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4 地下

 世界的にAIが希求された結果、AIに基づく実行力の需要は未曽有の速さでいや増していく。供給は一瞬で置き去りにされた。

 しかし、身近なところに解決策はあった。


-§-


 地下道はご丁寧にも、招かれざる客に対して等間隔で明かりを灯し、道しるべを与えてくれた。


「すこぶる順調だな」

「素晴らしいことだ。だが、油断してはならない」


 隊長は俺の軽口にも生真面目に応答した。伝統的に、AIのジョークライブラリは異様に充実している。

 昔は口調ももう少し丁寧でお優しかったらしいが、命令違反が続出したため居丈高になったそうだ。そうだろう。役割には役割に似合った言動が含まれる。無能な人間の自己判断など、無用の長物に他ならない。

 半導体メーカー本社の地下を駆け抜ける。枯草色のペンキが陰気な地下は、研究所の趣を見せていた。

 コンクリ壁は蹴り破り、待ち伏せる敵は隊長が一発ずつお見舞いして無力化していく。俺は何もしなくても道が開ける。楽でいい。

 目的地は定まっているようで、足取りに情報収集の一拍がなかった。


「ここをぶっ壊すのか?」

「そうだ。爆破ポイントに向かっている」


 へぇ。たった二機の爆薬でも壊せるもんなのかね。

 爆破ポイントはAIが知っている。俺は任せておけばいい。バリケードを飛び越え、血だまりを蹴って走り抜ける。

 壁を蹴り破る隊長に続き、別の通路に駆けこんだ瞬間。


「っくそ!」


 俺は機関銃を乱射しながら横に跳ぶ。枯草色の壁にぶつかった。

 通路の真ん中に、やたら大きい猟機が立ちはだかっている。

 俺の銃弾はずんぐりした猟機の装甲でばちばちと光り、どこかへ消えてしまっていた。貫徹できない。戦車クラスの装甲を持つ猟機って、マジか!?


「伍長、不審な反応を検知した。索敵せよ」

「はあ?」


 索敵もクソも、目の前に敵がいる。

 大型猟機が腹に吊るす大砲と目が合いそうになり、跳び退る。あんなクソデカバズーカを食らったら木っ端微塵だ。冗談じゃない。

 左右にステップを踏みながら銃撃を浴びせる。装甲表面が弾け、銀色が露出していく。


「伍長、敵反応。大型猟機だ」

「もう戦ってる!」


 まるで今まで気づいていなかったかのように、隊長は大型猟機に機銃を向けた。

 精密な射撃で関節部を撃ち抜く。が、


「ダメだ、貫徹してねぇ!」


 どんな素材でできたものか、大型猟機は関節をいくら撃たれても平気な顔で動いている。隊長に大砲を向けた。

 やべぇ。

 突っ込む。邪魔な銃架を格納した。スライディングで大型猟機をすり抜けてすれ違い、

 爆発。


「っぐあ!」


 全身あちこちを打ち据える。

 耳が遠い。まともに食らってないはずなのに、巻き込まれた。なんとか立ち上がる。


「隊長、こいつどうすればいい。隊長?」


 息を呑んだ。

 地下が燃えている。

 隊長の猟機が半分消し飛び、残りが潰したアルミ缶をまた広げたみたいになっていた。

 大砲を食らったらしい。隊長が? そんな馬鹿な。


「だって隊長はAIだぞ」


 必然的に合理的で、演算を欠いた行動はあり得ず、血の通わない頭脳には動揺も恐怖もない。いつだって的確な判断を下すのだ。

 自身の存続という、成否の分かり切った行動に対して、判断を誤ることなど考えられない。

 ……状況把握に錯誤があった場合を除いて。


「まさか」


 大型猟機が悠然と振り返る。装甲表面の引っかき傷から、塗料の下の銀色が見えた。

 あの傷がつくまで、隊長は大型猟機に気づかなかった。

 ステルス――いや、そんな古臭い欺瞞ぎまんはもうAIに通じない。


「お前、演算を騙すのか」


 大型猟機から、大砲に装填する音がする。

 咄嗟に猟機を走らせた。再び敵に駆け寄っていく。

 砲弾はかすっただけで衝撃波で死ぬ。鼓膜が破け、脳がシェイクされ、目玉が破裂するだろう。撃たせるわけにはいかない。狭い廊下だから、背後に回るしかない。

 大型猟機が大きく足を広げた。先ほどのスライディングに対応しようとしている。


「くそっ!」


 即座に横っ飛び。壁に蹴爪を立て、三角跳びに大型猟機を飛び越えた。

 大型猟機がのっそりと振り返る。

 こいつはクソほど鈍重だ。銃撃をものともしない装甲と、アホみたいな大砲。機械から忘れられる魔法の塗料。こいつはAI狩りに特化している。


「どうすりゃいいんだ、こんなの!」


 着地するなり身を翻す。振り返る最中の背中に取りついた。このまま背後をキープしてやる。

 大型猟機は転回をやめた。

 壁に向かって背を向けている。間に俺を挟んだまま。


「あっ、ぶね!」


 蹴り落ちることで、からくもけた。

 大型猟機が背中を叩きつけたコンクリートは角砂糖のように粉砕されている。なんちゅうパワーだ。

 大砲がぐるりと動く。

 呆然とする暇すらない。埃を払って跳ねまわり、大砲の矛先から逃げる。機銃で撃っても、まるで効き目がない。関節が狙われることを知っていて、装甲化しているのだ。


「くそったれ。俺はどうすればいい?」


 隊長は応えてくれない。頼れる味方AIはもう死んだ。

 隊長ならどうする? 装甲を貫徹できないなら関節を撃つ。なぜか。猟兵は火力ではなく機動性で有利を得る兵科だからだ。

 大型猟機は装備を欲張ったために鈍重だ。速度は、すでに死んでいる。

 ならば次は?

 跳躍した。これまでの俺のパターンから学び、背後を警戒する大型猟機を見下ろす。壁と天井に蹴爪を立て、ぶら下がる。

 銃架を引き、銃口を向けた。猟機のうなじ。装甲の継ぎ目に。


「くそくらえだ」


 撃ちまくる。

 ごぼ。

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