18.ティーパーティ1
「ということで! 冬休み前に、みんなでティーパーティーしよう!」
セシリアがそう言ったのは、エルザとひょんな再会を果たした二日後のことだった。学院のサロンで胸を張る彼女の前には、いつものメンバー。アインとツヴァイもいるし、さらに今回は、グレースとモードレッドもいた。
集められた人間の一人であるヒューイは、楽しそうな声を出すセシリアに、怪訝そうな声を出した。
「『ということで!』って、どういうことだよ……」
「実はね、実家からこんなものが送られてきまして……」
そう言って、彼女は身体をずらす。するとそこには、積み上がる木箱があった。
しかも、二列。彼女の背丈と同じぐらいに積み上がったその箱を見て、ジェイドが「うわぁ。お店でも開けそうだね……」とほうけたように言った。
「『今年は冬休み帰らない』って手紙を書いたら、お母様が送ってくれて。だけど、足の早そうなお菓子とかも多いから、みんなにもできたら手伝ってほしくて……」
行き過ぎた母の愛の具現化である。
絶対に消費しきれない量の茶葉や生菓子。大好きなお店のショコラと、レナの作った大量のスコーン……。
ギルバートも帰らないから二人分……だとしても、やはり多すぎる量である。
「セシルのお母さん、冬休み中も普通に食堂や寮が機能してるの知らないのかな?」
「知ってるとは思うんだけど。うちのお母様、ちょっと過保護気味で……」
そのせいで自分達が、夏休みシルビィ家に泊まらざるを得なかったことをジェイドはまだ知らない。
セシリアは、目の前に座るみんなに手を合わせた。
「というわけで、みんな手伝ってください! このままだと捨てちゃうことになっちゃうと思うから!」
「そういうことなら協力してやるよ」
「ま、捨てるのはもったいないからな」
アインとヒューイがそう答える。
「へぇ、いろんなお菓子があるんだね!」
「燻製もある! これは、猪と鹿?」
答える前にいち早く、箱の中身を確かめ出したのは、ジェイドとツヴァイだ。
「お父様が最近狩猟にハマってるみたいで……」
「燻製あるの? やった! んじゃ俺、合いそうなもの持ってるから、ちょっと部屋まで取ってくるね!」
「ちょっと! 変なもの持ってこないでくださいよ!」
部屋から飛び出したのはダンテである。そんな彼の背に注意を飛ばすのはギルバートだ。ダンテはそんなギルバートの怒声に「はい、はーい」とわかっているのかいないのかよくわからない声を出す。
そんなやりとりの声を背景に、リーンとオスカーも木箱の中を覗き込んだ。
「それにしても、結構な量があるのですね……」
「しかし、この量……。俺たちがどう頑張っても、今日や明日では処理できんぞ?」
「あ、欲しいものがあったら持って帰っても大丈夫だからね!」
「それなら、救済院にいくつか持って行っても大丈夫ですか?」
「あぁ、うん! 持っていこう! 俺も手伝うよ!」
「それなら俺も手伝うぞ」
オスカーの声にジェイドも「あ、ボクも!」と手を挙げる。ツヴァイも遠慮がちな声で「僕も手伝うよ」と微笑んだ。
この様子だと他に手伝ってくれる人間も多そうだ。
「で、なんで私たちまで呼ばれたんですか?」
騒がしくなってきたサロン内で、不思議そうに言ったのはモードレッドだ。隣には同意するように頷く、グレースの姿もある。仲の良い学生同士の集まりにどうして呼ばれたのか不思議でならないらしい。
そんな二人に、セシリアは持っていた鞄を漁った。
「二人にはついでにお土産も渡しておきたくて!」
「お土産?」
「神殿、行かなかったじゃないですか。アインとツヴァイにはもう渡したので、二人にもお土産渡しておこうと思って!」
「はぁ、……ありがとうございます」
二人が受け取ったのは、小さな小瓶だ。中には無色透明のオイルのようなものが入っている。
モードレッドは、不思議そうな顔でそれを掲げた。
