24.リーンの企み
数字じゃなくて、タイトルをちゃんとつけて欲しいと言う意見をいただいたのですが、皆様もそうですか?
そういう人が多いようなら、数字の後にタイトルつけようかなぁって思っています。
またご意見聞かせてください。
降神祭まで一週間を切ったある日。セシリアはシゴーニュ救済院のとある一室にいた。
目の前には鏡。しかし、その鏡に映っているのは、いつもの自分の姿ではなかった。
粉をはたいた白磁のようなきめ細やかな肌に、神秘的な薄い紫色のアイシャドウ。髪は流れるような白銀で、腰の辺りまでストンとまっすぐに落ちている。着ている白いドレスは貴族達が舞踏会で着るようなものではなく、シンプルなワンピースといった感じで。しかし、身体を覆う薄い布が、その神聖さをまた一段階も二段階も引き上げていた。
「ほら、完成したわよ!」
「うーわ……」
セシリアは全身鏡に映る自分の姿に頬を引きつらせる。その後ろで彼女を仕上げただろうリーンは誇らしげに胸を反らしていた。
「これが本番の時の衣装とメイク。どう素敵でしょ?」
「いや、素敵だけどさ。……これ本当に女だってバレない?」
「バレないバレない! 大丈夫よ! 今日の稽古からこれで出てもらうから! 裾の辺りとか踏んじゃわないように気をつけてね」
「それは、気をつけるけど……」
セシリアは困惑した顔で、もう一度自分の姿を見直す。本当に当たり前の話なのだが、鏡に映る自分は、どこからどう見ても女性だった。セシルだったときの姿なんて、もう微塵も残っていない。まぁ、セシリアとしての姿も殆ど残ってはいないので、それはそれでありがたいのだが……
今日からの稽古は実際にできあがった舞台と衣装ですることになっていた。もう台詞も演技も頭に入っているので、後は最終調整を兼ねたリハーサルを重ねていくだけの段階だ。
セシリアは屋外にある舞台に行くため、リーンと共に部屋を出る。そうして隣を歩く彼女に前々から思っていた疑問をぶつけた。
「ねぇ。本当にオスカーとギルには、舞台のこと内緒なの?」
「そうよ! 本番まで学院の生徒には誰にも内緒。特にその二人には絶対に言わないでね?」
「どうせ、前日とか当日には学院でも告知するのに?」
「あら。それはわかってるのね」
意外そうな声でリーンは肯定を示す。
自分で言うのもどうかと思うのだが、セシルが舞台に立つという話になったら、見に来る生徒は大勢いる。入場料を取るかどうかは聞いていないが、もし取るのだとしたら、そのお金を彼女が取り逃がすはずがないと思ったのだ。
なのにリーンは学院の生徒、特にギルバートとオスカーには舞台のことは言うなと、セシリアにキツく言っていたのである。
「どうせ告知するんなら、今から言っておいても別に良いんじゃないの? その方が来てくれる人増えるだろうし……」
「あら? もしかしてセシリアって、二人に見に来て欲しいの?」
「そういうんじゃないけど、後で怒られるの怖いしさ……」
目を閉じれば『なんで言ってくれなかったの?』とこめかみに青筋を立てる義弟の姿が思い浮かぶ。オスカーだって、自分が舞台に出ることを黙っていれば、また悲しい顔をするだろう。
「ま、当日には知らせるから問題はないわよ! だけどそれまでは内緒」
「なんで?」
「だって、前々から知らせてたらサプライズにならないじゃない!」
楽しそうな顔で人差し指を口元に持ってくる彼女は、やはり何か企んでいるようだった。しかし、その企みが何かはセシリアには計り知れない。
「ま、セシリアは何も心配しなくても大丈夫よ。とにかく、あの二人には何も言わないこと! それだけは守って」
「……わかったけどさ」
不承不承に頷く。彼女が何を考えてるかわからないが、ここは彼女に従っておくべきだろう。
二人は救済院から出る。併設されている教会にの前にはもう大きな舞台が立っていた。その周りを救済院の子供達が走り回っている。時折「リーンおねぇちゃん!」と彼女を呼ぶ声がなんだか微笑ましい。
「それよりさ。あれからツヴァイはどうなったの?」
「ツヴァイ?」
「あの倒れた後よ。こっちの手伝いにもアインしか来ないから、結構心配してたのよ? アインに聞いても無愛想な顔で『大丈夫だ』としか教えてくれないし!」
アインの相変わらずの心の閉じっぷりに、セシリアは苦笑いを零す。そして、彼の代わりにツヴァイの近況を口にした。
「ツヴァイ、あれからちょっと体調崩しちゃったみたいでね。学院には来てるみたいなんだけど、手伝いとかは難しいみたい。あ。でも今日はちょっと顔を出す予定だって、朝、アインが言ってたよ!」
「そう。それなら、その時がチャンスね」
「え? チャンス?」
首を傾げるセシリアの鼻先に、リーンは人差し指を近づける。
「そ。仲良くなるチャンス! 双子の攻略って、どちらか一方の好感度ばっかり上げてたらダメなんでしょ? ツヴァイともちゃんと仲良くならなきゃ!」
「え。でも、ツヴァイとはもう十分仲が良いし!」
戸惑うような声を上げるセシリアに、リーンも首を傾げる。
「あら。でも私から見たら、アインはもっとアンタと仲良く見えるけどね」
「え?」
「それこそ、らぶ、みたいな?」
手でハートを作ってみせる彼女にセシリアは半眼になる。
「そんなわけないでしょ。なんでリーンってば、男同士で仲良くしてるのを見るとそういう妄想しちゃうかなぁ」
「うーん、妄想なのかしら」
自分でもよくわからないのか、彼女は腕を組み、唇をとがらせた。
「でもまぁ、よく考えてみたら、人の心ってわからないものよね。何を考えてるか、どう思ってるか。何が好きで、何が嫌いで、何が地雷か」
「そうだね」
「好感度の見えないこの世界で、それを同時に上げるって。案外、双子の攻略ってすごく難しいのかもね!」
リーンにとっては何気ない言葉だったのかもしれない。しかし、その言葉にセシリアは言い知れない不安を感じたのであった。
次は、ギルセシ回になります。喜んでもらえると良いなぁ。
あと、3部の6。台詞を少し足しています。セシリアの感情を付け足しただけなので、読まなくても支障はありませんが、気になる方がいれば是非。
面白かった場合のみで良いので、ポイント等よろしくお願いします。
書籍もコミカライズもよろしくお願いします。




