おかんの一撃
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「昨日は最悪だったよ。『魔』の初イベントの発表があって、色々と準備するはずだったのに、おかんに強制退去させられると思わなかったよ」
「それはあるな。VRの時は気付かないから、無理やりゴーグルを外されて、データが破損された事もあった何度もあった。最近だと現実の時間も見れて、目覚まし機能もあるから、それを利用してるな」
俺と阿久野は登校中に会って、昨日の『魔人天生』の話になった。師匠と別れた後、街の近くにいたため、他プレイヤーが、鎧の姿を現したので身を隠した。移動出来ても、かおリンから戦闘のやり方は指導されてなかったんだよな。かおリンには『息』があるけど、俺には体当たりと噛みつきぐらいしかなく、両方とも砕けそうだ。
草井さんなら尻の鉄骨を使わなくても、あの両腕ならなんとかなりそうだったかな? けど、あの姿は明らかに注目を浴びてしまうし、イベントの隠し玉にしたいんだよな。
「それなんだよな。俺もそうしてたんだけど忘れてしまって、晩御飯の声に気付かなくて、外されたんだよ。強制退去は体に怖いから、連絡があるならスマホで連絡してくれって」
最近のVRはスマホと連動していて、現実と連絡が取れるようになってる。それは強制退去した場合、体に負荷があり、データの破損の可能性もあるからだ。序章時にログアウト出来なかったけど、時間が経過すれば親の強制退去があったよな。
「それをされると萎える部分はあるよな。別世界から元に戻らされるみたいでさ。連絡もこっち側の方法が一番……はあ……」
「どうした?」
「昨日、ついにシールダーの職業に就いて、天野さんのギルドに入団が許されたんだ。あの姿、あの声、名前もセシリア、間違いなく天野さんだった」
ため息を吐いたと思えば、自慢話かよ。阿久野がそこまで言うなら天野さんかもしれないけど、意外というべきか。
「天野さんが……ギルマスが人気で、十人目ぎりぎりで危なかったんだよな。彼女を……姫を守る騎士達みたいな感じで、格好良いんだよ。良い人ばかりでさ、男2:女7なんだよ」
生徒がちらほらと見えてきて、天野さんの言葉に反応して、俺達を見てくるので、阿久野はギルマスに変えたみたいだな。VRで注目されたくても、現実で人の目を浴びたいわけじゃない。
「良いじゃんか。ため息を吐くから、何か問題でもあるかと思った。こっちはソロ……で、スライムと顔見知りになったぐらいだぞ」
それにしても、ギルドに女子の方が多いのは羨ましい。こっちはレイと草井さんで、プレイヤーじゃないからな。師匠は次のイベントでは敵だし。
「……ギルマスに個人の連絡先を教えようとしたけど、ゲーム内でもオーラがあるように見えて、無理だったんだよ。ギルド板でメンバー内の連絡は可能だけど」
「個人って……現実の方じゃないよな? 入ったばかりだから、止めてて正解だな」
「現実なわけないだろ。それはもっと仲良くならないと……話せそうにないからな」
そんなハーレムに近いギルドに入れただけで勝ち組なのに、更に欲に目が眩みそうになるなんて。阿久野はゲームだと、俺と一緒にいる時みたいな感じで話せるけど、一人でいると大人しい。後ろにいる天野さんに声を掛けられないからな。それでも、仲良くする妄想はしてるっぽい。
「そろそろ教室だけど、天野さんがいたら『人魔大戦』の話をして、反応を見てみるか?」
昨日、天野さんは少しこっちを見てた感じはあるし、『人魔大戦』のプレイヤー同士で話をしたい気持ちもあるかもしれない。
「天野さんが俺達に声を……ないない! 隠れてやってるはずだぞ。一緒の学校の人とは嫌だからって、退団させられたくない」
隠れてやってるのに、一緒の学校の生徒がギルドメンバーは嫌か。打ち明けられるぐらい仲良くなってからなんだな。
俺と阿久野は教室に入ると、昨日と一緒で天野さんの周りには取り巻きがいる。教室内の話題は転校生。そういえば、始業式には間に合わず一日遅れで来ると担任が話してた。しかも、転校生の席は俺の前だったりする。