第一話・魔女と付喪神
―第一話・魔女と付喪神―
ある晴れた心地の良い春の日。私は市場に出た。魔道具用の苗と薬草用の調合瓶が欲しくて。
あとは適当な魔導書があれば、それでよかった。
私は魔女。魔力は適度にあるが知識は膨大。それを村の住民たち用に取っといてある。
この村には魔女はいても、医者はいない。頼れるのが魔女でしかない。
基本的には回復薬やら持病の薬やらの調合で生計を立ててる。もちろんスローペースではあるが冒険者もしてる。
家計の足しになるように、モンスターを適度に狩り、素材を換金してもらう為でもあった。
そろそろ納期の近い調合薬用に瓶を調達しなければならなかった。
正確に言うとストックの瓶に入る量の調合薬では無かった事に作った後で気付いた。
一つの事しか出来ないのは私の前世からの悪癖だ。隠しても無駄だから先に言っておくが私には前世の記憶がある。前世の私はどこにでも居る様なありふれた平凡な小娘だった。
ただ人よりも手先が器用で、頭の不器用な小娘だった。こだわりが強く本が好きで、内向的な性格をしてたが、どこにでも居るタイプの子供だった。
そんな私は14歳で人生を閉じた。通り魔に襲われ殺害された。
生きてる事に価値が見いだせず、その幸福に甘えて生きていた。
小さな幸せに気付かず、身に余る幸福を望む愚かな子供だった。それが跳ね返って来ただけなのに愚かにも死にたくないって思った。普段なら死にたいって思ってるのにね。
そんな光景を神は見ていた。死後の世界で神に言われた。
『もう一度やり直してみないか?』と。
そして異世界で神に与えられた知識と今まで読書で蓄えた頭脳でこの魔女としての生を謳歌してる今に至る。知識と器用さはチート級だが身体能力は人並みよりか上程度の平凡な魔女であるが、この村には欠かせない存在になれただけでも十分な幸福だと思うようにしてる。
誰かに呪いをかけるタイプに魔女ではないが医学者の端くれとして日々精進するだけだった。
私語りはこの辺にして、早く瓶と苗を買わなきゃと市場まで急いで足を進めてた。
市場まではノズワルド村の中心に行く必要があるがこの村は近隣の町と同等まで発展してるが、名前が村と名乗ってる為便宜上村と呼んでる。
海からも比較的近く、鮮度のよい魚も手に入るからいい魚があったら今日の夕飯にでもしよう。
たまには刺身が食いたい。
ちなみにこの世界は異世界人が多く来てる所為で日本食の文化まで来てる。
流石に流行りのスイーツや衣服が来る事にはブランクがあるが大体数年前の流行が今こちらの世界で流行するといった具合だ。ちなみにこの世界では今まさに猫ブームが席巻してる。どの家でも猫を飼育することが大流行してる。私自身も使い魔として喋る猫を飼育してる。
獣医の文化はないが、困った事は魔女に聞けというのがこの世界の文化。
多くの猫達を助けてきたが、食べさせたらイケナイ食べ物を誤って食わせてしまったり、高い所から落ちたなど不慮の事故で助けられなかった子も多い。食べさせたらいけない物リストとでも執筆してみるか…。
農耕の文化はあるから馬車に轢かれた子も居る。
しまった。猫大好きすぎて自分語りが止まらん。
うちのネコだけが特殊で人間と同じものを食べても平気な特殊な猫(神様の御使い)なので、気取った餌が必要なわけじゃない。名前はルキウス。可愛いです、はい。
そんな猫と私の生活はこの日終わるとは思わなかった。
村の門前につくと門番が待ち構えていた。先ほども言ったがこの村は町並みもその辺の都市並みに発展してるからか、警備が厳重にせざる負えない状況下にある村では日替わりで門番がつく。
今日の担当は顔見知りのハンスだ。
「こんにちは、ハンス。ごきげんよう。」
「魔女様こんにちは!!今日もいい天気ですね。お買い物ですか?」
