バーゲンという名の戦場
「そうなの? 彼ってアイドルの親衛隊? っていうのに入ってるのね」
『魔人天生』のイベントというより、おかんは阿久野がアイドルのファンと勘違いしてるみたいだけど……多分、光は天野さんのギルドメンバーだよな?アイドルグループの一人って話だし、オフ会みたいに誘われたのか? そこに俺が加わるのはおかしな事になるわけだし。
「ファンというより……ゲーム仲間、知り合いがいるんだよ」
「ふ〜ん……代は誘われてないの。阿久野君もゲームイベントの方のよね? アイドルの光が参加って書いてるわよ。十時半から十分……短いわね」
『ママポート』が開店して、すぐ。あの二つの前座みたいな形だな。あっちは一時間は尺が用意されてるのに。まぁ……ステージと一緒に握手会や撮影会の時間もあるからなんだろうけど、こっちは十分だけなんて……貰ってる方なのか?
「残念だけど、前半に行かせるのは無理だから、勘弁してね。後半はゆっくり見れるんじゃないかしら」
俺も絶対に行きたいと思ってるわけね……光が出るだけなら、そこまで興味がないのが本音だな。それに人が集まるかでいうと微妙なところだと思う。開店間もない時間で、限定商品もあるのに、買い物客は目当てな物一直線なはず。スカスカの状態だと、阿久野と顔を合わせるかもしれないし。
「それは全然構わない……というか、後半も見に行かなくてもいいかも」
後半の部は十四時半から。そこまで長居するなら、家に帰って『魔人天生』をしたい。空凛が待っていると考えれば尚更だな。
客の多さに三十分前、九時半に『ママポート』開店。開店ダッシュの激しさ……暴徒化してるレベルだな。主婦達の力強さと言ったら、チート級じゃないか? 百メートルでも世界新記録でも出しそうな勢いがあるし、商品の奪い合いなんて、若い子の顔面にエルボーを喰らわせてる。強力な布陣を展開するギャル達もいて、大量発生よりも凄い戦場なのでは? と思う程だぞ。
「この戦場にいる奴等は化け物か?」
それに対抗出来るおかん。俺は戦場、人の荒波に呑まれ、後退していく。女性が多い状態で、下手に触れば痴漢扱いされないかという恐怖もある。
そんな中、『魔人天生』のイベントが始まったのか、MCの声が僅かに届いて、曲が流れ始めた。




