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78.オネエが掛ける情けはひとのためにならないようです

お読み頂きましてありがとうございます。


「彼は昔居た学校の生徒で、女の子っぽい彼は良くイジメられておったんだ。当時は性同一性障害なんて言葉も無く、今のようにLGBTが市民権を得ていなかったから、それは酷いものだった。」


 突然、校長先生が語り出す。なるほど、だから担任の先生のことが詳しいのか。


「先生には良く庇って頂きました。」


 担任の先生の険悪だった表情が優しげな表情に変わる。


「ワシもどう庇って良いか解らんかったが、どんな理由があろうともイジメだけは絶対ダメだ。その君が今度は男の娘のチーちゃんをイジメるのかね。」


「それは・・・。」


 結果、険しい顔付きに戻る。


「1人のお父さんだったのでしょう。上条さんを泣かす俺が許せなかったんじゃないでしょうか。それは誤解なんです。今日も一緒に登校してきました。」


 上条家には登校してこないトモトモの先生でもある父親が何度も足を運んでいたそうだ。『私が悪い』の一点張りのトモトモを見て、俺を悪い人間だと思い込んでも不思議じゃない。


 ヤクザと繋がっているとまで思い込まれたのは想像力が豊かだっただけなのかもしれない。


「嘘だ。彼は、私の夢を打ち砕く悪魔なんだ。」


「夢とは、例のLGBTのための学校を設立するというアレかね。ワシもそれは誤解だと思うぞ。どちらかと言えば協力者だ。」


 担任の先生の夢はLGBTのための学校を設立することなんだ。あれっ・・・そんな話、何処かで聞いた覚えがあるぞ。何処だったかな。


「私も初めはそう思っていた。だが違ったんだ。私から全てを取り上げるつもりなんだ。商売もダメにされ、支援者も居なくなった。」


「商売って、例のイベントかね。裁量労働制の教師の副業は本来認められないのが筋だ。さあ、それ以上の言い訳は、理事たちの前で聞こうか。」


 俺と校長先生と担任の先生が立ち上がる。


     ☆


 間に1時間休憩を挟み、本来あるべき席に座った。評決を受ける担任の先生は末席で俺とは正反対の席だ。


「・・・・・・・・・・ど、どうしてっ。どうして、お前がその席に座っているんだ。」


 細長いテーブルの末席と正反対の席で向かい合った俺たちは見合った。担任の先生は目を丸くしている。


「アタシは、この学校のオーナーであり理事長でもあります。この学校の退学は如何なる理由があろうとも本人が出席の上、全て理事会にかけられます。従って、あのような一方的な退学通知など、ありえないのです。」


 加納家が持つ会社の中に、この学校もあったのだ。順子さんのことが発覚した際に強権を執行するつもりだったのだが、別のことで役に立った。


「そんな・・・何かの間違いだ。」


「間違いではありません。今は結城姓を名乗っていますが、加納家の長男の実の息子です。加納ホールディングスの次期社長にも指名されています。」


「何故だ。何もかも持つ、お前が私の邪魔をする。」


「貴方は、凪平さんだったのですね。」


 イベントと聞いて、思い浮かんだのは関連するのは以前行った若いトランスジェンダー向けのお茶会イベントだ。そこで関係者である陽子さんにトラブルが無かったか、休憩中に問い質したのだ。


「そうだ。解らなかったのか。」


 ハゲの魔力とは恐ろしいものでハンサムでキレイな凪平さんと担任の先生が一致しなかったのだ。迂闊だった。大抵のメイク前とメイク後の姿を見破れる俺としたことがなんて迂闊だ。


 イベントでも事業でもトラブルは付き物だ。特にトランスジェンダーのイベントとなるとゲイのドラッグクィーンや生理学的に男性で男の心を持つ女装さんや女の心を持つ性同一性障害者、生理学的に女性で男の心を持つ同一性障害者などなど身内だけでも雑多な人々の集まりで、さらに支援者や協力者まで含めると、とても同じ指向を持つ人々の集まりとは言えないのである。


