期待されると調子に乗ります
★
「はぁ……はぁ……到着したよ。ここまで来れば、デビルドッグも中に入ってこないから。ごめんね……少し取られちゃって。急に追いかけてくるから」
レイは幽霊のくせに息を切らしながら、なんとか自身の部屋に戻る事に出来た。ベルゼブの部屋は地下三階にあり、俺達の部屋は地下一階。序章のダンジョンというのもあって、最短で十分で着くという話だった。それが頭蓋骨は素通りだったのに、デビルドッグが手の骨は貪欲に狙ってきたわけせいで、必死に逃げる羽目に……
レイと同化した右手も狙ってきたし、俺の左手はデビルドッグに噛み千切らてしまった。手のひらの部分の骨はなく、指の部分は何とか取り返せたけど。
変化 力+2
魔力-1
器用さ ー1
力が+2になった。というのも、噛み千切られた事で骨の先が欠けて、鋭い形になり、一本のとがった骨となったのが原因かも。右手で持つ武器みたいな?
「ここまで来れただけで十分だから。けど、少しばかり休ませてもらうよ」
部屋は洞窟の中ながらも石造りの牢屋で、清潔感がまだある方だ。置物はベッドがあるだけで、レイはそこに俺を置いてくれた。この時、ようやくMENU画面で『ログアウト』が可能になったので、俺はすぐに現実に戻る事にした。
「『スケルトン』をやるのが、こんなにしんどいとは思わなかった。雑魚キャラに追われてる時点で、ボスなんて倒せないだろ」
俺はVRゴーグルを外し、立ち上がったり、腕を回したりと体を動かした。自由に動けるのって最高! VRって凄っ!じゃなくて、現実で体を動かせる事に喜びを感じてしまってるぞ。
「さて……一週間の遅れを取り戻すべく、スケルトンを選んだけど、全く攻略出来る自信が無くなったよな。何か他に良い種族は……」
幾つかの『魔』の掲示板を確認してみる。俺がプレイしていたのは二時間で、それだけの時間でも情報や攻略は更新されていく。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
300 名前 名無しのゴブリン
お、おい。見たか? 初期魔物欄が100%になってたんだけど
301 名前 名無しのオーク
マジか! ついに魔人天生にスケルトン誕生!
302 名前 名無しのサハギン
いや……まだだ。赤数字だし、まだ序章みたいだから、すぐに辞めてしまうかも
303 名前 名無しのハーピー
でも! ログアウト出来る状態まで行けた事自体凄い事ですよ。何も分からないまま、ゲームオーバーになるのが『スケルトン』だったわけですから。期待してしまいます
304 名前 名無しのリザード
ソロ推奨されてるけど、スケルトンのプレイヤーは協力してあげたい気持ちになるかも。
305 名前 名無しのスライム
スライムも不遇です。協力してくれる方、募集中です。
306 名前 名無しの吸血鬼
スケルトンの始め方とか書いてくれないかなぁ。スケルトン強い説が事実なら、人魔大戦で増えて欲しいぞ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「おおっ! 凄い期待されてるんだけど……俺の事で合ってるよな?」
まさか、ログアウト出来る状態まで行った人さえもいなかったとは……運も実力の内で、期待されるとヤル気が復活してくる。
「他の種族で序章はどうだったか参考に……いや、ここまで来れたのなら実力で行くしかないか! 」
俺は掲示板に乗せられる形になってしまったけど、気持ちを新たに再度ログインする事にした。
「うおっ! 」
「あれ? 突然消えたと思ったけど、目の錯覚だったんだね。もう休まなくても大丈夫なの?」
ログインしてすぐ、ゾンビが覗き込んでる事に驚いた。レイは幽霊だったのが、いつの間にゾンビになってるんだ?
「君に右目をくれたゾンビ、草井さんだよ」
それも、すぐに横にレイ本人がいたから、別人だとすぐに分かったんだけど。
「あっ……そうなんだ。ありがとうございます」
ゾンビは俺にあげた右目が気になって見ていたのか、興味が無くなったみたいで、部屋を彷徨き始めた。草井さんって、ゾンビだから『臭い』=『草井』から取った駄洒落じゃないよな?
「ベルゼブの選別から逃れるためにいるんだよ。ここから出る事も、外への扉が塞がれてるの。私もすり抜けれないし」
選別……ゾンビだから餌扱いなんだな。ベルゼブを倒さないと外に出れないのは俺と同じなのかも。
「というわけで、ポン骨にお願いがあるの。ベルゼブを倒すのに協力して欲しいんだ。奴を倒せば、自由になれると思うんだよ」
なるほど。レイはベルゼブを裏切るつもりなんだな。俺を助けたのも善意じゃなくて、ちゃんとした理由があったわけだ。