買い物は物々交換で
「いらっしゃい、いらっしゃい! ここは鉱石メインだ。ゴーレムの進化、特技にも必要な道具が揃えてあるよ」
「ここは蜂蜜屋。多くの種族が回復アイテムとして使用出来る品だ。虫系の野良魔物を誘き寄せる事にも使える」
「ここはオークの肉屋だな。欲しい部位を言ってくれたら、その場で切り取るぞ」
鉱石はゴーレム、蜂蜜はキラービー、オークは自身の肉で商売の呼び込みをしている。その中にはNPCだけじゃなく、プレイヤーもいるみたいだ。オークは蜂蜜でHPを回復しながら肉を売っている。蜂蜜でお肉は美味しくなりそうだ。
「そこの美女! これはどうだい? 雨の地帯でも滅多に降らない赤雨の雫だよ。進化素材に必要になるんじゃないかい?」
「私の事か? 見る目があるようだな。スライムは水っぽいし、進化素材に必要になるかもしれない」
水で形成された人型の魔物が声を掛けたのはかおリン……は無理があるだろ? かおリンは女性プレイヤーなんだろうけど、スライムに美少女はないだろ? レイに言ったんだと思うぞ。
「はっ! スライムに言うわけないだろ。ゴーストの彼女に言ったんだよ。交換するのは今持っている赤の頭蓋骨でどうだい? 体の一部じゃないよな」
「残念だけど、交換しないよ。私が欲しいのは骨だからさ。あっ……駄目だよ」
「誰が不細工だ! 私は人間になった時は綺麗になるんだからな」
かおリンはウォーターマンに向けて体当たりをかました。誰も不細工なんて言ってないんだけど。ちょっと待て……かおリンはスライムから人間になるのが目的……それは無理があるだろ。
「やばっ……死んでないよな。ゴメン! ちょっと離れるわ。街の外で待ってるから、そっちの買い物が終わったら来てくれよ。回復アイテムなら何でもOKだからさ」
かおリンはそう言って、急いで俺達から離れて行った。その理由はすぐに分かった。街の警備員なのか、同じ衣装を着た魔物達が集まり出した。ウォーターマンを連行した後、バラバラに散って行った。この流れはかおリンを探しに行ったのかもしれない。
「街の中での戦闘は御法度みたいなの。警備員に捕まったら、街から追い出されて二度と入れないみたい。上手く街の外に逃げれたら、時間の経過で解除されるらしいよ。一回来た時に何度か見掛けたから」
俺がいない間に、レイが街へ行った時だな。それをやるのはプレイヤーなんだろう。街の中だからって、安全とは限らないわけか。上手く逃げ切れたら、盗みも可能だよな。それに倒したプレイヤーの素材も落としたら一石二鳥だ。まぁ……かおリンが赤雨の雫を盗まなかったけど。
『俺って狙われる対象だろ? 水男は俺を欲しがっていたけど……あっ! 物を手に入れるのは物々交換なんだな』
俺が声を出さないのは、周囲を警戒しているから。それとウォーターマンは赤雨の雫と俺を交換しようと言ってきたという事は、魔界での買い物は基本物々交換。進化、特技だけじゃなく、買い物するにも素材は必要って事だ。