 お茶会イベントでも開始前から数多くのトラブルに遭った。一般人との揉め事はまだ可愛いほうで、身内同士の喧嘩まであった。余りにもトラブル続きだった所為でイベント前日にキレた俺は、各自で解決できるものは解決するようにイベントスタッフに通達してしまったのである。


 それが裏目に出た。いや事後報告を入れるように通達したのだが、漏れが発生していた。


「貴方のなさったことは機密文書の漏洩です。しかも漏洩した文書で利益まで得ている。」


 イベントが終った後、参加者に自分が主催するイベントへの参加を呼びかけたのだ。年齢や住所などは聞かなかったが本名と携帯番号の載った一覧表を実際に参加されたかの突合せのため、用意した。破棄しなければいけない文書を密かに盗み出し、参加者に連絡を入れたらしい。


「そんな大げさな。ちょっと拝借しただけじゃないか。」


 未だ女装を行っていることを後ろめたく思っている人が多い。偽名、年齢詐称、複数の携帯番号やアカウントなど隠せるところは隠すのが当たり前の社会だ。それが突然、知らない男から連絡が入ったのだ。クレームにならないと思うほうがどうかしている。


「ウチのイベントの主催者は山品陽子さんです。山品家は暴力団関係者ではありませんが、夜の街には顔が効きます。銀座のバーのママさんでもあります。貴方が行ったことは、バーの出入口から出てくる客を勧誘したことに他なりません。貴方がホステスならば首都圏の歓楽街で働けなくされたでしょう。」


 凪平さんが主催するイベントが開催されていた場所のオーナーと交渉したところ、あと1回イベントを開催後、穏便に使用許可を出さないことを了解された。そして陽子さんが顔が効く所へトラブルメーカーとして情報が展開されたらしい。その中にもヤクザが経営しているところがあったのだろう。


 陽子さん的には随分、穏便な手段を使ったと言い訳をしていたが俺もそう思う。直接、知り合いのヤクザをイベントに乗り込ませて滅茶苦茶にすることや本人に暴力を振るう手段まで考慮に入れたらしいが、俺が嫌がるだろうと止めてくれたのだ。


「客引きなんて、何処にでもいるじゃないか。」


 このトラブルを知ったトランスジェンダー関係者が噂を広め、凪平さんの夢を支援しようとしていた人々が手を引くことになったらしい。


「それでもバーの出入口で待ち構えないでしょう。貴方がしたことは超絶、誰もが知っている基本的なルール違反です。報復をされても仕方が無いことをしたと諦めてください。何故、こんなことをされたんです。貴方が逆の立場なら嫌でしょう?」


「元妻の玲子の所為で信用を失っていったんだ。イベントの客も知り合いばかりで新しい客は来ない。過去の噂を知らない人たちなら来てくれるだろうと。・・・だがそうだな。私も若い頃、人にトランスジェンダーだと知られるのが嫌だった。なんで忘れてしまったんだろうな。」


 陽子さんが関係者に話を聞いたところ、元妻に裏切られていることを知った凪平さんは離婚して、身奇麗にして出直したそうで、それは関係者も知っており、その点は信用や情けなどを掛けていたそうだが、今回のような考え無しなトラブルを何度も繰り返すうちに人々が離れていったそうだ。


 若い頃ならそれでも人は付いてきてくれたのだろうが50歳を越えた今でも変わらないから旧知の友人だけになったそうだ。


「私からの評決案は、北九州にあるグループ校への転勤です。採決をお願いします。」


 理事たちを見回すと即座に手が上がる。校長先生も満足そうだ。


「温情。感謝いたします。もう一度、人生をやり直してみます。」


 凪平さんは晴れ晴れとした顔で頭を下げて出て行った。

後1話、今日中に更新します。


よろしくお願いします。

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