「ええ。貴方からの調合薬用の瓶と苗をね。良いハーブがあればいいんだけど…。」
「そんなに大量だったんですか!?申し訳ないですよ、追加の分もお支払いします。」
「門番なら傷薬は常備しなさい。軽い傷ならすぐ治るように調合しておいたから。あと、瓶は使い捨てじゃなくて洗ってから持って来なさい。その分安くするから。」
「はい、承知しました。あと、わがままじゃなきゃ、妻が小分けの瓶でも欲しいそうで…。なんでもささくれとか手荒れに傷薬が効くとかで…。」
「追加依頼はギルド経由でね。私も生活のためにやってる事だから、金銭さえあれば文句は言わないわ。一応の予備分はあるから明日納品出来るわ。金額はいつも通り1,000ゴールドね。」
「お買い物後にギルドに来てください。依頼出しておきます。」
「納期は明日で良いわね?」
「はい、ありがとうございます。それではこれが今日の通行証ですのでお手を出してください。」
門前にある水晶球に手をかざすと今日だけの通行証が発行された。
「はい。それにしても今日はなんだか騒々しいわね。何かあったの?」
「先ほど奴隷商が通りまして…。あまり近づかない方がいいですよ。宿屋に一泊して国外に出るようです。犯罪歴は無いので通さざるを得なかったんで…。」
「あら、そうなの。気を付けるわ。じゃあ、行ってくるわね。」
「いってらっしゃーい。」
奴隷商人がこの村にいるとは思わなかった。発展してるとは言え辺境の村で奴隷商人が来るほどとは思わないくらい辺境だ。何かあるな、これは。
「…楽しそうだから冷やかしにでも行こうかしら?その前に買い物しなきゃダメよね?」
そう思いなおし市場に向かった。
傷薬の瓶に、苗、ルキウス用にカツオのなまり節。
今日の夕飯はいいアジが手に入ったのでアジのなめろうにした。
日本酒、煙草、味噌が無かったから味噌としょうがにと食材を買い込み、すべて時空魔法で作ったアイテムボックスに詰め込みながら市場を散策してると、村長に出会った。
「あら、ごきげんよう、村長。」
「魔女様こんにちは。今日はお買い物ですか?」
「ええ。あとギルドで換金と奴隷でも見繕おうかと思ってるわ。」
「魔女様は生贄を必要としないタイプの魔女ではなかったのですか?!」
「ええ、そうよ?だから小間使いや弟子として欲しいの。魔力の高い子はいた?」
「居るには居ましたが商人も手を焼いてるほどの手強い魔力の高さで…。むしろ魔女様の弟子にしか出来ないでしょうね…。今なら私が話しましょうか?」
「あら話の早い。なら早速…。」
「魔女様にはいつも助けられております故、私どもが出来る事はこれぐらいです。どうか、哀れな子をお救いください。」
「…もしかして忌み子って事かしら?」
「姿は美しいのですが異形の子でして…。なんでも異国では神の端くれの末裔とかで。」
「俄然興味がわいたわ。会わせて頂戴。私の生まれ故郷の子かもしれないし。」
「魔女様も異国の生まれでしたか?確かに黒髪に赤の瞳はあまりいませんが…。」
「私は特別。(転生ボーナスとか言えない…。)とにかく、会わせて頂戴。話はそれから。」
村長を伴い、奴隷商人が泊まる宿屋まで足を向けた。
宿屋の応接室を借りて、奴隷商人、村長、私といったメンバーで席についていた。
「ようこそ、高原の魔女様。このような席を設けていただきまして…。」
正確には村はずれの高台に暮らしてるが、高原とは言えなくもない。ここでは高原の魔女という事にしておこう。
「口上はいいわ。噂の子を連れて来て頂戴。金貨なら好きなだけ出すから。騙そうって魂胆なら私のドラゴンキラーが黙ってないけどね?ルキウスちゃん、おいで?」
そういってから召喚魔法で私の召喚獣でもあるルキウスを呼び出した。
