阿久野撃沈
「えっと……人違いかと」
「それなら『ポン骨』だろ? 臭いを人と勘違いする時点で、ゾンビの草井を知ってるんだからさ。昨日あんな別れ方したのに、同じ学校、一緒のクラスになんてね」
誤魔化そうとしたのに、あっさりバレてしまった。まさか、俺が嘘をつくと思って、罠を仕掛けてくるとは。それよりも『あんな別れ方』なんて意味深な発言は止めて。気軽に話してくるのもそうだし、前の席の世良君が驚愕の顔をしてるから。
「はぁ……こっちの方が驚きだよ。年上の人かと思ってたんだから。それにあんな発言するとか」
「思った事を言っただけだよ。周りに合わせる必要はないだろ。それよりも、あれから強化に勤しんでるか? 私の手下になるんだから、強くなっておけよ」
勝つの確定みたいな言い方だな。それとは別に教室内で『手下』という言葉もさ。ちょいちょい聞かれたくない言葉をチョイスするのは本当に止めて。部分的に聞かれると、怪しい関係だから。
「昨日は母親に無理やり止めさせられたから。けど、俺も勝つつもりでいるし」
「母親に止められるとか……こっちでもアンタは面白いのかよ。ポン骨がいるって事は、リア友のレイや草井もいるんだろ? 私に紹介してくれよ」
レイや草井さんはプレイヤーじゃないし、次のイベントでかおリンとの勝負の秘密兵器にするつもりなんだよな。と、何か視線が突き刺さるような……空凛さんと話してる事が注目されて……阿久野! 俺を遠い存在みたいな目で見てる。そんな事ない! 俺はお前と同類だと目で訴えてみる。
「同志! 俺も話に加わってもいいかい」
阿久野は勇気を振り絞って、俺達に声を掛けてきた。それでも空凛さんに対して『同志』はどうなんだろ? 阿久野のも『魔人天生』をやってるから、邪険に扱われる事はないと思うんだけど。
「今のタイミングで来るって事は、彼が草井?」
「えっ? 代…俺から変な臭いがするのか! 後ろの席に天野さんがいるのに」
「臭いじゃなくて、草の井で草井のアバター名だから。こいつは阿久野。魔人天生の『人』パック側のプレイヤーだよ」
「『人』側なら敵だろ? 今はお呼びじゃないから。期待させる登場だから、勘違いするだろ」
空凛さん……毒舌だよ。阿久野が心折れて、自分の席に戻って行く。俺も一応、次イベでは敵だから今慰めるのは……後から飯を奢るとか、優しくしてやろうかな。
「魔人天生をやってる人なら声を掛けても良かったんだろ? 少しは優しく断っても」
「私も一緒に話してもいい? クラスの皆さんが魔人天生をやってなくても、空凛さんに興味があるみたいようだし、こういう雰囲気は私も好きじゃないの」
俺の言葉を遮るように、空凛さんに話し掛ける女子生徒が……天野さん!