『人』パック
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「ふぁ……寝みぃ……後一週間春休みが続けばいいのに」
今日から進級して、東高校の二年になる。東高校は自転車通学で三十分程で、あまりの眠さに事故に遭いかけた。それも『魔人天生』をやってたからだ。序章をクリアしたのは深夜過ぎ。現実の時間なんて気にしてなかった。ゲームの時間が現実の時間の半分だったら良かったのにと思うけど、ちゃんと連動しているんだよな。
「オッス! 眠そうだな。昨日から『魔』をプレイしてるから当然か。今回も同じクラスみたいぞ。それにヒロインである天野セシリアとも一緒だ! これは運命に違いない」
俺に声を掛けてきたのは阿久野正義。悪なのか正義なのかどっちなんだ?と思わせる名前で、本人はいたく気に入ってる。阿久野とは中学からずっと同じクラスで、ゲーム仲間であり親友。そして、俺よりも一週間前に『魔人天生』の『人』を始めたライバルでもあるわけ。
「朝からテンション高いな。ギャルゲのVRと現実を間違ってるだろ。天野さんと俺達は程遠い存在だぞ」
確かにクラス掲示板を見たら、二年A組の欄に阿久野と天野が並んで、俺の名前も載ってる。天野セシリアはハーフ(魔族とハーフとかじゃないぞ)で金髪でスタイルが良く、性格も明るい。学年で一、二位を争う美人であり、人気者だ。俺と阿久野はオタクのモブ達、眼鏡(俺)、そうじゃない方(阿久野)と呼ばれてもおかしくないぐらいだ。
「フッフッフッ……そうでもないかもしれないんだなぁ。それで、そっちの『魔』はどうだったんだ? スケルトンは無理だっただろ」
阿久野は俺がスケルトンをやりたい事や、それが厳しい事も知ってたからな。というか、天野さんの話を聞いて欲しいんじゃないのか?
「序章はクリアしたよ。結構……色んな意味でしんどかったけど。言っておくけど、攻略は教えないからな。拡散されるのも嫌だし……阿久野はどうなんだよ」
あれは精神的というか、ツッコミ疲れ? 自分で動けないのもしんどかったからな。それに本編開始が少し怖いのもあるぞ。サタリアは魔力が無かったら動けない事を教えてくれなかったし。
「マジで……『魔人天生』の全体の掲示板でもスケルトン誕生って書かれてたけど、代だったのかよ。有名人じゃないか? けど、こっちも良い事があったんだよ。やっと職業につく事が出来そうなんだ」
そういえば、βテスト版では最初から職業につけたけど、今回はLv10になって、専用の試練をクリアしないと駄目だとか阿久野が言っていたな。それも種族によっても難度が変わるらしい。それまではフリーターで、職業につかないとギルドに入れないらしい。
「阿久野は獣人を選んだよな? 職業はモンクや戦士系か」
獣人はスピード系なはずで、接近戦が得意で魔法が苦手なイメージがあるんだよな。
「いや……タンク、シールダー狙いにしようと思ってるんだよな」
「……はっ? 獣人だよな。シールダーって、盾使いだろ。ドワーフか人間で選んだ方が合ってるんじゃないのか?」
「それなんだけどな……」
話してる間に2年A組に着いた。すでに天野さんは来ていて、クラスメートに囲まれて、阿久野が座る場所も占拠されている。まぁ……意味深のある台詞を言ってたから、挨拶にでも突入するかと思えば、俺の前の席に座るし!
「天野さんも『魔人天生』をやってるかもしれないんだ。エルフなんだけど、凄く似てるんだよ。俺の獣人は自分の体をベースにしてるから、天野さんだって……しかも、ギルマスだぞ!」
天野さん達に聞こえないよう、阿久野の声は小さくなった。確かに俺のスケルトンでさえもトレースしたから、その可能性がないわけじゃない。
「つまり……天野さんからもしれないギルドに入って、彼女を守るためにシールダー? いや、直接本人に聞いた方がいいだろ」
「それが今の俺達に出来るとでも! ゲームの中でなら……『魔』のスケルトンである代は敵対関係になるけどな」
ちょっと、声が大きい。まぁ、俺達の会話を気にする奴なんて……天野さんがこっちをチラチラ見てるような……本当に『魔人天生』のプレイヤーなんて……まさかだよな。