53.体育会系を投げ飛ばしました
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株式会社カノンの応接室に来ている。
「君が加納ホールディングスの会長補佐の結城智広・・・くん?」
いきなりのくん付けに驚いた。
株式会社カノンの代表取締役社長には祖父からアポイントがあったはずだ。なのに俺の女装姿をひと目みて態度がガラッと変わったのだ。どうやらやっかいな相手なようだ。
「そうです。高卒採用に関して、貴社の全権を祖父より委任されています。まずは具体的な数字からお伺いしますね。新卒採用のうち、何パーセントくらい高卒採用ができますか?」
「ちょっと待ちなさい。君では話にならない。会長を呼んでくれ会長を。」
明らかな見下した視線だ。いまどき珍しいLGBT差別主義者らしい。
「もう1度言います。祖父より全権を委任されてきました。貴方の返答次第では、加納家は株式会社カノンから手を引かせて頂きます。」
「できるはずがない。」
「今、売り渡し先のファンドも選定しています。」
もちろん打てる手段は事前に使ってきている。具体的な会社名は出さずに仲買いをお願いしているところだ。
「そんな・・・君の一存でそんなことが・・・。」
「じゃあ交渉決裂です。では帰ります。失礼しました。」
俺は立ちあがるとスタスタと歩き出す。
「待ちたまえ。もう少し話をしようじゃないか。」
相手は慌てて応接室のドアの前に立ちはだかる。それでもとても親会社の代表相手とは思えない言葉使いだ。格下に見られている。嫌な気分だ。
「仕方が無いですね。何パーセントですか?」
「3パーセントだ。」
事前に調べたところ、この会社には開発職も多いのだがイチから会社で叩き込まなければいけない営業職だけでも30パーセントの人数が居たのだ。他にも事務職などで50パーセントを超える。
「話にならないですね。帰ります。・・・痛いです離してください。ケガしますよ。」
再び俺がドアに向おうとすると今度は俺の腕を掴んできた。
「ふざけんな小僧に何がわかる。」
それでも酷い言葉使いだ。これでも大企業の社長か。
「では失礼します。」
俺は小手返しの要領で彼の腕から抜け出すと応接室のドアを開けて出る。
「待て! 誰か止めろ!」
外に出ると遠くのほうから、大男が走ってくるのが見えた。
「そうか。そうじゃろうな。」
祖父に報告すると、予想通りだったらしい。
「あの社長はどういう方なんですか。第1印象と余りにも変わりすぎて。」
東都大学出身で非常に礼儀正しく、フェミニストという事前調査結果だったのだ。まあ単にオカマが嫌いなだけなのかもしれないけど。
「体育会系なんじゃ。あの会社の営業職はほとんど体育大学や大学の運動部出身で占められておるんじゃよ。体育会系は上下関係に厳しいからの。智広のような年下で男の娘という上役は奴らの想定外なんじゃろ。」
体育会系は礼儀正しく営業職向きなんだそうだ。しかも、大学の後輩が先輩の伝手で入ってくるらしい。
景気の良いときには人手不足に陥らないが景気が悪く採用人数が減ったときには先輩後輩の絆が切れてしまう。採用を再開しても質の悪い学生しか入らないらしい。
しかも営業で成績を残しても先輩後輩の上下関係は絶対で実力主義ではなく年功序列の昇進する。出来る営業職から辞めていってしまうらしいのだ。
「もしかして、そのために俺を行かせたんですか?」
酷いな。これなら俺じゃなくてもよかったんじゃないだろうか。
「本音を聞けたじゃろ。あの方相手では我慢していたようじゃが智広相手では我慢しきれんかったようじゃの。」
肯定も否定もせず、はぐらかされた。俺が尊敬する元バイト先の社長もバカにされていたのだ。
「それで何か言ってきましたか?」
「何度もわしにアポイントメント取ろうとしていたようだが、智広の言葉が絶対じゃと伝えておいた。その内、謝りにくるじゃろ。」
「さあ、それはどうでしょうか。」
「何をしたんじゃ。」
「何も・・・只、暴力を振るわれそうになったんで投げ飛ばしただけです。受身は取れていたみたいなので怪我は無かったと思います。」
あれから数人の男たちがやってきたが俺を侮っていたのか簡単に投げ飛ばせた。相手は受身は取っていたが投げ飛ばされたことに精神的衝撃が強かったようで再び挑んで来なかったのだ。
まあ体育会系ならばチビの俺に投げ飛ばされたからと苦情を言う人間じゃないだろう。格好悪いからな。
「智広の怪我は無かったんだろうな。今度からは裕太を連れていけ。奴はああ見えて空手の有段者だから不足は無いはずだ。」
あれっ。武道大会ではそんなこと言って無かったのに・・・知性担当だから隠しているのかな。




