魔人天生
『返事がない。ただの屍のようだ』
『反応がない。ただの骨みたいだ』
『動かない。ただの……』と何度も似たような言葉が表示されるだけで、先に進めない。といっても、死体が隠し扉やボス登場のスイッチになってるわけじゃないぞ。
俺、只野司代が死体というか、スケルトンという骨型の魔物だからだ。説明するのに少し時間を戻そう。
現在西暦20XX年。VRゲームは常に進化していき、フルダイブ化が成功。更に映像も現実とは変わらない程に再現され、レースゲームや格闘ゲームも、恋愛ゲームでさえも開発された。その中でも企業が一番力を入れたのはMMORPG。往年人気のあるゲームをVR化させる等で競う中、俺が一番注目したのは新規レーベル『無銘』が出す『魔人天生』だ。
『魔人天生』は『魔』と『人』二つのパックが用意され、一つを選んだ時点でもう一つはプレイ出来ないようになっている。
『人』は人間、獣人、エルフ、ドワーフの四種族から選ぶ事になっていて、更に様々な職業を選択。Lvやスキル等がある従来のMMORPGであり、ギルドもありで、みんなとワイワイ楽しむ人向け。
一方で『魔』は魔族や魔物。種族は数十種類と多く、獣人の一部やダークエルフもこちらに含まれる。職業はなく、中級職や上級職の代わりに進化があり、スキルじゃなくて特技となっている。しかも、Lvというのがなく、ステータス上昇や特技習得は種族によって違う。『人』よりも自由度が高いというか、ゲーム上級者向け。ソロ推奨とも説明があるぐらいだ。
βテストでは『人』は人間とエルフ、五種類の職業、『魔』は四種族、ゴブリン、スケルトン、サハギン、悪魔神官を体験可能だったらしい。その結果、初回予約十万生産は7:3の割合で『人』が圧倒的勝利に終わった。それはβテスト経験者の掲示板で色々と書かれてあったからだ。『何をしていいか、本当に分からん』とか『魔物はドMなんですか?』、『何もしないうちにゲームオーバー』等々。
そんな中、一週間出遅れながらも、ゲーム雑誌の懸賞で『魔人天生』が当たり、上級者向けなら一週間の差を埋めれると思って、『魔』パックを選んだ。発売一ヶ月後に『人魔対戦』という、『人』パックと『魔』パック戦闘イベントが開催されると告知があったのも理由の一つだ。
勿論、事前に情報を調べるのは当然。一週間もあれば攻略を載せたり、掲示板に書き込む奴もいる。公式情報は『魔』の場合、種族を選んだ人数を発表している。
俺の予想では上位はアニメや漫画で流行りのスライムやスケルトン、蜘蛛だと思ったんだけど、一位はゴブリンだった。β版でゴブリンが選べた事もあり、一番使いやすかったらしい。凌辱系を狙ってるのか、不細工なオークも人気だ。他にはハーピーやサキュバス、蜘蛛だけは上位に入ってる。けど、スライムはブービー、スケルトンはダントツの最下位だった。なんせ、誰もスケルトンを選んでいない唯一人数0の存在。
β版でスケルトンは選べたはずなのに、この順位は相当だ。掲示板のコメントで『スライムは不遇種族』と書かれてるのに対して、『スケルトンは無理!』という言葉が並び、あまりに無理過ぎるせいスケルトン最強説が流されるぐらいだ。
こういう評価をされてると、試してみたい気持ちになってくる。No.1になれる可能性があり、オンリーワン状態にもなれるわけだ。
そういう気持ちで、『魔人天生』のキャラメイクに入る事にした。