23.ダンテとオスカーと不穏な雰囲気
この話を書くにあたり、少しだけ前の部の『ダンテとマーリン』の中身を変えております。
つじつまを合わせるためにちょこっとだけ!
読む必要はありませんが、もし読んでもいいよと言う方は読んでみてください><
その場が解散になったのは、それから十五分ほど後のことだった。
言い負かされて悔しいからか、寮とは反対側に行くアインに、一緒に帰るギルバートとセシリア。教室に用事があるのを思い出したオスカーは、彼らとまた別の道を歩いていた。
近道に中庭を突っ切る。
「ふぅ……」
何もしていないのに、どっと疲れが肩にきた。呼吸とともに落とした視線の先にある足はいつの間にか止まっている。そして、側で感じるわずかな気配。
オスカーは顔を上げた。
「ダンテ? いるのか?」
小さくそう呼びかけると、霞のような気配ははっきりと形を取った。
「最近、オスカーもわかってきたね!」
いつの間にか背後にいた彼は、オスカーの首に腕を回しながら楽しそうにそう言う。
オスカーは先ほどの疲れを上乗せしたようなため息をついた。
「見つけて欲しくてわざわざ気配を出しているくせに、そういうことを言うな……」
「『わざわざ出してる』ってところを『わかってきてる』あたりが嬉しいんだよ、俺は」
「見つけて欲しいなら、普通に出てこい」
「やだなぁ。それじゃ、面白くないでしょ?」
背中にべったりとひっついてくるダンテをそのままに、彼はもう一度大きなため息をついた。
「……それで『調べる』と言っていたのは、何か成果があったのか?」
「オスカーは、まさか俺が手ぶらで帰ってきてると思ってるわけ?」
「まぁ、手ぶらならそこまで機嫌はよくないだろうな」
「やっぱりオスカー、わかってる!」
苦しいくらいに首を絞めてくる友人の腕を叩いて止める。
機嫌の良い彼はオスカーの首を絞めていた腕を緩めると、そのままの体勢で声を潜めた。
「やっぱりジャニス王子、この国に入ってるみたいだよ? 北方の関所が一つ買収されてたみたい」
「どこ情報だ?」
「マーリン」
その名前を聞いた瞬間、オスカーの目が据わる。
それは以前、セシリアを誘拐した暗殺集団のリーダーの名前である。
怪我をしているところを見つけて一度は捕らえたものの、何者かの邪魔が入り、逃がしてしまったという苦い過去を持つ。
その後、彼女が組織を解体し、ハイマート自体はなくなったのだが『首謀者を捕まえられなかった』という事実と『本来、訓練期間が終わるまで実践で使ってはいけないとされている新兵を実践に使った。しかも、王太子主導で……』という二つの汚点を隠すために、セシルが一人でハイマートを潰したという、あり得ない筋書きの報告書を書かざるを得なくなった。その原因の女性である。
「……お前、あいつらとは手を切ったんじゃないのか?」
「ほら、ハイマートは抜けたけど、マーリン達は家族だからさ!」
「……」
じろりと睨み付けるように見ると、ダンテはペロッと舌を出す。
反省はしているが、直す気はないと言うことだろう。
「大丈夫だよ、その辺はうまくやるから。次期国王様の友人が暗殺集団上がりとか、笑えないもんね」
前に彼から聞いた話だと、本物のハンプトン家は現在国外にいるらしい。資金繰りが厳しく没落しかけていた彼らに、相応の金と新しい身分を渡して、貴族の地位と名前を明け渡してもらったらしい。没落寸前の男爵家ということもあり、社交界に出ることも、他の貴族に構われることもなかったので、なりすましは容易だったという。
ちなみに、ヒューイの身分もそうやって用意したそうだ。
「まぁ、その辺は信用しているが。今後、お前のようなやつがうちの貴族院に入ってこないように、俺の代からは定期的に、貴族には調査もいれないとな……」
「あーぁ、マーリン達が仕事しにくくなることこの上ないね」
「ま、彼女達にはもう少し待ってもらえ。いずれ、俺が使えるようになんとかする」
軍部を任されているオスカーがマーリン達の捜索をあまりしていない理由は、ダンテの家族ということもあるが、彼らをいずれ自分の下につけようというもくろみもあったからだ。
誰にも知られていない、暗殺も出来る少数精鋭部隊なんて、利用価値は山ほどある。
「それは残念だったね、オスカー」
「ん?」
「実は最近、先約が入ったんだよ」
「どこだそれは?」
オスカーの目が細くなる。彼らを買った人間がどこなのかはわからないが、場合によっては今のうちに潰しておかなくなるだろう。
そんな気色ばむ彼にダンテはへらりとした笑みを浮かべた。
「大丈夫。オスカーには無害なところだと思うよ。相手は、とある公爵家の嫡子様だから」
「……ギルバートか?」
その言葉を肯定するように、ダンテはにやりと唇を歪める。
「マーリン褒めてたよ。『ダンテの紹介じゃなくて、自分で私たちの居場所を見つけてきたあたりが見込みある』ってね。あの騒動以降、密かにずっと探してたみたいだね」
ダンテはオスカーから身を離し、くるりと彼の前に躍り出る。
「ま、今は学生の身の上だし、まだ手紙だけのやりとりだから、すぐにって話じゃないけどね。でもまぁ、セシルのこともあるから、マーリンはお抱えになるのに前向きみたいだよ?」
「それは、してやられたな」
そう言いながらもオスカーは悔しがるそぶりを見せない。ギルバートが扱うのならば自分の敵にはならないと踏んでいるのだろう。
逆に悔しそうな声を上げたのは、ダンテの方だった。
「えー。それはひどいなぁ。マーリン達なんかより、俺の方がずっと役に立つよ? マーリン達の情報は基本俺に筒抜けだし、あいつらと俺が戦っても、俺が勝つし。基本的に上位互換だからさー」
「それは、知ってる」
間髪入れずのオスカーの答えが気に入ったのだろう、ダンテは「知られてたかー」に浮ついた声を出した。そうしてもう一度彼の首に手を回す。
「それにしても、ジャニス王子の件が心配だね。あの人よくない噂が多いからさ」
「まぁ。ただのお忍び旅行なら問題ないんだけどな」
そう言いながらも、オスカーの眉間には深い皺がくっきりと刻まれていた。
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