08 ゴブリン野営地、襲撃
ゴブリンの野営地は王国の西方、森の中に建設中だ。
俺たち冒険者は、二つのパーティに別れ、それぞれ5人の冒険者が組み込まれている。
近衛兵団は一個分隊で、分隊長以下10名。全員が銀色に輝くフルプレートアーマーを身に着け、ハルバードやボウガンで武装している。
それに比べ、冒険者は装備が劣っている。
森を行軍中、冒険者パーティと近衛兵団は一切、話しをしていなかったが、近衛兵団の分隊長が突如、口を開く。
「斥候の報告によると、野営地はもうすぐのはずだ。身軽な冒険者3人で、様子を窺ってきてほしい」
重装備の近衛兵では目立ってしまうというわけだ。
俺が入った冒険者パーティのリーダー格である鎖帷子を着た戦士が、冒険者を指名する。
「それじゃ、弓使いのお前と、盗賊のお前。あとは⋯⋯そこのこん棒を持ったお前。冒険者の中では、軽装備だろ。ちょっと見てきてくれ」
見事に指名されてしまった。
三人で身を屈めながら、前進する。このクエストに参加している冒険者は皆、若く、俺が元勇者だってことには気が付いていないようだ。
20歳くらいだろうか、弓使いの若い男が口を開く。
「正規軍とクエストに出たのは、初めてなんですが。みんな、ああなんですか?嫌な感じです」
「彼らには彼らのプライドがあるんだろ。あっちはあっちで冒険者風情がって思ってる」
盗賊の男が答えた。
野営地は、まもなくだろうか。
盗賊が立ち止まる。
「いたぞ」
ゴブリン小隊の野営地は中央付近にテントが二つ、その間にたき火が一つあり、5匹程度のゴブリンが休んでいる。
野営地を囲むように剣や斧で武装した歩哨が5匹、木の上に弓兵が2匹、配置している。
あとはテントの中か。
「俺が戻って知らせてきます」
弓使いの若者が、待機地点に足早に戻る。
ゴブリン野営地付近に20名からなる冒険者と近衛兵が再結集した。
あとは作戦通り、冒険者のパーティ2つで敵を包囲し、歩哨を奇襲、合図で近衛兵一個分隊が野営地に突入する。簡単なお仕事だ。
「それでは、合図を頼んだぞ」
近衛兵の分隊長が言った。
冒険者達は二手に分かれて前進を開始する。身を屈めて、ゴブリンに見つからないように慎重に。
冒険者は、なんとかバレずに配置についた。俺の入ったパーティは、歩哨3匹と木の上の弓兵1匹を担当する。残りはもう一方のパーティが担当だ。
パーティのリーダー、右手に斧を構えた鎖帷子の戦士が、左手を上げ、前に振った。攻撃の合図だ。
弓使いが木の上の弓兵に弓を引き、放つ。
矢は命中したが、肩に刺さっただけだ。
「ギョアアアアアァァァ」
ゴブリンの叫び声が森に響き渡る。
すぐさま控えの魔法使いが、弓兵に向かって魔法詠唱を始める。
俺は、奇襲に混乱しているゴブリンの歩哨に向かって、走り出した。
ほかの2匹の歩哨にも、それぞれ短刀を構えた盗賊と斧を振りかぶった戦士が襲い掛かる。
突如、襲い掛かってきた俺に、ゴブリンは持っていた片手剣を振りかぶり、大振りの横切りを放とうとする。こちらの方が早い。素早く懐に入り、左手でゴブリンの片手剣を持った手を抑え込む。
恐怖で歪むゴブリンの顔面をこん棒で横に殴って降りぬく。さらに手を返して反対から、もう一発。ゴブリンは倒れこんだが、こん棒が折れてしまった。
ゴブリンが落とした錆びた片手剣を拾い上げ、もとの持ち主の心臓に刺し込む。苦痛にゆがむ顔をうかべ、そのまま絶命した。
辺りを見回すと、他の冒険者も首尾よくゴブリン共を倒していた。
しかし、少し目立ちすぎた。
「早く!合図を!!」
俺の声にハッとして魔法使いが上空に一発、炎の球を放つ。
野営地のテントからは、外の騒がしさに気が付いたゴブリン共が這い出してきた。
そして、それぞれ近くにある槍や剣を握って、戦闘態勢に入っていく。
近衛兵団は、まだ突入しない。このままでは、ゴブリンに奇襲を仕掛けた意味がなくなる。
俺たちのパーティリーダーは、唇を噛むだけだ。
俺は、手のひらを開いて、野営地に向ける。とにかく敵を攪乱する必要がある。
「全員、遠距離から火力を集中しろ」
俺は、精神を集中させ、炎の球を連続で発射し続けた。命中率は期待できないが、混乱させるには十分だ。
冒険者の魔法使いや弓使いも後に続く。 野営地にいくつもの爆炎が上がる。
ちょうどゴブリン共が再び混乱し始めた時、ようやく近衛兵団が突入してきた。
「あとは包囲殲滅するだけだ。隊形を維持したまま徐々に前進しろ」
俺はそう指示を出し、殺した歩哨の胸に刺さったままだった片手剣を引き抜いて前進する。
混乱したゴブリン共を殲滅するのに長い時間はかからなかった。
戦闘終了後、ゴブリンの野営地内を調べたが、アリサの父親につながる手掛かりは見つからなかった。
王都に帰る途中、近衛兵団の分隊長から独断の野営地攻撃を咎められた。
無視していると、鎖帷子を着た戦士が割って入ってきた。
「あんたらの突入が遅すぎたからだろ。逆に感謝したほうがいいぞ」
戦士は、そう分隊長に言い放った。他の冒険者も同意している。
分隊長はそれ以上、なにも言わなかった。
「あんた、いつもスライム狩りしかしてなかった冒険者だろ。実は凄い冒険者だったんだな」
戦士は、俺の横に並んで、そう声をかけてくれた。