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ROBO to ME  作者: 遠野遠里
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発見

 既に他のロボットたちがそのエリアの探索を開始しているらしく、モニターには位置情報が適宜送られてくる。それを参照し、まだ手付かずのエリアへと足を進めた。かつては連日連夜フル稼働で大量の我々を製造していた工場も、もはや朽ちて崩壊を待つばかりである。止まったベルトコンベアーは錆と苔で斑になり、辺りには錆び付いた部品や我々になり損ねた無機物の亡骸が転がっている。錆を落として手入れをすればまだ使える物もあるかも知れない。

 だが、今は人間を探すのが先である。金属片たちに背を向け、モニターに映る数値を監視しながら再び工場内を移動していく。収穫もなく製造ラインの探索を終え、建物の裏手にある居住エリアへと移った。かつて経営者たちが住んでいたエリアなので、工場内よりは人間の存在───或いはその痕跡───が発見できる可能性は高い。

 金属を扱う工場に比べて建物の強度が低めなためか、住居は風化と倒壊の進行が激しかった。天井は上階もろとも落ちて室内から空が見渡せる。壁も崩れ、雨風を凌ぐ役割すら最早果たしようもない状態だ。その雨風に晒されて、室内の調度品も見る影もない。今まで無数に探索してきた街と同じ、死んだ家々だった。

 それでも手抜きなどというものは我々のプログラムには存在しない。人間を探し、救い出すことだけが我々ロボットの使命である。モニターで生体反応の有無を探りながら住居内を調べていると、カメラに通常パターンとは異なる物が映った。


 それは冷凍睡眠装置だった。極限まで体温を下げて冬眠状態になった人間が入る、幾重もの頑健な金属によって造られた筒状の生命維持装置である。世界が終わろうとした際、星外脱出を試みた者はこの冷凍睡眠装置に入って宇宙へと飛び出していった。だが、遠い未来にこの星が甦ることに希望を託し、冷凍睡眠装置で地球に留まった者も一定数存在したのだ。

 今までにも何度となくそんな冷凍睡眠装置を発見してきたが、一人として生存している人間は居なかった。装置が劣化に耐え切れず壊れているか、そもそも冷凍睡眠に失敗して死亡しているか、いずれにせよ装置は金属製の棺桶と化しているものばかりだった。今回も恐らくそうであろう。しかし、生死を問わずそこに人間が存在する可能性がある以上、看過することは許されない。

 装置は今にも崩落しそうな瓦礫の隙間にあるため、離れた場所から生体反応を確認する。今までと同じく、モニター上の表示は微動だにしない───筈だった。数値が上昇したのだ。装置の内部に、生体反応を示すものが存在する。ここで、何らかの生命体が今だ生命活動を行っている。


 緊急事態である。数値から判断するに、それは小動物などではない。睡眠状態に於ける人間が発するものとほぼ同等の生体反応がモニターに表示されている。それが人間であるならば、最高レベルの厳重な体勢を以て速やかに救出し、手厚く保護しなければならない。人間は我々の絶対的な主君であり、人間が晒されている危機を看過することは我々のプログラムに反する。

 生物が居なくなったこの世界に生き残っている人間は、文字通り最後の希望である。そして、もしも同じ様に他にも生き残っている人間が居るとすれば───更にそれが異性であるとすれば、この人間は最初の希望にもなり得るのだ。


 通信に応じてこの一帯からの応援が駆け付け、我々は冷凍睡眠装置及びその内部の人間の救出活動に入った。装置は侵食と風化の進行した瓦礫で辛うじて支えられている状態であるため、少しでも力が加わると崩れて落下してしまう恐れがある。モニター計測から各所に掛かる負荷を計算し、工場内に残された有り余る部品を駆使して必要な器具を作成する。どうしても不足するパーツは我々自身の機体から提供し、最後の希望である人間が眠る冷凍睡眠装置は無事に地上へ下ろされ安置された。

 中の人間がどの様な状態で生きているのかは分からないが、このまま装置に眠らせておくか、装置を開けるか。我々は後者を選択することにした。現在のところ植物しか生存しない死んだ星の環境ではあるものの、その植物たちを利用して酸素や水、食物を生成する装置を作ることはできた。医療器具や薬品類は経年劣化によりほぼ無いに等しいが、基本的な医療知識と救命技術は我々に標準搭載されている。

 それで対応できるのかは不明だが、仮にこの先何十年が過ぎてもそれは変わらない。寧ろ物資は今よりも更に劣化が進んで乏しくなるのだから、今の方が幾らか可能性は残されていると判断したからだ。


 冷凍睡眠装置を囲んだ我々は酸素の装置と僅かばかりの救命器具を整え、塗装が剥がれ錆が浮いた金属製の装置のロックの解除を試みた。だが、錆び付いて開かないため細心の注意を払いながら装置を破壊し、周辺の大気中の成分バランスと装置内の生体反応の数値をモニタリングしながら少しずつ扉を開いていく。

 中に眠っていたのは少女だった。10代半ばほどであろうか。長年の冷凍睡眠のためかやや華奢ではあるが、顔色は悪くなく普通の睡眠と変わらない様子で眠っている。驚いたことに、装置はほぼ正常に稼働を続けていたらしい。

 扉の開放に従って、設定通り徐々に装置が覚醒モードに移行していく。やがて装置は完全に停止したが、生体反応に変動は見られず身体機能の異常を示す数値も表示されない。少女が自発呼吸を開始し、モニターに映る数値が安定しているのを確認する。


 彼女は冷凍睡眠による生存に成功し、尚且つ現在のこの星の環境に耐え得る身体を持っていた。

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