をむんずと捕まえると、唇を尖らせた。
「もー、こんなところで何してるのよ! 今日はパーティの準備をするって言ったでしょ!」
「あ、そうだった!」
「忘れてたの? 抜けてるわねぇ」
本日は十二月三十一日。一年の終わりの日だ。
今晩は翌朝まで、みんなで新年を迎えるパーティをするという話だった。
みんなというのはもちろんモードレッドやグレースも入っている。オスカーも途中からなら参加できるという話だったし、ギルバートは昨日の夜から色々手配をしてくれていたみたいだった。アインとツヴァイは、故郷からの仕送りが来たようでそれを持っていくという話だったし、ジェイドとダンテとヒューイはみんながびっくりするような何か面白い企画を考えているようだった。
リーンはセシリアを引っ張りながら呆れたような顔を浮かべる。
「そんなことで、ちゃんとした神子になれるのかしら!」
「うっ」
セシリアは思わず胸を押さえた。
そうなのだ。今回の件で、セシリアは神子になることが半分確定してしまったのだ。つまり(仮)神子状態である。そして(仮)聖騎士に選ばれたのは、ギルバートだった。
つまり現在のセシリアは、未来の王妃であり、次代の神子ということになってしまっているのである。
本当にもう、意味がわからない。
「というか、なんで私……!」
「それは、私たちが宝具を返したからじゃない?」
しかも、厄介ごとを嫌った彼女らは、全部セシリア達がやったのだという報告を国王にあげていたのだ。今更『それは嘘の報告です』とはいえないセシリア達はそれを渋々承諾するしかなかった。というか、国王に嘘の報告をするだなんて彼女達の肝は座りすぎている。
「というか、私、神子になったら死んじゃうって言ってるじゃない!」
セシリアが神子に選ばれてしまった場合、ゲームでは盗賊が馬車を襲ってくるのだ。そして、セシリアは死んでしまう。
今更ゲームのストーリー通りにことが進むとは思っていないが、用心することに越したことはないだろう。
そんなセシリアの嘆きにリーンは人差し指を立てた。
「でもほら、盗賊の件はあと三ヶ月の間に考えればいいし。そもそも、私たちが盗賊如きでどうにかなるわけないじゃない!」
「それは、そうかもしれないけど……」
「それに、今代の神子が色々やらかしたこともあって、なんか神子自体も形骸化する感じだし! もっと気楽に考えましょうよ!」
「気楽にって……」
さすが、他人事である。
しかし確かに、マグリットが片棒を担いでいたという事実に、神殿は神子のあり方というものを見直す方針だというし。今までは半分軟禁のような状態で神子を縛っていたらしいのだが、セシリアの代からはある程度緩くなるという話はもう上がってきていた。
……まぁ、どこまで実現するかは怪しいところだが。相手は未来の王妃なのだしこれまでの神子のようには縛られないというのが全員の見方だった。
それと、ジャニスが言っていたことの真偽は、以降国が使者を送り、調べてくれるということにもなった。もし、彼が言っていたことが真実ならば、リーンの言っていたとおりに神子というものは形骸化していくだろう。残るのは象徴としての役割だけだ。
リーンはセシリアの背を勢い良く叩く。
「――いっ!」
「私たちは二回目だけれど、人生、そう何度もやり直しが効くわけがないんだから! セシリアももっと人生を楽しみなさい!」
さすが、人生をこれでもかと謳歌している人間の言葉である。説得力が段違いだ。
(でも、そうか……)
セシリアはリーンに引っ張られながら、ほぉっと息を吐いた。
白い息がふわりと眼前に浮かび上がり、そして消えていく。
「とりあえずは、ここまで生き残れたんだもんね」
春から夏、秋を越えて冬。ざっくり見積もっても九ヶ月だ。
それなら、もっと気楽に構えてもいいのかもしれない。
逃げてしまったジャニスがどうくるかはわからないけれど、今回もなんとかなったのだし、まぁ、なんとかなるだろう。
「セシル、リーン! みんな待ってるよ!」
二人を迎えにきてくれたのだろうジェイドが、遠くの方で片手をあげる。
リーンはセシリアの手をひく。
「それじゃ、行きましょう!」
「うん!」
これからどうなるかはわからないが。
とりあえずなんとかなってしまうだろうと考えてしまう辺りが、彼女のいいところであり、悪いところでもあるのである。
終わった! 終わりました! 今回も楽しかったー!
五部まで続きそうな感じを醸し出していてごめんなさい!
でも、恋愛面の決着は必ずつけたいので、短くても五部はあげたいと思います!(長いのが書けたら長いの書くね!)
面白かった場合だけで構いませんので、評価等、よろしくお願いします!
コミックスも小説も三巻まで出ていますー!
みなさまのご購入ツイートお待ちしていますね!
どこからでも観測しにいくので(エゴサ)楽しみにしていますー!
ではでは、また会う日まで、アデュー!、