嘘ではないんだけど
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「うおおっ! 早くログインしないと。不安八割だけど、阿久野に追い付かないと駄目なのもあるし」
結局、阿久野は天野さんと一言も話せなかったけど、『魔人天生』の『人』パックでは可能性がある。それも『人魔大戦』という対決前に、『人』パックの方でイベント開催が決定。十対十のギルド団体戦で、全て職業が別の場合のみ参加可能。職業別を狙って、天野さんだと思ってるエルフのギルドに入るつもりらしいんだけど……
それよりもだ! 『人』パックのイベントが決定したのなら、『魔』パックもないとおかしいはず。ギルドもあるし、集団戦闘に慣れるイベントなんてやれば、『人』側が圧倒的に優位過ぎる。『魔』が上級者用でも、一人一人の強さがそう変わるとは思えないんだよな。
という事で、イベントが来ると信じて強化しないと駄目なわけだ。『人』パックでは参加条件があるし、こっちも何かあるだろ。
VRゴーグルを付け、ログイン完了の声が届くと同時に『魔人天生』の世界へ。今回の開始はサタリアが決めたマイルームの木小屋。ベッドから目を覚ますところから……あれ? ベッドが目の先にあるぞ。
「というか、動かないんですけど! サタリアの奴、俺を騙したな」
魔力がないわけじゃない。声も出せるし、音も聞こえる。目も草井さんの右目(魔力+5)を装備したままだから見えてる。鼻だって……臭い! 新しく用意された部屋じゃないの?
「何だ? ゴリゴリと音がするんだけど。ソロ推奨なのに、別プレイヤーと一緒の部屋だなんて……」
俺の目の前を通り過ぎたのはゾンビ。両腕が無く、尻の部分から鉄骨が生えてる。しかも、鉄骨を握りしめる手の骨が取り付けられてる。
「まさか……草井さんなわけないよな? 俺の部屋にいるのもおかしいし」
「そうだよ」
あの時、草井さんは両腕が取れて、『与骨』で鉄骨が飛んでいったけど、お尻から飛び出すなんて……俺の頭蓋骨から棒が出るのと一緒なわけ……「そうだよ」って、言ってるし!
右手 鉄骨(草井さん)
念のために確認してみると、鉄骨の(???)が草井さんに変わってるし。武器扱いで、俺の部屋まで来たのか! って事……流れ的に謎の首飾りの(???)は
「やっと戻ってきた。ポン骨と一緒だと楽しそうだし、運ぶのを頼まれたからさ……これからもよろしくお願いするね」
やっぱり……謎の首飾りを身に付けたレイが登場。移動手段は俺に骨の体を用意したわけじゃなく、レイに運ばせるつもりだったわけか。サタリアは嘘を言ってるわけじゃないんだけど……何か納得がいかない。