「これは?」
「コロンです。トルシュってライラックが有名みたいで、それにちなんだコロンとか蝋燭とか売ってあってあったんです。あ、こっちはエミリーさんに! 若干、香りが違うみたいです」
「良い香り、ですね」
早速、瓶を開けて香りを楽しんだグレースがほっこりと笑う。
セシリアが差し出したもう一つの小瓶を受け取りながら、モードレッドは小さく頭を下げた。
「エミリーにまで、ありがとうございます。年頃なので、こういうのは喜ぶと思います」
「それにしても、土産のチョイスがさすが王子様って感じだよな?」
「そうそう。女の子ウケしそうな感じだよね、コロンって」
そんなふうに話に入ってきたのは、アインとツヴァイの双子だ。彼らにも同じようにライラックのコロンを渡してある。
「妙に女心がわかってる感じがするんだよなー」
「香りも優しいものばかりだしね?」
「あはは……」
苦笑いが漏れる。女心がわかっている感じがするのは、実際に女だからなのだが。どうやら『学院の王子様だから、女心に詳しい』と解釈されたようだ。
助かった。
「そういえば、ギルも今年の冬休みは実家に帰らないって言ってたけど、セシルも家に帰らないんだね? ……それならボクも帰らないでおこうかなぁ。家に帰っても、仕事手伝わされるだけだしさー」
目ぼしいものを箱から出してきたジェイドは、そんなふうに言いながら背伸びをした。その言葉に反応したのは、先ほどサロンに帰ってきたダンテだった。
「なら、ジェイドも学院にいたらいいじゃん!」
「あれ?ダンテも帰らないの?」
「まー、帰っても仕方ないしね」
「家族と喧嘩してるの? 実家に帰りづらい感じ?」
「ま、そんな感じかな?」
ダンテは元々貴族ではない。彼の爵位は買ったものだし、本当のハンプトン家はもう外国にいて、別の人生を歩み始めている。
本当のハンプトン家が持っていた屋敷自体はあるだろうが、帰っても誰もいないどころか、誰も管理していないので荒屋になっている可能性だってある。
そんなダンテの状況を知っているのか、オスカーは腕を組んだ。
「いやだから。お前はウチに来ればいいだろう? 客室はいくらでも空いてると……」
「いやぁ、王宮はちょっと。堅苦しくてしんどいんだよねー。なんか、オスカーを誘うにもいろんなところに許可を取らないといけないし。そもそも、王宮にいてもやることないし……」
「あら、皆様がご実家に帰られないのでしたら、私もこっちにいようかしら」
そう言ったのは、リーンだった。
彼女は猫を被ったまま、頬に手を当て、おっとりとこう続ける。
「どうせ帰っても、大した用事はありませんし。なにより! ヒューイ様とも一緒にいれますし!」
「お前な……」
腕に抱きつかれ、ヒューイは嫌そうな声を出すが、その顔はどことなく満更でもなさそうである。そんな彼らの様子にジェイドは身を乗り出した。
「じゃぁ、ヒューイも学院に残る予定なんだ?」
「……まぁな」
「グレースさんは?」
「私は、あの研究室が実家みたいなものですし、家とは縁が薄いので」
ジェイドは焦ったような顔で、視線を移す。
「先生は?」
「私は家に帰りますよ? エミリーとの久々の水入らずですからね」
「オスカーは?」
「俺はこのままみんなといっしょに学院で……というのは難しいだろうな。年明けには式典があるから、その準備もしないといけないし」
それぞれの返事を聞いて、ジェイドは「そっかー」と椅子に深く腰掛ける。
「ボクも、結局は帰らないといけなくなるだろうし。冬休み前にみんなでこうやって集まれるのは最後になっちゃうかもしれないね」
残念そうな声を出した後、ジェイドは何かを決意したかのように勢いよく立ち上がり、胸に拳を掲げた。
「それじゃ今日は、冬休みの分までみんなで盛り上がろうね!」
そんな彼の号令で、楽しいティーパーティがはじまったのだが……