「呼んだかにゃ?アルマのドラゴンキラーキャット、ルキウスにゃ。お見知りおきを。」
「ドラゴンキラーが猫とは…。魔女様は不思議な生き物を飼育しておりますなぁ…。」
「だから、お喋りはいいから早く連れて来いって言ってるの。」
「それが事情がありまして…。私の居室まで足を運んでいただけますか?」
「あら何?まだ乳幼児とか言わないでね?まあそれはそれで楽しそうだけど。」
「魔力の高い乳幼児なんですよ?怖くないんですか?」
「当たっちゃった。良いわ、育児でもしながら働くますよ、私だって」
「…すみません!!どうかこの子を引き取ってください!!対価はいりません、この子を幸せにしてやってください!!」
「どんな心変わり?貴方一応商人でしょう?」
「捨て子を拾ったは良いのですが、怪事件ばかり続いておりまして。きっと彼が忌み子だからだという噂が立ってしまいます。商人は評判が命です。魔女様なら引き取ってくださるという天啓としか言えません。どうか我らに不幸を振りまかないように幸せにしてください!!」
「厚かましいにゃ、人間はこういう奴ばっかだにゃ。アルマ、どうする?」
「そこをなんとか!!」
「私の事しか考えないなら、知ったこっちゃないけど困ってる人を助けろっていう使命があるからね。良いわ、その代わり育児用品もタダでつけて頂戴?私の家は何もないの。あるのは、実験道具と苗と生活用品だけなの。」
「フルセットでお付けします!!ではこちらが書類で、今連れて来ますね!?」
「村長、荷馬車の用意を。忙しくなりそうね?」
「この村は元々忌み子だらけの村です。それくらい、大した事ではないですよ。」
「それもそうね、私が来たばかりの頃の初代村長も忌み子と言われて迫害されてこの村に流れて来た子だったしね。単なる白髪赤目だってだけだったのにね。アルゼイド、今頃何やってるかしらねぇ…。」
「300年前の村長なら今は墓の下で寝てますよ。私もその血を継ぐ一人ですがね?」
「偶然にも貴方の名前も『アルゼイド』だしね。そうでしょ?」
「そうですね、魔女様の名前も今日解りましたしね。アルマが貴方様の名前でしたか。」
「アルマ・ミササギがフルネームよ。さて新しい子はどんな名前かしらねぇ?」
「女の子でしたらぜひ『ラゼル』と名付けたいですね。」
「あなたのお嫁さんがラゼルじゃない。この村では女性名の代名詞はラゼル、男性名の代名詞はアルゼイドかバロックヒートでしょ?」
「それくらい先祖の名は偉大なんですよ。あ、商人が来たようですね?」
「お待たせいたしました。こちらがお話しした藤四郎です。」
「あら、本当に綺麗な子。初めまして、私はアルマ。あなたのお母さんよ?」
「…俺は藤四郎。アンタが母上になるのか?殴るのか?母親って奴は殴るもんじゃねぇのか?」
「悪い事したら怒るけど、貴方は何か悪い事したの?存在が悪なら魔女の私はすべて悪になるわ。」
「高原の魔女様は白魔術使いだ。立派な医学者だ。お前もその弟子に選ばれたんだから精進するんだぞ?」
「オレも医学者になるのか?」
「藤四郎がその道に進みたいと願うなら。いくらでも教えるわ。」
「必要にゃらドラゴンキラーが戦術の手解きもするにゃ。お前さんその短剣手放さないほど、戦いが好きのようだしにゃ?」
「生まれたのが戦場なんだ、コレがないと生きていけなかった。」
「傍において気が休まるなら、傍に置けばいいわ。さあ、帰りましょう?商人さん、荷物は明日でも構わないわ。この子は私がもらってくから。」
「ありがとうございました。またごひいきに。」
この世界に来て早3000年これから子育て始めます。まずは着替えを用意しなくては。
「お買い物しなおさないとね。準備があるからアルゼイド、この子見ててちょうだい。ルキウス、手伝ってちょうだい。」
