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「天野さんや空凛さんじゃなくて、今日一番胃を痛めたのは俺だろ。ある意味顔見知りな分、世良君よりも辛いから」
魔人天生にログインする前、一人で愚痴を言っておく。現実の事をレイや草井さんにも言うのも何だしね。今日は週二のバイトがあって、すぐに帰らないと駄目で、放課後に戻ってくるだろう空凛さんと会えなかった。昼休みや休憩時間に捜しに行ったからね。嫌がる阿久野をつれて! 俺達の方が学校内を知ってるはずなのに……天野さんも昼休みは捜してたみたいだから。
「ここは『魔人天生』でストレス発散するしかないんだけど」
おかんが用意した晩飯も食べたし、バイト後は勉強しろとも言われないから、強制退去される事もないぞ。
「ただ……あの二人なんだよな。昨日は強制退去で途中で消えちゃったわけなんだけど」
レイと草井さんの行動が本当に読めないんだよな。装備品? サポーターとして、一緒にいる事になった。レイは俺よりも先に街を覗きに行ったり、かおリンと先に知り合いになったりと自由に行動して、草井に関しては目を離した時には別の姿になってるわけで。あの腕から、ゾンビからゴリラの魔物に種族が変わってても納得してしまいそうだ。
それでも、スマホアプリの放置ゲーなら自動的にレベルが上がったり、道具を取ってきてくれたりするけど、あの二人は想像を越えそうで、とばっちりが俺の方へ来る気がするんだよな。
「そこは気にしたら駄目だな。一応、いきなり消えた事を二人に謝らないと」
魔人天生にログイン。強制退去されたとして、開始場所はマイルーム。俺はベッドの上に置かれ、最初に目に入ってきたのはテーブル前にいる草井さんの背中。お尻に鉄骨が刺さったままだから間違いない。横にはレイ。ゴーストのくせに椅子に座ってる。いつもならレイに運んで貰わないと移動出来ないけど、今はバットの骨がある。強制退去で消えてないのは助かるぞ。
レイ達は俺がログインした事に気付いてないみたいだから、少し驚かせてやろう。ゆっくりと上昇して……大丈夫、上手く飛んでるぞ。後は急降下に挑戦して、テーブルの上に着地してみるのは……
「って、おかしいだろ! 」
驚かすつもりが、こっちが驚いてしまったわ。草井さんの背中よりも高くなるとテーブルの上に何かが置かれてるのが見えたと思ったら、スライム。レイや草井さんみたいなNPCが増えたわけじゃなく、その声に聞き覚えがあった。それは勿論かおリン。
えっ、何? 他プレイヤーは他人のマイルームに侵入出来る程、『魔』パックは自由なの! しかも、和気藹々(わきあいあい)と楽しそうに話してるし。
「あっ! お邪魔してるよ。レイに誘われて入ったのがポン骨の部屋とか驚いたけど。仲が良いからって、他プレイヤーに自由に使わせるのはどうかと思うけど」
レイが誘ったのかよ! しかも、俺の事を心配してなんだろうけど、かおリンに注意されるし。予想外の出来事だし、こいつはどこまで自由なんだよ。