42.オネエはバカと呼ばれたようです
「それは卑怯ですよね。」
怒気は飛んでくるが動揺している所為か弱いので簡単に前に進める。
「そんなに卑怯者になりたいですか?」
さらに1歩進める。
「小僧! 何故、効かない! 怖くはないのか?」
「貴方は良くご存知でしょう。何が怖いんですか?」
バーン。
弾が壁に突き刺さる。今度はこちらに向けられた。
「何故だ!」
「アタシはタツヤと優子さんに与えられた天使なの。男だけど。タツヤと優子さんを幸せにしたいのよ。」
さらに1歩進める。
「私は?」
物凄くいいシーンなのに陽子さんのふざけた声が後ろから聞こえる。
「はいはい。陽子さんも幸せにしてあげるね。さあ、貴方も幸せになりましょう。貴方がた母子を守った父上のように家族を守ることが一番の幸せですよ。」
「ワシが間違っているというのか?」
「ダメですか・・・ダメだったら・・・卑怯な手段を使うしかなくなる。使わせないで欲しいんです。山ちゃん。」
「山ちゃん・・・と呼ぶ君は・・・トモヒロくん?」
思わずポロリと言ってしまった。しかも、その一言で気付かれるなんて、なんて間抜けなんだ。
『渚佑子様』と平伏する山ちゃんにとって俺は目の上のタンコブなのだ。俺が渚佑子さんに告げ口すれば右のものも左に曲がってしまうだろう。
「うわっ・・・今の無し! 無しにしてください。余りにも卑怯過ぎる。」
思わずしゃがみ込む。自分の力だけで解決するつもりだったのに、最後の最後に渚佑子さんの力に頼ってしまった。俺って間抜け過ぎる。
「大丈夫だ。トモヒロくんは卑怯じゃないよ。ワシがバカだったんだ。」
山ちゃんにフワッと抱きつかれた。
「チーくんがお義父さまのご友人? だったら何故、こんな危険なことをしたんですか!」
陽子さんに説明を求められて、全てを正直に話したら怒られた。何故だ。
「だってぇ。渚佑子さんを持ち出したら単なる卑怯者じゃない。」
「だって。じゃないですわよ。16歳のチーくんがヤクザに対抗するのにどんな手段を使っても卑怯者呼ばわりされるはずが無いでしょ。バカでしょ。お義父さんも言ってやってください。」
陽子さんにバカ呼ばわりされた。酷くない。酷いよねぇ。
「仕方が無いんじゃないか。トモヒロくんも格好悪いことが嫌な男の子だったということだ。まあ最後の最後には使うつもりだったようだしな。」
何故か陽子さんに責められて、山ちゃんに守られる体勢になっている。
「お祖父さまは最後まで気付かなかったみたいですけど、チー君はいつから気付いたんですかっ?」
今度は優子さんだ。なんで俺、こんなに責められているんだろ。そんなに悪いことしたかな。
「この部屋に入ってきたときに『あれっ』って。」
「バカですか。そのときに言えば丸く収まっていたのですよね。なんとか言ってやってください。監督さん。」
優子さんにまでバカ呼ばわりされた。酷過ぎる。
「力で抑えつけられれば山品氏が納得しなかったんじゃないかな。チヒロくんが居なくなったら再び言い出していたかもしれんぞ。」
「ははは。それはありえるのう。」
「じゃあ、お祖父様は納得したんですね。家族を危険に晒すようなことは2度としないと誓ってくれますよね。」
矛先が山ちゃんに向う。なんで俺、こんなに縮こまっているんだろ。
「ああ誓う誓うから、あの動画は消してくれ。あんな動画が世の中に広まったら、もう任侠界で大きな顔ができんじゃないか。」
「解って無い! 任侠界で大きな顔をしよう思うこと自体が間違いなんです。いっそのこと今からでも拡散させたほうがいいですよね。お母様。」
「それは優子がお守りとして持っておきなさい。またいつ我儘言い出すか解らないんだから。」
「しかし『渚佑子様』ってどれだけ怖い存在なんです。プールでも警備員たちに怖がられていたわ。でも、お祖父様が怖がるなんて、その比じゃないですよね。」
「勘弁してくれ。それはトップシークレットなんだ。たとえあの動画を公開すると脅されても言うわけにはいかんのじゃ。」
「お母様。私たちの真のライバルって、その『渚佑子様』なのではないでしょうか。」
優子さんが不穏なことを言い出す。矛先が舞い戻ってきたようだ。
「『西九条れいな』さんかもしれないわよ。いったいドレだけの女性たちを惑わせているんでしょうかね。」
「それこそ勘弁して欲しいわ。恋愛対象にするような存在じゃないわよ。」
「山品さん。『渚佑子様』と呼ばれているのはうちのメインスポンサーのボディーガードのことですか?」
「そうだ。前作に引き続き君の作品のメインスポンサーを務めるあの会社の秘蔵っ子と呼ばれるのがトモヒロくんだ。そういう意味では2通りの圧力を掛けられたというのに正攻法を使おうというのだから凄いと言おうかバカと言おうか。将来は大物になりそうだの。」
山ちゃんにまでバカ呼ばわりされた。酷い。酷い。酷いよう。




