撤退でしょ
「片腕の騎士って……セシリアじゃないよな」
セシリアがギルド戦に参加してるか分からない。天野さんは『無銘』関係者の娘で、『人』パックのプレイヤーだから、最初から敵表示されてもおかしくないよな。
「……何の反応もないじゃない。セシリアは注目プレイヤーの一人よね。片腕だけで、そう判断するのは……女性と思うのは無理ないけど」
全身鎧に包まれてるけど、細身な感じはしない。鉄仮面で相手の顔も分からないし。セシリアである事は否定したけど、愛毒は何で女性と思ったんだ? 体格は中性ぐらいだし、女性用の装備なのか?
「少しでも動きを止めてくれたら良いなと思っただけなんで……一気に走りますか? 先に『魅了』と『魔眼K』を試してみます?」
白騎士は俺達を発見したけど、歩みを速める事はしない。手にしてるのは鉄骨? ……じゃなくて、鉄棒か。騎士にそぐわない武器だ。魔法も使ってこないのは助かるし、攻撃を仕掛けてこない、今がチャンス。
「……使ってるのよ。姿が見えた時に何度も試してみたけど、効いてないの! だから、同じ性別かもと思ったんだから」
ああ……せわしなく変なポーズとか、投げキスみたいな事をしてるのを見て見ぬフリをしてたけど、『魅了』を使ってたのか……『魅了』は同じ性別では効かないか、効きにくい? 俺みたいなパターンもあるんだけど。
「『魔眼K』は……不発なのかも分からないか」
白騎士に『魔眼K』を発動したけど、俺自身が相手に何の幻を見せてるか分からない。イメージするのも何も思い付かなかったし。白騎士はそれを無視するかのように前進するから、効いてるかどうかも分からない。
「……愛毒は他に攻撃手段……特技はあったりするとか」
「ないわね。あっちは接近戦とか滅茶苦茶得意そうな感じじゃない。こっちは武器は何も持ち合わせてないわけだし、聞いてくるんだから、そっちも同じなんでしょ?」
「何かあったの?」
レイが教室から廊下に出てきた。レイの特技『ポルターガイスト』は……周囲に動かせる物がない。黒の翼にしても、こんな狭い廊下だと動きに制限が掛かるよな?
「やっぱり、ここは撤退だ!」
俺はレイの手を引いて、撤退。愛毒は俺よりも先に、そっちを選んでるし。白騎士がゆっくりなのは走る事が無理だったり……しないのかよ!
白騎士は俺達の動きに合わせて、走り出した。付かず離れずの距離。
「ねぇ! さっきの場所、箱の中身は全部空っぽじゃなかったよ。私や愛毒みたいな形をしたのが入ってた。それも男で……一回見た事があるような気がするんだけど」
このタイミングで言ってくるか! レイや愛毒に似た形って……共通するのは人の姿に似てる事か? それも男で……レイが見た事がある……情報量が多すぎる!