エピローグ2
それから一時間も経つ頃には、ツヴァイの緊張も解けていた。未だに申し訳なさそうにうつむいているが、会話を振られれば微笑みを見せ、質問にもつっかえることなくきちんと受け答えしている。
何かあればアインもすかさずフォローに回っているし、これならすぐに皆と打ち解けることが出来るだろう。セシリアはほっと胸をなで下ろした。
ツヴァイとアインの方から、ジェイドの大きな声が聞こえてくる。
「つまり、どちらかが持っているものを『複製』して『転送』すると、『共有』になるって事?」
「うん。『転送』だけだと自分が持っていたものはなくなっちゃうし、『複製』だけだと一人が二つ持つことになるでしょ? だから、『転送』と『複製』を同時に使って、初めて『共有』って能力になるんだ」
「なんだか二人とも便利そうな能力だよね。『複製』なんて、商品の量産にめっちゃ使えそうだし! 『転送』も輸送費かからなくてよさそうだなぁ」
アインとツヴァイの二人と特に仲良く話しているのは彼だった。元々人なつっこい性格だからか、セシルとツヴァイの間にあったことを察していないからか、はたまた彼の商人気質がそうさせるのか、ジェイドは食い気味に二人の話を聞いている。
「そんないいものでもないぞ? 俺たちの能力は、制限もあるし、コストもエグいしな」
「制限?」
ジェイドが首を傾げると、アインはまるで幼子に教えるように人差し指を立てた。
「『複製』は俺が形とか形状をきちんと理解してないと作れないから、複雑なものは難しいし、基本的に生き物とかは無理だ」
「『転送』も僕が指定してる場所、五つまでしか転送場所を選べないしね」
「要するに、簡単なものしか複製できないし、決められた場所にしか転送できないって事?」
ジェイドの言葉に、ツヴァイは首肯する。
「うん。しかも、触ったことのある場所しか転送場所に指定できないんだよ。セシルを送ったときは、何かあるかもしれないと思ってリーンの服をその五つの中の一つに登録してたからなんとかなったんだ」
そういうことだったのか、とセシリアは一人納得した。飛ばされたときは焦っていたこともあり、殆ど何の説明も受けてなかったので、どこに飛ばされるのか、どうしてそんなことが出来るのかは、まったく理解していなかったのだ。リーンの服は、おそらく騎士として一緒に馬車に乗ったときに登録したのだろう。
ジェイドはさらに双子に身を乗り出した。
「コストってのは?」
「腹が減るんだよ。要するに、体力をごそっと持って行かれるってわけ」
「形状や距離、物体の大きさにもよるけど、アインは一日に大体二十ぐらいまで。僕は一日に三人運んだら、もうあとはヘロヘロだよ」
「お互いの間なら、殆どコストがかからないんだけどな?」
「他の人と記憶の共有はできないけど、僕たちの間なら出来るもんね?」
能力を掛け合わせたり、お互いの間だとコストがかからなかったり。別々の能力でありながら、双子らしい能力だ。ジェイドもそう思ったのだろう「なんか双子って感じのする力だね」という感想を述べていた。
「だから、少しでも力を使った後は、甘い物が欲しくなるんだよな?」
「いつも大体、二人で食堂のプリン食べてるよね?」
アインとツヴァイが仲良くお互いを見つめ合ったその時、セシリアははっと何かに気がついたように顔を跳ね上げ、席から立ち上がった。
「そういえば!」
「どうしたの、セシル。いきなり立ち上がって」
「この前ね、料理長さんに焼きプリンのレシピもらったんだよ!」
驚くギルバートに、セシリアはそういって頬を引き上げる。そして、双子の席に近づいた。「二人とも、プリン好きだよね? 俺、作るから一緒に食べない?」
「え? いいの?」
「お前のお手製なのか?」
