59.ライバルが増えました
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「ねえ、どういうつもりなの?」
場所は体育館裏、ダンス同好会の活動場所に呼び出された。相手は怒っている険悪な表情だ。
「ゴメン。花嫌いだった?」
相手は五代アキエちゃんだ。ダンス同好会の発表会が終わり、事前に用意していた花束をアキエちゃんに渡したのだ。ウォーキングで余った資金5千円を陽子さんが贔屓にしている花屋で2束の花束に仕立てて貰いユウタと一緒に渡したのだ。そんなにあからさまにしたつもりは無いんだけどなあ。
「違う。」
「何、ヒデタカからの方が良かった?」
いつも気にしているのはユウタだと思ったから、ユウタからも渡して貰ったのに間違えただろうか。
「ううん。ユウタさんから花束を貰えたときは思わずハイテンションになったわよ。・・・そうじゃなくて、トモヒロくんが何で私に渡したかってことよ。」
その時のことを思い出したのかアキエちゃんの頬が桃のように赤くなる。物凄く可愛いな。
「ウォーキングを教えてくれてありがとう・・・って、メッセージカード入ってなかった? おかしいな。アタシ貼り付けたつもりだったんだけどな。もちろんダンスもキレっキレで素敵だったわ。」
ダンス同好会の指導者のアキエちゃんの賜物なのか。皆の動きが揃っていて楽しそうな様子が伝わってくる良い出来のダンスだったと思う。上条さんも舞台の上で踊っているときは物凄く楽しそうだった。
「違う。どうしてトモトモには渡さないのよっ。」
俺がアキエちゃんに花束を渡しているところを見た上条さんは顔面蒼白だった。ユウタというワンクッションを置いているんだし、そこまでショックを受けないだろうという目論みは脆くも崩れ去った。
プライドが深くキズついたのだろう。
「えーっ。『オネエちゃんといっしょ』では体育館裏に呼び出したオネエがダンサーの女の子に告白するところから始まるじゃない。それ以前は知り合いでも何でもないでしょ。・・・ああそうか、今アタシがアキエちゃんに告白すればいいのね。『ハジケ飛ぶ汗が素敵だったわ。アタシとお付き合いしてください。』」
漫画『オネエちゃんといっしょ』の冒頭のセリフがスラスラ出てくる。結構読み込んだものな。
「なんで今、私に言っちゃうのよ。そこはトモトモに言うところでしょ。」
「『やっぱりオネエじゃダメ? どうしてもダメなら離れていくから言ってね。』だったよね。どうしたの? どうして泣いているのよ。」
俺って悪い男だ。
『オネエちゃんといっしょ』のセリフを利用して上条さんから離れようとしているのだ。
オネエの俺を受け入れて徐々に好きになっていく女の子役をアキエちゃんが演じてくれれば、上条さんから離れないがアキエちゃんが俺のことを嫌だ、上条さんのライバル役は嫌だと思えば、アキエちゃん自身、そして付随する上条さんやダンス同好会の面々から離れることになる仕組みだ。
「どうしてなのよ。トモトモは幼稚園の頃から、あなたを好きだと言い続けているのに、どうして振っちゃうのよ。」
幼稚園?
俺は保育園に通っていた。だが近隣には幼稚園に通っている友だちも居た。その中の1人が上条さん?
結構、記憶は良いほうなんだがな。上条さんなんて苗字の子は聞いたことが無い。あの頃からチビだった俺は女の子から告白されたことなんか無い。
冗談でも・・・冗談ならあったかも・・・確か同じ合気道の道場に通う男の子たちから冗談で告白された。どちらも1度きりだったので全然覚えていないけどね。
「ダメっ! ハァハァハァ・・・アキエ・・・どうして言っちゃうのよ。」
その時だった。着替えた後、走って来たのであろう上条さんが俺とアキエちゃんの間に割り込んでくる。
「トモトモがアタシの保育園時代の友だち?」
「そ、そんなはずないでしょっ・・・。トモヒロくんとは高校生になって初めてあったのっ。」
そんなに全身全霊で言い切らなくても。しかも中学時代も同じクラスになったことは無いものの、何度か視線が合ったこともあったのにな。
俺なんか眼中に無かったんだろう。それとも隠しておきたい過去なのか。
まあどっちでもいいや。
「それで『アキエちゃん! どうするか答えて。』」
「『好きにすればいいわ。』これでいい?」
あーあ。せっかく『オネエちゃんといっしょ』ごっこの延長で上条さんと離れられると思ったのにオネエに何度も告白され、心揺れる女の子役をアキエちゃんが演じるらしい。どうしたら離れてくれるんだか。
☆
「それで今度はアキエちゃんと付き合うつもり?」
文化祭の行事が終わり、保健室に順子さんを迎えに行ったついでに事の顛末を話しておく。様子が変わった五代さんや上条さんの態度を誤解して暴走しないとは限らないからな。
それとなく釘も刺したつもりだったんだけと相変わらず般若の顔になっている。
「うん。そうなるね。押せ押せドンドンで行けばなんとかなるかしら。」
「・・・っ。・・・『オネエちゃんといっしょ』の世界観なのね。そうならそう言ってよ。それで上条さんはどうするの?」
流石にそのまま殴られる気は無いので振り上げた順子さんの腕を素手で止める。一瞬にして頭が冷えたらしく言葉を言い継ぐ。
沸点も低いけど氷点も高いらしい。困ったものだ。
『オネエちゃんといっしょ』の世界観では押せ押せドンドンと何度も告白して何度も振られるのだが、オネエの優しさと男のイヤらしさが交互に出現するキャラなのだ。
そのまま演じるとセクハラに当たらないだろうか。
「放っておくわ。あれだけハッキリと振ったんだから、近寄ってこないでしょ。」
何か過去がありそうだけど、蛇しか出ないと解っていると調べる気にもならないな。
「来週の朝、何も無かった顔でアキエちゃんと現れるに1票。」
自信ありげな顔で微笑む順子さん。文化祭の土曜日と日曜日の代休2日挟んで水曜日か。休みたくなってきた。
「怖いことを言わないで。」
ニコニコとした顔の上条さんと強張った顔のアキエちゃん。逃げ出すまでセクハラするしか無いのだろうか。いやアキエちゃんが逃げ出しても上条さんが逃げ出す保証は何処にも無い。まだ間にアキエちゃんが居てくれるだけマシだ。




