表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

108/230

26.降神祭・灰の週 一日目

 地面に等間隔に置かれたオレンジ色のランプ。そよ風にはためく蜘蛛の巣や埃を模した飾り。建物に掲げられているのは黒色の旗で、道の端にはドクロの形をした置物が置いてある。

 人々は皆、黒いワンピースや古着をつなぎ合わせた衣装で身を包み、顔にはわざと煤やすりつぶした実などで汚れをつけていた。足下ではしゃぐ子供たちの中には、木で出来たお面をつけている者もいる。


 十月二十三日。降神祭・灰の週一日目。

 現代のものとは多少違うが、ハロウィーンの開催である。


「やっぱりこうなるのね……」


 ヴルーヘル学院の入り口にあるアーチ型の門の前でそう肩を落としたのは、リーンだった。目の前には純白の煌びやかな屋根のない馬車。彼女の装いも、真っ白で重そうな修道服をモチーフとした神子としてのものである。

 その隣に並び立つのは、黒い軍服のような装いのセシリアだった。

 ちなみに、御者は馬を繋いだまま書類等の確認でその場にいない。

 落ち込むリーンを励ますように、セシリアは彼女の肩を叩く。


「まぁ、こればっかりはしょうがないよ」

「アンタねぇ。人ごとだと思って……」

「人ごととは思ってないけどさ。だってこれ、ゲームのシナリオ通りの展開だし、しかたなくない?」


 困ったような顔でセシリアがそういうと、リーンが口をとがらせながらそっぽを向く。『そんなことわかってるわよ』とでも言いたいのだろうか。


 降神祭では、毎年、神子がプロスペレ王国の首都であるアーガラムを、聖騎士と共に馬車で回るのが通例となっていた。しかし、今回は体調不良を訴えた神子の代わりに神子候補であるリーンがその役目を負うことになってしまったのである。


「こんなの、セシリアがすれば良いのに! 私、宝具一つももらってないし、好感度も無駄に上げてないのに!!」

「仕方がないよ。今の私は、神子じゃなくて騎士なんだし……」

「でも、ルール上ではセシリアが選ばれるべきでしょう? こんなの不公平!」


 相当やりたくないのだろう、リーンはいつになく不機嫌な顔で頬を膨らませる。そんな彼女にセシリアは苦笑いを浮かべることしか出来ない。


 ゲームでの降神祭は、いわゆる中間発表イベントになっていた。つまり、この時点までで騎士達の好感度をより集められている神子候補が、神子の代理として騎士とともに街を回る仕様なのである。

 一緒に回る騎士は持ち回り制で、『灰の週』の七日間と『明の週』の七日間、それぞれ一日ずつ神子候補について回る。

 大変なお役目なのは確かだが実際に拘束されるのは二、三時間程度で、それ以外の時間は学院も休みなため、完全なる自由時間になっていた。ゲームでは、その日一緒に回った騎士の好感度が高かった場合、デートに誘われ、了承すればデートイベントが発生する仕様になっていた。

 そして、『灰の週』記念すべき一日目に選ばれた騎士が、セシル(セシリア)だったのである。


「しかも、その服! 私が作った服じゃないし! ゲームでギルバートが着ていた衣装だし!! 吸血鬼の衣装はどうしたのよ! セシルには絶対あっちの方が似合うのに!」

「これも仕方ないよ。着ろって配られたやつだし……」

「でも私、頑張って作ったのに!」

「それはまぁ、ごめんね?」


 いつになく荒れ気味の彼女に頭を下げるが、彼女はまだプリプリと怒っている。


「これ、騎士だけのイベントだからヒューイくんは関係ないし、あんまり好きじゃないイベントだったのよねー。もー、セシリアが男装してるせいで、こんなことに……」

「だから、ごめんって。……どうしたら許してくれる?」


 セシリアがリーンを覗き込むと、彼女は恥ずかしそうに頬を染め、もじもじと指先を合わせる。


「それじゃぁ、もう一度あの服着て、殿下との絡み絵描かせてくれたら許してあげる」

「それは、やだ」

「なんで即答なのよ!」

「リーン、それやらせたいがためにごねてたでしょう! 私、本当に申し訳なく思ってたのに!」


 セシリアにとって『男装をすること』は『命を守ること』だ。しかしそのせいで、リーンの運命に皺が寄ってしまったことは、本当に申し訳なく思っていた、のに……


「当たり前じゃない! 目的のために手段を選ぶのは三流のやることよ! 私は全力で、自分の目的を果たしに行くんだから!」

「それは、親友()を困らせてまでやることなの?」

「私だって本当はこういうことしたくないのよ? でも、『理想の攻め』を親友に持った私の気持ちなんて、貴女にはわからないでしょ?」


 そんなもの、わからないし、わかりたくもない。

 どことない哀愁を漂わせているリーンに、セシリアはため息をつきながら首を振る。


「もー、とにかく嫌だからね。今後、ああいうことは一切いたしません」

「……」

「本当にしないからね!」


 リーンはしばらく半眼でセシリアのことを睨み付けていたが、やがて諦めるように首をすくめた。


「まぁ、いいわ! 絡み絵なんかよりも、もっと萌える展開がこの後見れる予定だから」

「……なに企んでるの?」


「ナイショ」

 そう言って唇に人差し指を当てる彼女は、やっぱり可愛らしいヒロインだった。


面白かった場合のみで結構ですので、ポイント等よろしくお願いします。

コミカライズも、書籍もよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