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16.生誕祭(クリスマスイベント)1

 大通りを埋め尽くすたくさんの人々。オーナメントで飾られた木々たち。

 いつも子供たちが遊んでいる広場には、移動式の三角屋根の出店が並び、それぞれの店の端には、赤と緑のリボンで装飾の施されたランタンたちが並ぶ。

 通りの入り口と出口には、この時のためだけに作られた金属製のアーチが設置されており、その両端にも煌々と輝くランタンが吊り下げられていた。


 頬を撫でる風が冷たくなり、吐く息が白くなる、十二月。

 ハロウィンイベントがあったのなら、当然、クリスマスイベントもある。というわけで――


「さぁ! 生誕祭よ!」


 セシリアの前で、そう張り切ったような声を上げたのは、リーンだった。

 場所は、彼女の出身であるシゴーニュ救済院。以前、舞台が建てられていた場所に、今度は即席の出店が三件ほど建てられていた。


 生誕祭とは、女神とイアンの子供であるリュミエールの誕生を祝う祭りである。そして、生誕祭にあわせて市井で行われる市のことを『ネサンスマーケット』と人々は呼んでいた。

 生誕祭は降神祭とは違い、主催は街の人間たちだ。カリターデ教が催しているわけではないので、宗教色はあまり強くなく『冬籠前にパーっとやろう!』というのがこの祭りの主な趣旨である。


 まだ木の枠組みしかない救済院の広場で、セシリアは救済院の子どもたちに混ざり、ネサンスマーケットの準備を手伝っていた。


「これは、ここでいいの?」

「えぇ。ありがとう! そこの机の下に置いておいてくれる?」


 リーンの指示通りにセシリアは抱えていた木箱を机の下に置く。

 シスターたちからネサンスマーケットの取り仕切りを任されているリーンは、計画表を持ち、子供たちに指示を出していた。


「降神祭のときも驚いたけど、結構盛大にやるんだね」

「こっちの生誕祭は初めて?」

「うん。この時期は毎年地元の方にいたから……」


 さすが首都、といわざるを得ないほどの盛り上がりっぷりである。

 生誕祭なんて、地域によっては行われないところもあるぐらいなのだ。 


「そういえば、アンタ去年はどうしてたの?」

「去年?」


 リーンの問いかけの意味がわからず、セシリアは首を捻る。


「一年の時よ。もしかして、男装(その姿)で過ごしてたの? だとしたら、一年間、よく隠し通せたわね」

「あー、そのことね。実は去年、ほとんど学院に通ってないんだよね」

「あら、そうなの?」

「うん。ギルが『一人で過ごさせるのは怖いから、自分が入学するまで待て』って止めるからさ」

「相変わらず過保護ね」

「だけど、私としても学院の様子を把握しておきたかったから、途中編入って形にしてもらったんだよ。勉強のほうは、家庭教師のおかげでなんとかなってたしね」


 しかし、今振り返ってみたらそれがよくなかったのかもしれない。『途中編入の見目麗しい美男子』なんて、女生徒たちの注目の的だ。おかげでセシルは、編入一ヶ月で『学院の王子様』の名を自らのものとしてしまったのである。


「ギルバートも驚いたでしょうね。入学してみたら、おとなしくしているはずの義姉が、たった二、三ヶ月で王子様になってるんだから……」

「まぁね。説明は求められたよね……」


 思わず遠い目になる。

 あの時の彼の剣幕は、あまり思い出したくない記憶である。


「今さらこんなこと言っても遅いのかもしれないけれど。どうせならそのまま休んでおけばよかったじゃないの? そのほうが確実に、選定の儀からは離れられたわよ?」

「私も最初はそう考えてたんだけどね。ほら、あれじゃん? 万が一、ヒロインが誰からも宝具もらわなかったら、どうしようって考えちゃって」


 その場合のエンディングを、セシリアの前世であるひよのは見ていない。というか、そういうエンディングがあるのかどうかさえも知らないのだ。そして、エンディングに向かった場合の悪役令嬢の末路もわからない。