「うん! 実は前に、二人にあげようと思って練習したんだけど、失敗しちゃって……」
恥ずかしそうな顔でセシリアは頬を掻いた。それをすかさず止めたのは、前回の被害者その①オスカーである。
「お前! 失敗した原因がわかるまで料理はするなとあれほど……」
「原因、わかったんだよ! 料理長さんが教えてくれたんだ!」
ほくほくとした笑みでそう言われ、オスカーは口をつぐむ。そんな彼にセシリアは得意げに胸を反らした。
「初心者は火入れのときに一番失敗するんだって! なんか火加減が強すぎて、泡みたいな、『す』ってやつ? ができちゃうらしいの! 料理長さんが『プリンで失敗するってのは、それぐらいしか考えつかねぇ』って!」
「まぁ、確かに火は入れすぎだったけどね。入れすぎて表面炭になってたし……」
前回の被害者その②ギルバートは、遠くの方を見つめながらそう呟いた。早くも悟りの境地である。それでも自分が食べないという選択肢がないところが彼の素晴らしいところだ。
ちなみに前回の被害者その③はセシリアの言葉に身を震わせ、目を思いっきりそらしていた。こちらには再チャレンジの意思はないようだ。
「皆に作る予定だったんだけど、二人にもごちそうするね」
「え? そんな、悪いよ……」
「いいのいいの! 疲れが取れるように、砂糖いっぱい使っちゃうね!」
これが、前回砂糖を一瓶プリンにぶちこんだ女の発言である。
まさか目の前にいる人間が、ありとあらゆる物から毒を作り出してしまう天才だと知らないツヴァイは、ただ単純に申し訳ないとセシリアの申し出を断っていた。
「だって僕、セシルに迷惑かけたのに、プリンまで作ってもらうとか……」
「いいんだって! 二人に食べてもらいたくて練習してたんだし!」
「でも……」
「ツヴァイ様」
迷うツヴァイの肩に手を置いたのはリーンだった。そして、満面の笑みでこう提案する。
「セシル様の料理、良かったら食べてくださいな」
「え?」
「私、それぐらいの罰は受けても良いと思いますの!」
晴れやかな笑みでそう言う彼女に、ツヴァイは固まったまま「え、罰?」と首を傾げた。
すかさずギルバートが「リーン、セシルの料理を『罰』って言わないでもらえますか?」というが、彼女は聞いていない。どうやらリーンも、セシリアの首の痕については相当おかんむりらしい。
リーンがもう一歩ツヴァイに迫ろうとしたその時、サロンの扉を叩く音がした。
オスカーが「入れ」と声をかけると扉が開き、教会の兵士が二人部屋に入ってくる。彼らはセシリア達を見ると、背筋をぐっと伸ばした。
「神子候補様、騎士様。本日はお疲れ様でした!」
ハキハキとしたその声に、一同は困惑した表情で顔を見合わせた。そんな彼らに構うことなく、兵士はこう続ける。
「神子様が神子候補様と騎士様にお会いしたいとおっしゃってるのですが、ご一緒に神殿に来ていただけないでしょうか?」
その瞬間、セシリアの脳裏にグレースとの会話が蘇った。
『「障り」を完全に祓う絶対条件として、現在の神子が住まう神殿に入る必要があります』
『どうして?』
『理由は複数ありますが、一番は『障り』を祓うために必要となる、とあるアイテムを入手する必要があるからです。そして、神殿に入るためにはトゥルールートを開く必要がある』
セシリアとリーンとグレースは互いを見つめ合い、そして、小さく頷いた。
これは――
(トゥルールートが開いた!?)
三部終了しましたー! 駆け抜けたー! 楽しかったです^^
一緒に走ってもらって、ありがとうございました!
四部もどうぞよろしくお願いいたします!
(一ヶ月後ぐらいに更新再開できたらな……とか思ってます!)
面白かったときだけで良いので、ポイントの方いただけるとありがたいです!
それでは、四部連載まで失礼いたします><




