私はスライム
空凛薫。俺は只野司代だから、名前の順で前の席になるわけだ。彼女の名前を知ってるのもクラス発表の紙に書かれていて、今日のSHRで紹介する形になってるんだけど。
「ヤバいって! 職員室で転校生を見たんだけど、かなりの美人。タイプは違うけど、天野さんレベル。天野さんが天使なら、転校生は悪魔タイプ?」
「俺もすれ違った! 前の制服を着てたよな? お前の言いたい事分かるよ。綺麗だけど、話し掛けづらそうな感じなんだよね」
天野さんが教室にいるのに、よく転校生と比較出来るよな。とはいえ、天野さんと同レベルの美人が前の席に座るなんて、俺も阿久野みたいに緊張してしまうぞ。まぁ……モブ眼鏡な俺よりも、前の世良君に話し掛けるんじゃないか? それと休憩時間は、俺達の席は奪われそうだ。阿久野の席は天野さん達に。俺の席は転校生に話し掛ける奴等に。
「おい! 席につけ。昨日話したように、転校生の紹介をするぞ」
チャイムが鳴ると同時ぐらいに、担任が教室に入ってきた。その後ろに転校生の空凛。教室の男子達の会話で『悪魔』という意味が分かった気がする。腰に届くまでの長い黒髪に、セーラー服でロングスカート。鋭い目付きにクールな顔立ちで、その姿は女番長な雰囲気を醸し出してるからだな。それに中性的な感じが宝柄女優みたいで、男女ともにざわついてる。
「静かに! 空凛は簡単に自己紹介を頼む」
「空凛薫。私はスライム。魔人天生以外に興味がないから、プレイヤー以外は話し掛けないでくれ」
「『……』」
声も格好良よくて、男っぽい話し方なのは良いんだけど、『私はスライム』って、ぶっこんで来たな! 違った意味でヤバい奴だと思われたって。女子の声で『魔人天生』って何? という声も聞こえてくる。VRゲームに興味が無ければ知らないだろうさ。
「えっと……以上みたいだな。あそこに空いてるのが空凛の席だ」
担任はこの空気を無視して、SHRを早く終わらして、そそくさと教室から出ていってしまった。その後、あの言葉のおかげというべきか、周りは話し掛けるのに一歩踏み出せないでいる。プラス、前の席の世良君は簡単に撃沈されたからな。
けど、俺は気になる事があって、ある言葉を呟いてしまった。自己紹介もそうだけど、世良君を一蹴した声や話し方が似てたんだよ。名前も薫だし、『かおりん』って。こんな偶然あるわけないし、馴れ馴れしいと殴られてもおかしくなかったけど……
「『かおリン』だって……ただの死体……臭いか?」
空凛さんは本当にかおリンっぽい。けど、草井さんじゃないから! 名前がただの死体に似てるからって、ゾンビを選ばないぞ。それに『臭い』じゃなくて、『草井』! 俺と同じ発想だけど、周りからは俺から変な臭いがするみたいじゃないか!