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4 街

 高度に最適化されたAIを世界中に影響させるにあたって、思わぬ障害が現れた。

 端末の要求性能が釣り上がっていったのだ。

 AIを搭載したロボットが街をほっつき歩いていたら、そんな金塊はすぐさま盗まれるだろう。

 そういや、黄金狂時代って映画があったな。


-§-


 民間人を踏み潰す。

 ぷちっ、と気持ちよくはいかない。ぶに、ぼき。こんな感じだ。

 猟機の足が取られるからあまり踏みたいものではないが、足の踏み場もないのだから仕方がない。

 左右にビルのそびえる繁華街を駆けていく。歩行者天国とやらで人がごった返していた。

 検問で四人も失ったため、もはや十人しか残っていない。隊長含めれば十一機だ。サッカーチームかな?


「磯野、サッカーしようぜ! お前ボールな!」

「磯野って誰だよ!?」


 面白黒人は俺の蹴ったスーツのおっさんを避けて怒鳴った。そうか、いまどきの日本人は長谷川町子を知らないのか。

 磯野サッカーは長谷川町子ではない。戒め。


「目的地まであと二ブロックだ」

「ほお、ついに」


 こんなところに敵施設があるとは驚きだ。そういえば目標の場所聞いてないや。

 突然、隊長が弾かれたようにビルに飛び込んでいく。

 俺もとっさに左手のショーウィンドウに飛び込んだ。店内にうずくまっていた女性がガラス片を浴びて絶叫する。


「あ? おい……」


 取り残された面白黒人の猟機に穴が開いた。次々に穴は増えていき、その度にぐらぐらと踊って、自分の足につまづいて転んだ。血だまりが広がっていく。

 撃たれて死んだ。

 キャタピラの音、機械のこすれ合う足音。ヘリの爆音も聞こえてくる。

 地上戦最強編成、戦闘ヘリの支援を受ける猟兵随伴の戦車様だ。


「ちっ。街中で戦争するつもりかよ」


 殴り込んだのはこっちなのだが、そこはそれ。AIの命令だから仕方がない。

 赤い芋虫のような女性を踏み越えて、天井を粉砕しながら階段を駆け上がる。壁を蹴り破って幅跳び。隣のビルにへばりついた。うまいことに、眼下の道路で敵部隊が行列を作っている。

 銃架を展開して隊列を掃射。

 猟兵が何機か爆発したが、肝心のヘリは見当たらないし、戦車に弾は効きゃしない。

 こりゃダメだ。ケツまくってビルの窓に転がり込む。爆発が背後から追い越していった。戦車の砲撃だ。オフィスだった瓦礫を払ってビル内部を走る。

 通信が素っ気ない声を放った。


「伍長、隊列を乱すな。遅れているぞ」

「隊列もクソも、今あんたがどこにいんのか、仲間がまだ残ってるのか、さっぱり分からねぇんですがね」

「私と伍長だけだ」

「ああそうかい」


 分かりやすくてなによりだ。で、この場合、迷子は俺のほうなのか?

 ビルを横断して窓に体当たり。表の目抜き通りに並んでいる敵部隊がぞろりと俺を振り仰いだ。


「おっと、こりゃどうも!」


 猟兵の一人を踏み潰す。銃架を展開して隣の猟兵を撃ちながら跳躍。俺を狙った十字砲火の流れ弾で足元が爆発した。煽られて壁に叩きつけられる。


「ひゅぅ! 派手な死にざまになりそうだ!」


 蹴爪を窓枠に引っかけ、機銃をフルオートでぶっぱなしながら壁を駆ける。敵の猟兵たちもまた銃架を展開し、よく鍛えられた行進(マーチング)のように、ぞろっと俺を見上げる。


「よいしょお!」


 壁を蹴る。竜巻のような銃撃が足下を薙いだ。

 意外なことにまだ生きている。どうやら俺は幸運らしい。

 だが、その悪運もそれまでだ。放物線を描く機動など、AIにかかれば鼻クソほじりながら当てられる。AIは鼻クソほじらないが。

 竜巻が鎌首を持ち上げ、俺を巻き込む寸前に敵猟兵が爆発した。

 戦車に着地して、機銃を掃射する。突然統制を失った猟兵たちは、一網打尽に削られていく。


「合流を支援する」

「隊長かよ! どうりで!」


 おそらく、俺の相手をしていた敵性AIを狙撃したのだろう。AIを欠いた猟兵部隊など案山子にもならない。


「おっと。それよりも戦車か」


 膝下のハッチを開けて機銃を差し込み、内部に跳弾の嵐を吹き荒らす。搭乗員は残らずミンチになっただろう。

 通りの向こうで爆発が閃いた。

 戦闘ヘリがAIの餌食になったのだろう。格闘戦になってしまったら、猟兵の機動力にヘリが追いつけるはずもない。

 戦闘を越えてなお傷一つない隊長が、黒焦げの道路を踏む。


「行くぞ伍長。作戦目標まであと二ブロックだ」

「はいはい」


 隊長の先導に従い、死体の山を後にして走った。

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