「はいにゃ、マスター。なまり節買った?」
「アイテムボックスに入ってるわよ。」
「寄越せニャーん!!今すぐだニャーん!!」
「はいはい、ほれほれルキウスちゃんおいでー。」
もう一度市場に足を向けて着替えを用意に奔走した。2歳児にしては小柄な藤四郎はどのような服を好むのか分からないし、そもそも性別が不明。名前からして男名詞だが一応女の子でも使うわけじゃない音感の為性別が解らない。男の娘だったらどうしよう…。
どうやっても悩む…。間を取って中性的な服を選び足早に宿屋に戻った。
「アルゼイド、ありがとう。はい、お礼のケーキ。紅茶のシフォンケーキがまだ残ってたから買って来たわ。」
「マーシャのケーキじゃないですか!!今ちょうどココの話をしていたところですよ。藤四郎、ここはこの村一番のお菓子屋でこの紅茶のシフォンケーキは、特に絶品ですよ。食べますか?」
「そこまで言われたら欲しくなる…。」
「藤四郎、お言葉に甘えなさい。私、まだ準備終わってないの。」
慌てるように宿屋を出て、いったん自宅に戻った。そして藤四郎用に寝床の支度や買った服の収納、調合薬の瓶詰も同時にこなさなくてはいけなくなったので一苦労だった。その頃、宿屋の応接間では…。
「じゃあ、はい。ごちそうになります。」
「礼儀正しい子ですね、藤四郎は。母君はそれは聡明で疫病を未然に防いだこともあるんですよ?」
「その話はさっきも聞いた。」
「ただいまー、いい子にしてた?」
「本当に2歳児なのか疑問に感じるほど聡明な子ですよ、藤四郎は。」
「アルゼイド、意外と暇人にゃ。ルキの事放置でアルマ賛辞のエンドレスリピートだにゃ。」
「あらあら。困った子ね。じゃあ、準備も終わったからご飯食べに帰ろうか?」
藤四郎を抱え、自宅まで歩きだした。足元ではルキウスがトテトテと付いて来る。
「みにゃー、今日は何かニャー?」
「あじのなめろう、ポン酒添え。」
「にゃにゃ!!アルマの料理は最高に美味しいにゃ、特に魚の料理はうまいにゃよ?」
「魚は好きだ。」
「あら、大人の味だけど平気なの?塩焼きじゃなくて平気?」
「日本食が食えるとは思ってなかった…。」
「この村は日本の文化に寛容な村なの。大体2~3年のブランクがあるけど日本文化が流行するようになってるの。不思議な事に。迷い人が多いせいかしらねぇ?」
「迷い人?」
「異世界からくる転移者の事よ。この世界では迷い人と総称するの。私は転生者だから迷い人ではなかったけど、神の恩恵を受けるものではあるわ。牛丼屋もあるわよ?」
「ルキウスはその神様の使いにゃ。アルマは女神ソレーヌの命令を受け、この世界で世直し魔女してるにゃ。
藤四郎を助けたのもその一環にゃ。」
「恩恵の内容は不老不死と最大の叡智、禁忌書物の閲覧可能になってるけど、その他のスキルは測ってないから分からないわ。」
「どんだけチート魔女なんだよ。」
「体力は平凡よ?」
「前線は任せてくれ、すぐに大きくなるから。アンタの役に立つ男になるから。」
「頼もしい子。ゆっくりでいいのよ、すぐ大きくなっては楽しくないじゃない。」
まだ話してないけどこれでも齢3000歳の魔女ですから子供の時期を楽しみたい。せっかく手に入れた可愛い子供。育児を楽しみたい。
「はい、到着。ここが私の家よ。近いでしょ?」
「そうだな、こんなに近いとは思わなかった。」
「お魚捌くよー。今作るからルキウスと遊んでて。」
「ああ。…これは?」
「それはお仕事の材料よ。私は古い言い方だと薬師なの。薬を作って卸す仕事ね。やってみたい?」
「回復薬なんかも作るのか?やってみたい」
「依頼があればね。一応疫病発生時の緊急回避用の予備はあるけど。あとで試しに作りましょうね、藤四郎。」