 そんな、何も知らない、わからない状態のまま、運命の一年間を過ごすのは、精神的にも肉体的にもキツかった。なので、結局危険だとわかっていながら、セシリアは入学を決めたのである。


「でも、入学して正解だったみたい……」

「……仕方がないじゃない。神子になんてなりたくないんだから」


 セシリアの意味ありげな視線に、リーンはバツが悪そうにそっぽを向いた。


「というか、ジャニス王子の話が本当なら、誰も神子にならなくても大丈夫なんじゃない? 『障り』の種とやらを撒いているのは、カリターデ教なんでしょう?」

「まぁ、そうなんだけど、ジャニス王子の話がどこまでが本当かわからないし……」


 ジャニスの話はリーンとグレイス、それとギルバートには話していた。

 その中で出た結論は、『とりあえずその話は無視しよう』だった。彼の話が嘘だった場合、裏には何か思惑があるのだろうし、その思惑に乗ってしまってもよくないと思ったからだ。

 それに、ジャニスは

『あのシステムは大昔からあるものだからね。本当にあのシステムを理解して、運用している人間は、もうどこにもいないかもしれない』

 と言っていたのだ。

 だとしたら、カリターデ教の人たちは自分達が『障り』の種を蒔き続けているとは知らないままシステムを動かしているのかもしれない。

 

「あとギルが、気になることも言ってて……」

「気になること?」

「『もしその話が本当だとして、神子が決まったと同時に「障り」がいなくなるってことは、その時芽吹いた種の中から神子が決まらなかった場合、延々と「障り」は芽吹き続けるのかもしれないね』って……」


 もし本当にそうなら、やっぱり神子は決めないといけない。

 もしくは『障り』を断つかである。しかし、そのためのアイテムはジャニスの手にあった。


「だから、本当はこんなことしてる暇ないんだけどなぁ」

「でも、もう二週間もなんの進展もないんでしょ?」

「そうなんだよね。ジャニス王子、偽名たくさん持ってるみたいでギルでもなかなか行方追えてないみたいだし。『またね』って言ってたから、何か接触してくると思ってたんだけど、結局なにもないし……」

「接触しに来られたら、それはそれで困るでしょ」


 リーンは呆れたようにそう口にする。

 そして、肩を落とすセシリアの肩をまるで鼓舞するように叩いた。


「まぁ、今は諦めてこっちを手伝いなさい! 冬休みも今回は実家に帰らないんでしょ?」

「うん、そのつもり。お父様とお母様に何かあってもいけないしね」


 ジャニスが接触してくるかもしれないのなら、用心はしておくべきだろう。

 もし実家に帰って両親が巻き込まれたとなったら、後悔しても仕切れない。


「アンタが帰らないんならギルバートも帰らないんでしょ? ルシンダ様もエドワード様も寂しがるでしょうね」

「まぁ、ちゃんと夏休みも帰ってるし、大丈夫だよ! 降神祭の時もあったしね。手紙では『あとで物送る』とか書いてあったから、きっとレナのスコーン送ってくれると思うんだ! 届いたらお茶会しようね!」

「気が向けばね」


 そうぞんざいに言うが、彼女の気が向かなかった試しなんて一度たりともない。

 基本的に彼女は付き合いがいいのだ。

 セシリアはその返事に満足したような笑みを浮かべたあと、手押し車に乗っていた箱を手にとる。そして、先ほどと同じように出店の近くまで運んだ。


「それにしても、この箱重いね。なにが入ってるの?」

「あっ!」


 セシリアは箱を開ける。すると中に入っていたのは――


長くなったので、分けました.

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絵が無いのだからセシルの時はセシル、セシリアの時はセシリアと書いてくれないと分かりずらい 逆になぜセシルの時にセシリアを使うのか意味がわからない 冒頭の「リーンの前で~」だと正体を知っているリーンの前…
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