トイレ
「大丈夫……後は三回目の監視カメラは慣れたもんだし」
忍び足で家庭家室を通り過ぎ、今回は一階まで一気に下りてしまう算段だ。何か失敗、注意するのは足音ぐらいで、それも宙に浮いてるのは俺ぐらいだから、四つん這いで移動するので回避。今は階段横のトイレ前だ。気になると、ここまで音が聞こえてくる。
「ばっくしょん! 他の先生が噂してるのかしら」
「ちょっ! 折角ここまで来て、そんな大きなオッサンの音を」
ここに来て、愛毒がオッサンばりのくしゃみ。オッサンのくしゃみは他に比べて大袈裟であり、音が大きく、反響するんだぞ。勿論、俺だけの見解だけどな。
「普通にくしゃみしただけで、オッサンの音は失礼でしょ。私のくしゃみより、あっちの音の方が大きいわよ」
それもそうか……なんて、部屋から聴こえてきた音が無くなったんだけど。
「その音が聴こえなくなったから! 家庭科室から出てくるんじゃ……」
監視カメラを回避する暇はない。レイと愛毒は宙に浮いてるし、一番に見つかるのは俺じゃないか!
「仕方ないわね。一旦、ここに避難しましょう」
仕方ないって……アンタのくしゃみのせいだろ。私達だけ先に行くと言わないだけましと思うべきか。
「避難場所って……そこ!」
愛毒が入ったのは女子トイレ。レイも自身の性別が分かってるから、愛毒が気にいらなくても、そっちについて行く。俺も女子トイレに……入ったら、愛毒が変な目で見てきそうだ。
「結局、俺一人になるのかよ」
仕方なく、俺は男子トイレに入った。
「ここは別の場所に変わってないけど……夜のトイレは怖いよな」
小用のトイレが三つ。個室は様式二つに和式一つ。後は用具室。洗面所には鏡がある。学校の怪談みたいに、鏡に誰か映ったり、トイレの中から腕が出てこなかったりしないよな? こんな場所で花子さんを呼び出すつもりもないし。
ガタン! とトイレからでも、大きな音が聴こえてきた。家庭家室のドアを勢いよく開けた音じゃないか? 恐怖を演出するみたいに足音も大きく、それが近付いてくる。急いで階段を降りたと勘違いしてくれたらいいけど、トイレも確認に来るのか? 個室の鍵を閉めたら、流石に隠れてるのがバレてしまう。
家庭科室側に近いのは女子トイレ。先に確認するのはそっちか。愛毒の悲鳴が聴こえたら、助けに行くべきか……あれ? 足音止まってないような……女子トイレはスルーですか!