見事な黒髪をくしゃりと撫でてやると顔を赤らめた、何この可愛い生き物。
「猫にネギって危険じゃなかったか?」
「ルキは特別だにゃ。これでも神の使いにゃ。人間と同等の食事しても平気になってるにゃ。だからルキを参考にするのはお勧めじゃないにゃ。」
「普通のネコにはネギは危険なんだよな。」
「そうにゃ、藤四郎は賢い子にゃ。この世界の奴らは猫に対しての知識が少なすぎるにゃ。この前はネギ入りの魚食わせて死んだ子もいたにゃ…。ルキの友達だったにゃ。まだ子猫でこれからだって時に…。」
「ルキウスは置いてかれてばっかりか?」
「寿命なら仕方ないって思えるけど、事故死や病死はやるせないにゃ。一番嫌なのは中毒死にゃ。一番悲しく成るにゃ。」
「ルキウスはいくつ?」
「アルマと同い年の3000歳にゃ。アルマは見送る側だったけど、それはルキも同じにゃ。人間は儚いにゃ。」
「オレは置いてかない。母さんとルキウスの傍にいるから。」
「先代のアルゼイドも同じ事言ったにゃ。でも置いてったにゃ。アルマは孤独にゃ、藤四郎、神の末裔なら孤独な魔女を救えにゃ。」
「この短刀を大事にしてくれるか?それによっては俺はその分長生き出来るんだが…。」
「お前は付喪神かにゃ?!初めて見たにゃ、ガチモンの付喪神は。なるほど刀身と同じだけの美しさと強さを宿す良い刀にゃ、ソレーヌ様も良い縁を引き寄せてくれたにゃ。」
「この事は母さんには内緒でな。」
「男同士の秘密にゃ。アルマ驚くにゃ。アルマも日本での生まれにゃよ?」
「見えないが母さんも何か特殊な力があるのか?」
「アルマの魔力の色にゃ、あの瞳の色は。攻撃魔法は火属性が得意なんだにゃ。」
「まるで緋の色だな。綺麗だが怖くもある。」
「アルマの昔はそれを気にしてたにゃ、他人と違うから。土地を転々としながらこのノズワルドまで流れて来たにゃ。300年前、この地に根を張ることになったが、アルマは怯えてるにゃ。迫害されるのが怖いんにゃ。」
「オレの色は禁忌の色らしいから親に捨てられたんだがなぁ…。」
「アルマはつないだ手は離さないにゃ。」
「出来たよー。藤四郎はこっちね。」
食卓にはアジの塩焼きとなめろう、青菜のぬた(辛子酢味噌和え)ご飯と味噌汁という純日本和食が出来上がってた。
「アルマ、景虎を開けるにゃ。祝杯にゃ!!」
「はいはい、飲みすぎても明日の看病はしないからね。」
「加減するにゃ、藤四郎には早いにゃ~。」
「オレこの見た目がアレだが4000歳なんだがなぁ…。」
「「ファ!?」」
「だから酒もたばこも平気なんだよなぁ、これでも。」
「拾った子が自分より年上って…。」
「ルキも神の使いだけど、まだひよっこ使いにゃ。藤四郎、さっきの事話してもいいかにゃ?」
「ただの人間で4000歳は流石におかしいだろ?話した方がいいだろうね。」
「藤四郎は刀の付喪神にゃ。さっきの短剣が依り代にゃ。」
「…短刀で、藤四郎…って事は粟田口の短刀か。銘は?」
「薬研通し藤四郎。名前っぽいのがないし、薬研と名乗るにはちとあの商人は人が良すぎた。」
「なんだ、そういう事か。お前の兄弟もいつか見つかるといいね?藤四郎。」
「…は、それでも受け入れるのか?」
「魔女がいる世界にいきなり飛ばされたんだ、それぐらいで動揺するとでも思ったの?」
「アルマは剛の者にゃ、3000年間一緒にいたけどこんなアルマは見たことがにゃいにゃ。」
「ご飯冷めるから食べなさい。不味くなるわよ?」
「アルマのご飯は世界一にゃ!!」
「確かに美味い。これが毎日かぁ…なかなか良い所に拾われたもんだ。」
「藤四郎はいいお母さんに拾われたにゃ。アルマは世界一のお母さん魔女にゃ!!」
「早く食べなさい。」
こうして夜は更けていった。
―第一話・魔女と付喪神 完―