41.バッドエンドの会場へ
長かったので、分けました!(なので一気に二話更新)
二人の頭上に星が回る。額はどちらも真っ赤になっていた。
いち早く自身を取り戻したセシリアは、ツヴァイの顔に広がった痣がないことを確かめる。
(痣、ちゃんとなくなってる……)
セシリアは息をつき、ツヴァイの腹の上から降りると、その場にへたり込んだ。
多少強引だったが、ちゃんとこれで祓えたらしい。
「もー、やだ。つーかーれーたー!」
全身の筋肉が弛緩して、汗がどっと噴き出る。肺の空気をすべて吐き出せば、隣に寝転がっていたツヴァイが「……なにやってるの」と呆れたような声を出した。
「ツヴァイ」
「なんか僕、おかしくなってたね」
「気分は?」
「……最悪」
彼は起き上がり、セシリアの腕を縛っていた縄を解く。何時間も縛られていただろう彼女の腕はこれでもかと赤くなっていた。所々、水ぶくれのように腫れ上がってもいる。
ツヴァイはセシリアの腕を見て、顔を歪めた。
「僕ほんと、なにやってるんだろ。こんなことで怒って、セシルのことまで殺そうとして。アインだって心配してるだろうし、皆だって……」
彼は壁に背を預けた状態で、膝を抱え、小さくなる。
「どうしよう。さっきより、今の方が数倍死にたい」
消え入りそうな声に、セシリアは彼の頭をぺちっと叩いた。
「死にたいなんて言わない」
「セシル……」
「世の中にはね、死にたくなくても、死んじゃう人がいるし。生きたくても、生きれない人がいるの!」
ツヴァイの顔がゆっくりとセシリアを見上げた。
彼女は落ち込む彼を勇気づけるように頬を引き上げる。
「お母さんに救ってもらった命でしょ。アインに守ってもらった命でしょ。だから、簡単に死にたいとか言っちゃダメ。みんな、悲しむよ」
彼女は隣に座るツヴァイに身体を預けるようにしながら、頭を合わせる。
「それでも、どうしても弱音吐きたくなったら、また俺が聞いてあげるからさ。簡単にそういうこと言うようになっちゃダメだよ?」
「うん」
「絶対だよ?」
「……わかった」
ツヴァイがそう頷くと、セシリアは「それなら、よし!」と満面の笑みを浮かべる。
彼も膝に口元を埋めながら、困ったような顔で唇を引き上げた。
「ってか、もう夜明けたねー」
「皆、探してるかな」
「探してるかもねー」
途中から気づいていたが、もう太陽はそれなりの位置へ来ていた。目が覚めたのがちょうど夜明け前だったらしく、結構すぐに太陽が昇り始めたのだが、正直その時はそれどころではなかった。
(これは怒られそうだなぁ……)
セシリアは苦笑いを浮かべた。
もう二人が消えてから結構な時間が経っている。もう当然、皆二人がいなくなったことには気がついているだろう。もしかしたら、心配して探し回ってくれているかもしれない。
それに今日は、降神祭本番日だ。本当なら、明け方近くから祝詞を上げるリーンの側で、セシリアは彼女と一緒に夜明けを迎えないといけなかった。それが騎士の役割である。
(ま、七人もいるんだし、その辺はなんとかなってるか――……あ?)
なにか大事なことを忘れている気がして、セシリアは天井を見上げる。そして、しばらく固まった後に、顔を青くさせ、勢いよく立ち上がった。
「やばい!」
「どうしたの、セシル」
「リーンが! このままじゃ、リーンがあぶないかも!」
セシリアは唇を震わせる。
彼女の頭に浮かんでいたのは、グレースのとある言葉だった。
『私も話を聞いて思い出したんですが、「主人公とジャニス王子が降神祭で会う」ことが分岐のバッドエンドがあるんです』
ルートの発生条件は、『降神祭の神子代理に選ばれたにもかかわらず、ノーマルルートへ行くための好感度には達しておらず。さらに、特定のキャラクターからすごく嫌われている』という希有なものだったが、よく考えてみればリーンにそれが当てはまらないでもない。
そして分岐は――
(私がジャニス王子に会っちゃってる!)
これまでも、主人公の代わりをセシリアが務めてしまうことが希にあった。今回もそうだとは限らないが、代わりを務めてしまっている可能性は十分にある。
「ねぇ! ここ、どこら辺? アーガラムとはどのくらいの距離?」
「えっと、徒歩だと二時間ぐらい?」
「二時間!? それじゃ、間に合わない!」
もし本当にバッドエンドに向かっているのだとしたら、時間的猶予はもうない。むしろ、今すぐ行けたとして遅いぐらいかもしれない。二時間なんてとてもじゃないか余裕はない。
「リーンのところに行きたいの?」
焦っている彼女にツヴァイが静かな声で問う。
セシリアがそれに頷くと、彼は立ち上がった。
「わかった。じゃぁ、僕が今すぐに連れてってあげる」
「……どうゆうこと?」
セシリアが目を丸くすると、ツヴァイは自身の宝具を触った。
「僕らの本当の能力は『共有』じゃないんだ」
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