MAP
狼男はテントの中に入っていく。脱出アイテムは必需品と言うわりには、交換する時間はくれないとか最悪だな。中途半端に協力するのも考えたものだぞ。
「私が幾つか持ってるから、別れる時にでも渡してやるよ。それかアイツから盗めばいいさ」
かおリンは商品を置いておくテーブル台を飛び越え、狼男に続いていく。レイはそれをすり抜け、俺はというと……乗り越えられないんだけど。テーブルの下を潜り抜けようにも隙間がないし。
「隠しダンジョンに入る前から高い壁が」
「手伝ってやるよ……うほっ!」
草井さんは俺の尻尾の先を摘まんで、よっこいせとテーブルを跨ぐ。引き摺られる感じにデジャブを感じるけど、テーブルに木の枝が当たったせいで角度が変わり、また変な声を出してる。もう変な性癖がついてしまってるだろ。
「うおっ! 遺跡みたいな感じのダンジョンなんだな。前触れもない事に驚きだぞ」
「はっ? 魔方陣が地面に描かれてただろ」
テントの中に入っただけで、遺跡の中に移動していた。魔方陣が見えなかったのは仕方ない。草井さんは雑で結構な衝撃が……HPも地味に減ってるし。かおリンは移動を楽にしようと、レイに抱えて貰ってるし。前はあそこは俺の場所だったのに。
「今の状態を見れば分かるだろ……草井さんも手を離してくれていいから」
移動速度的にはそっちの方が早いかもしれない。俺は今のメンバーの中最低速なんだけど、これを続けると先にHPが無くなってしまう。ベルゼブの城の時は土だったけど、今回の地面は石。受けるダメージは高いに決まってる。
「この階は一本道で、敵はいなかったはずだから安心していいと思うよ」
かおリンはやれやれとした顔で「MAP! 表示拡大」と口にすると、隠しダンジョン一階の地図が俺達に見える形で表示された。レイの言った通り、一本道になっている。
「特技の一つ『尾香』で一度戦った野良魔物なら、地図に赤い点で表示されるようになってるから。本人は青で、他は黄色だ」
かおリンの『尾香』で赤一つもなく、青が一つと黄色が三つ。敵がいない事は確認出来たわけだけど、黄色がプレイヤーを表示するだけだったら、レイ達の存在に気付かれるところだった。
「おおっ! 俺にもMAPの表示が追加されてる……っと! 地図は最初から全体を見る事が出来るわけ?」
「そんなわけないだろ? 足で稼いだ分だけに決まってるぞ」
声に出すと、手のひらサイズで目の前に表示されたけど、かおリンに見られる前に消した。レイと草井さんが一度かおリンと潜ったせいで、地図が出来てるし。