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01 プロローグ

 「我を倒したところで、また別の者が君臨するだけだぞ?勇者よ」


 「それでもお前よりは良いだろう。魔王」


 俺は切っ先を魔王に向けた剣を振りかぶり、容赦なくその心臓に突き立てた。


 断末魔の叫びはなく、魔王は静かに口元を歪ませるのみで、そのまま床に力なく横たわった。


 激戦の割にあっけない最期だったので、まさか最終形態で復活するんじゃないかと疑ってかかったが、杞憂に終わったようだ。


 漆黒に包まれた魔王の身体は、舞い上がる光の結晶となって浄化され、消え去った。


 「やっと終わったね。ダリル」


 満身創痍のユウナがそう言って、俺に力なく笑いかけた。


 後ろで結んだ黒髪は多少乱れ、魔法使い特有の杖を頼りに立っているその姿は、疲労具合をよく表していた。


 「ああ。思ったより何も感じないものなんだな。もっと達成感みたいなものがあると思っていたよ」


 俺は故郷の村を出て2年間、魔王討伐を目標にいくつもの試練を超えてきた。


 しかし、実際に魔王を倒してみると、その実感は全く湧かなかった。


 「――くそ!魔王め!とんでもない一撃放ちやがって。もう盾がガタガタだ」


 使えなくなった盾を投げ捨てながら、パーティのタンク職である重戦士が近づいてきた。


 「オルフ、大丈夫か?」


 「なんとかな。危うく命まで持っていかれるところだった。ほんとタンク職は損な役割だ」


 重厚な鎧を身につけたオルフの影から、紺色の神官服を纏った華奢な女性が出てきた。


 「ヒールが間に合ってよかったです」


 そう言って、長い金髪を右手で撫でている。


 「エルザには感謝してるぜ」


 タンク職であるオルフが敵の攻撃を受け止め、ヒーラーである神官のエルザが回復を担当する。


 タンクとヒーラーには、絶妙なチームワークが要求され、パーティの中核をなす。




 「みんなはこれからどうするの?」


 ユウナがパーティメンバーに問いかけた。


 「俺はとりあえず王国へ帰るよ。国王陛下にご報告しなければいけないからね」


 そう言った俺に、オルフもニヤつきながら続ける。


 「俺も王国へ帰るぜ。もともと陛下の近衛兵だしな。原隊復帰ってやつだ」


 オルフは、王国近衛兵団に所属していたが、俺が陛下から魔王討伐の勅命を受けた時に、陛下がパーティに加えさせた。


 「私も町の教会へ戻ります。教会の子供達も待っていますから」


 エルザは、王国の外れに位置する町の教会で、孤児たちの面倒を見ていたが、類い稀な回復魔法の素養を見込んで、パーティに加わってもらった。


 孤児たちにとても懐かれていたので、説得するのに骨が折れたが、彼女をようやく孤児たちのもとへ返してやれる。


 「ユウナは?」


 俺がそう問いかけると、彼女は少し浮かない顔をした。


 「私は…。私も故郷の世界に帰るわ。ちょっと寂しいけどね」


 「もとの世界に戻るんだな」


 「ええ。ひと段落ついたしね」


 俺が彼女と初めて出会ったのは、勇者として故郷の村を旅立つ少し前で、彼女はニホンという国から来たと言っていた。


 異世界から転移したらしい彼女は、類い稀な魔法適正持っており、旅立つ俺に同行して、もとの世界に帰る方法を探すことになった。


 結局、帰る方法を異国の大教会で見つけた後も、魔王を討伐するまで付き合ってくれたのだが。


 「そしたら、みんなとはここで別れるね」


 魔王の城を出たところで、ユウナは無理に微笑しながら別れを告げた。


 「ああ。ありがとう。ユウナ」


 俺はそれ以上の言葉が出ず、最後に彼女と握手をした。


 面倒見のいいエルザは、2つ年下の彼女を本当の妹のように接していた。


 エルザはユウナを抱きしめ、何かしら言葉を掛けている。


 ユウナは、目に涙を浮かべ、微笑していた。


 「ダリルのことは任せておけ」


 オルフなりの気遣いなのか、オルフは最後にそう声を掛けた。


 そして、魔王討伐を終えた俺たちは、元いた国や故郷、世界に帰っていった。


 その後に待ち受けるそれぞれの運命も知らずに。




 ~13年後~



 「お客さん」


 「ZZZ」


 「お客さん!」


 「んが?これ、もう一杯」


 「お客さん、そろそろ店じまいなんですがね」


 「うるせー!もっと持ってこいよ」


 「もう出せません。帰ってください」


 「チッ、しけた店だな」


 俺は行きつけのその『しけた』店を出た⋯⋯ところまでは記憶があるが、気付けば城壁沿いのバラック(我が家)へ帰っていた。


 時刻は午前3時の帳の向こう、かび臭い寝床に身体を沈めている。


 安酒のせいで、胃がムカムカするし、気分は最低だった。


 まあ、あの事件以来、気分が最高!みたいな日はなかったが⋯⋯


 俺たちは13年前、確かに魔王を倒した。


 パーティが解散した後、俺はオルフとともに王国に凱旋した。


 街の中央通りには、俺たちの凱旋を歓迎する群衆が集まり、花びらが宙を舞い、黄色い歓声が飛び、王国の美女たち選り取り見取り、三日三晩の酒池肉林の大宴会⋯⋯のはずが、待っていたのは衛兵隊だった。


 凱旋するなり、衛兵隊に囲まれ、衛兵隊長が俺に告げた罪状は、


 『7歳になる国王陛下の孫娘、アンシア様への不敬罪』


 ひらたく言えば、ロリッ子姫へのセクハラ疑惑をかけられた。


 確かに⋯⋯といっても俺はロリコンじゃない。先に否定しておこう。


 確かに国王陛下は、魔王討伐を成し遂げた勇者を孫娘と結婚させるとおっしゃており、俺も何度か幼いアンシア様にお目にかかったことはあった。


 そして、アンシア様も俺を慕ってくれていた⋯⋯が、断じて手など出していない。


 そもそも俺の女の好みは⋯⋯そんなことはどうでもよい。


 疑惑をかけられた時点で、この不名誉な罪状を撤回できる策などなく、その後の俺は魔王討伐の功績にも関わらず、『ロリコン変態勇者様』として市中の笑いものにされ、週刊誌センテンススプリングには『勇者様、深夜の秘め事とその闇』などとあることないこと報道され、名誉ある地位も与えられず、伝説の武具を売り飛ばして金に換え、酒に溺れて体はなまり、高度な精神性を要求される勇者のスキルは使えなくなり、正真正銘のダメ人間に見事、クラスチェンジを果たしたのだった。


 まあ、魔王討伐の功績がなかったら、極刑は免れなかっただろうから、そこだけが救いではあった。


 命あっての物種であるが、もう少し救いがあってもよいだろう⋯⋯誰か俺を助けてくれないか。いや、養ってくれさえすればいいんです。

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