21.可愛い婚約者の奇っ怪な行動①
遅くなりました!
今日もオスカーの可愛い可愛い婚約者は、彼の理解が及ばない事をしていた。
「ほら、セシル貸せよ。その荷物も持ってやるから」
「あ、これは大丈夫だよ! 重たくないし!」
「大丈夫かどうかは俺が決める。いいから貸せ!」
そう言って、セシルことセシリアから鞄をひったくるのは、マキアス侯爵家の嫡子であるアインだ。彼は二人分の荷物を両手で持ちながら、彼女の隣を歩く。
セシリアも最初は戸惑うような顔を見せていたが、会話が始まるといつもの朗らかな笑みを浮かべ、楽しそうな声を上げていた。
そんな仲睦まじい二人の後ろを歩きながら、オスカーは眉根を寄せる。
(そういえばアイツ、マキアス家の双子と仲良くなりたいとかなんとか言ってたな……)
三日間ほど腹痛に悩まされたあの毒プリンも、元は双子に食べさせるために作ると言っていたものだし。その前のお茶会だって、セシリアは彼らと会うために参加しているというようなことを言っていた。
(つまり、念願叶ったと言うことか……)
肩を揺らす横顔の彼女に、オスカーは面白くなさそうな表情を浮かべる。 あまり嫉妬のようなことはしたくないと思っているのだが、顔が勝手にそうなってしまうのだから仕方がない。
こちらのことには気がついていないのか、二人は時折肘で互いを小突くようにしながら前を歩いていた。
「それよりさ。アイン荷物重くない? 大丈夫?」
「大丈夫だ。お前は気にしなくていい」
「でも……」
「責任はちゃんととるって言ったろ?」
(責任?)
ふと耳を掠めたその単語が気になった。
責任というのは一体何のことなのだろう。アインが彼女になんの責任を感じているのだろうか。
そう考えをめぐらせている間に、彼の身体は勝手に動いた。足早に彼らの背後に近づき、肩を叩く。そうして「おい」と声をかけた。その声に彼女たちは同時に振り返る。
「あ、オスカー!」
「殿下」
「お前たち、なにをしてるんだ?」
その問いにセシリアは意味がわからないという感じできょとんと目を瞬かせる。しかし、オスカーの視線がアインの手元にあることを知って、彼女は合点がいったとばかりに頷いた。
「あぁ、えっと、これはね! アインに――」
「俺が自分で持つと言ったんですよ」
セシリアが責められるとでも思ったのだろうか、アインはまるで彼女を庇うようにオスカーの前に立つ。慇懃無礼なその態度に少しだけムッとしたが、すぐに矛は収めた。こんなことでいちいち腹を立てていても仕方がない。
オスカーは咳払いを一つした後、アインに向き直る。
「別に俺は、君たちのことを責めているわけでも、非難しているわけでもない。ただ、どうしてそんなことになっているのか知りたかっただけだ」
「それは……」
「その鞄、そんなに重たい物でも入ってるのか?」
オスカーはアインからセシリアの鞄を手に取る。しかし、彼女の鞄は自分が持っているものと重さはほとんどわからなかった。むしろ、軽いぐらいである。
首を傾けるオスカーに、アインは一歩踏みだし、さらりとこんなことを宣った。
「実は、俺が先日コイツのことを傷物にしてしまって……」
「は?」
(キズモノ……?)
意味がわからずに固まる。
きずもの、キズモノ、傷物……。
直訳するなら、単に『傷つけた』という意味になるのだろうが、これが男女の間での話になると途端に意味が変わってきてしまう。
(いやいや、そんなまさか! セシリアだぞ!? あの『男女』の『だ』の字も知らなそうなセシリアが! そもそも、俺のセシリアがそんな事をするわけ……)
しかし、『もしかして……』を想像してしまったオスカーの顔は一瞬にして青くなる。必死に首を横に振って抵抗をするが、どうにもこうにも嫌な予感が拭えない。
そんな彼を気にすることなく、アインはさらに続けた。
「だから、身体に負担をかけないように、俺が荷物を持っているんです」
「……そうか」
(というか、コイツは今男の格好をしているんだし、そういうことはないか。あり得ないな。……あぁ)
返事はしているが、心ここにあらずである。
そんな考えをめぐらせて、無理矢理に心の平穏を取り戻した、その時――
「ちょっと、アイン! やめてよ!!」
「何恥ずかしがってんだよ。本当のことだろ?」
「……何もオスカーに言わなくてもさ」
なぜか恥ずかしがっている様子のセシリアに、再び喉がひゅっとなる。
そんな頬を染めるセシリアを、アインはただの友人とは思えない距離感で覗き込んだ。
「もう痛くはないか?」
「さすがにもう痛くはないし、大丈夫だって言ってるのに!」
「でも、昨日も痛がってたろ?」
「昨日……?」
思わず聞き返してしまう。
しかし、呟く程度の声だったので届かなかったのだろう、彼らは固まるオスカーを無視して話を続けた。
「だってあれは、アインが変な体勢取らせようとするから!」
「無茶じゃない。お前が遠慮ばっかりするから、本当に大丈夫か確かめただけだろ?」
「でも」
「『でも』じゃない」
ちゃんと聞いていれば、アインとセシリアがそうじゃないと気づけたのかもしれないが、混乱している彼の頭は完全に事実を別にとらえてしまう。
真っ白になったオスカーにようやく気がついたのだろう。セシリアは心配そうな顔で、彼を覗き込んだ。
「あれ。オスカー? どうしたの? 大丈夫?」
心配する彼女は可愛い。可愛いが、これは当然許しておける事態ではない。
オスカーは心配そうな顔をする彼女の肩を抱き寄せ、今まで自分が出したどの声よりも低い声を出した。
「アイン・マキアス……」
「はい?」
「お前は、誰のものに手を出してるのか、わかってるのか」
「え?」
地響きを感じさせるような声でそう言うと、さすがのアインの頬にも冷や汗が滑った。
これはいろんな人に怒られる予感。
(もし、書籍になったら変わるかもしれないなぁって(笑))
次はギルも出ます。
書籍も、コミカライズも、よろしくお願いします!
面白かった場合のみで大丈夫なので、ポイント等もよろしくお願いします!




