簡単に逃げ切れると
『マジか! 』
俺は画面の道具袋から、ドクドクキノコを選んだ。それが俺の目の前に出現するなんて。レイが口の中に入れてたから、吐き出す形で出して、その時に噛むつもりだったのに。ドクドクキノコは一瞬空中に止まって、下に落ちていく。
『駄目だ……微妙に届かないとかじゃない。こんなの捨てるのと一緒だぞ。失敗で袋に戻ってくる事は……ないか』
鉤爪で引っ掻けてられてる状態だから、前後の揺れを利用しても無理。使用失敗で道具欄に戻る事を期待したけど、地上ではドクドクキノコを踏んだプレイヤーやNPCが毒で苦しみ出してるのが見えてしまった。俺が悪いわけじゃありませんよ。
「そろそろ街の出入口だ。あのプレイヤーも間抜けだな。簡単に奪われて、追い掛けてくる事もないし。警備に捕まらずに済みそうだ」
レイと草井さんはプレイヤーじゃないけど、それは俺も頷いてしまうぞ。俺を放っておいて漫画肉を優先するとか。レイはゴーストだから人混みからもすり抜けれるだろうし、空中にも浮けるから他の魔物よりも楽なはずなのに。
「ワハハハハ」
ドクドクキノコの不発に終わったので、声を出して笑ってみる事にした。『笑い草』を見て思い付いたんだけど、勝手に笑い出すと怖くないか? この方が呪いのアイテムと勘違いするかもしれない。レイをプレイヤーとして勘違いしてるなら、俺がプレイヤーとは思ってないはずだし。
「な、何だ? 何処から聞こえてくる!」
バットは警戒し、動揺してるせいか揺れが激しくなる。
『おっ? 良い感じじゃないか。この勢いだと鉤爪から外れるぞ』
「簡単に逃げれると思ったのか? お前の行動は全て丸見えだ」
「あのゴーストか! 男の声って……残念なんだけど」
それを気にする? 確かにトレース機能もあるから、プレイヤー自身の姿を投影したと勘違いしてもおかしくないか。けど、動揺じゃなく、落ち込むのは止めて。揺れが収まっていくんだけど!
そして、バットはゴールという街の出入口を通り抜けてしまった。『簡単に逃げれると思ったのか?』と言いながら、簡単に逃げられました。この言葉を取り消したい。
「あれ? このドクロ、自動的に道具袋に入らないぞ。商品じゃなかったから、あのゴーストを倒さないと手に入る事にならないわけか?」
俺がプレイヤーだからだよ! と声を出したら、簡単に頭蓋骨が破壊されてしまう。ここはレイとの戦闘を選んで欲しいぞ。諦めて放置されたら、他のプレイヤーにバレてしまう。
「ぐはっ! 入口で待ち構えて……別人じゃないかよ」
バットは不意討ちを受けて、HPの全てを削られた。そして、倒された事で消滅。体がそのまま残るのではなく骨になり、俺と一緒に地面へ落ちていく。
「この赤い頭蓋骨はレイので間違いないよな。簡単に取られるんじゃないっての」
助けてくれたのはかおリン。そういえば、街の入口前で待ってると言っていた。赤い頭蓋骨が目印になって、火の息でバットを倒してくれたわけだ。




