2 森
戦争をしている。
どことどこがやっているのかは知らない。
-§-
黒焦げになった猟機を蹴爪でしっかりと踏んで森を進む。
土まみれの枝から、腐葉土が零れ落ちた。くすぶる煙が焦げ臭さをまき散らしている。
「ひでぇもんだ」
地雷があった。
先頭集団が踏み抜いて、空に巨大なキノコ型の炎が立ち上った。全滅しなかったのは、ひとえに縦列行進を命令した隊長の差配によるものだ。
その隊長は化学弾頭対策の熱交換システムとやらで、ひょいひょい元気に動いている。
「残骸が潰している場所に地雷はない! 足を滑らせて同じ轍を踏むなよ!」
ちろちろと燃える仲間の残骸を伝う。
装甲が発火すると言うのも面白い話だ。塗料が燃えているだけかもしれない。
焦げ臭さに鼻を鳴らしながら、のそのそ歩く装甲猟兵たちを数える。当初の六十四人はどこへやら。今や十七人しか残っていない。
これで破壊工作なんてできるのか疑問だ。それぞれ猟機の腹に抱える高性能爆弾には、お目当ての施設を吹っ飛ばすほどの破壊力があるのだろうか。
まあ、作戦内容を考えるのは偉いやつの役目だ。俺じゃない。仕事のことだけ考えよう。
「なァ隊長。マリファナとか大麻とか持ってねぇ?」
「禁止条項だ、伍長」
「聞いただけだろ。吸うなんて言ってねぇよ」
あれば吸うが。
嘆かわしいことに、俺はまだ麻薬を吸ったことがない。戦争兵士といえば麻薬だ。両者が切っても切れない関係なのは、映画文芸人類史、あらゆる文明が証明している。
文明人を自認する俺は、ゆえに当然のこととして戦争兵士の作法を守ろうと機会を窺っているのだ。
「貴官は軍人ではない。会社員だ、伍長」
「そうなのか。知らなかった」
なんの会社なのだろう。