闇デレラ
「夢を信じるのよ、シンデレラ……」
魔法使いは言いました。
「夢を信じていれば奇跡は起こるわ、シンデレラ……」
「奇跡…………」
肌寒い夜の元、意地悪な継母にドレスを切り刻まれたシンデレラは湖のように澄んだ魔法使いの瞳をじっと見つめていました。
「さぁシンデレラ、願いを言うのよ。あなたの望む夢は何?」
「私の望む……夢…………?」
びゅうっとした風が吹き抜けます。
「私……私に…………」
シンデレラは胸に手を当て言いました。
「私に闇の力をおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!」
「あれえええぇぇぇっ?!」
【闇デレラ】
むかしむかし、遠いところに小さな王国がありました。
その国にはシンデレラというとても美しい娘がおりました。
妻に先立たれたシンデレラの父はなんやかんやあって再婚をすることになりましたが、なんやかんやあって病死してしまいました。
そして、その美しい娘、シンデレラはなんやかんやあって継母やその娘に壮絶ないじめを受けることとなってしまうのでした。
それは辛く苦しい日々でした。
辛酸を舐めるような苦しい日々を、シンデレラは血が出るほど自分の唇を強く噛みながら必死に耐えていきました。
なんやかんややってくる苛めを不撓不屈の精神で耐え抜いていきましたが、肥溜めの中で生活した方がまだましと思えるような生活にシンデレラは泣き出しそうになってしまいました。
実際に流したのは血の涙でした。
本当の涙じゃないのでシンデレラの中ではノーカウントでした。
シンデレラはこう考えていました。
「世の中には私よりも苦しい人がいるんだ」
そのまだ見ぬ人たちの苦労を思いながら、シンデレラは必死に必死に生きておりました。
そんな中、なんやかんやあってお城で舞踏会が開かれることとなりました。
それは王子様がお妃を見つけるための舞踏会であり、年頃の娘を多く集めろという息子の将来の心配をした王様の命令は、取りようによってはただのスケベ爺の戯れとも思われかねない命令でした。
それでも年頃の娘たちはお城へと集まっていきます。
お城の豪勢な食事をおなか一杯食べてみたい!と思ったシンデレラはとりあえずパーティーに参加できるほどのドレスを自前で作り上げるという職人顔負けの技量を発揮してしまいました。
布地はカーテンとじゅうたんで、針は残飯の魚の骨を加工して、それらの材料を駆使して一丁前のドレスを作り上げるシンデレラのその姿からは、おなか一杯おいしいものを食べたいという悪魔じみた執念、壮絶な気迫が漂ってきておりました。
しかし、折角作った立派なドレスも、継母の見事な謀計によってばらばらに引き裂かれてしまいます。継母には人を騙し陥れることに対して天賦の才がありました。生まれる時代と立場が違えば悪魔大将軍と呼ばれるような才を持った人間でした。
舞踏会へと旅立った継母と娘2人を見送って、シンデレラは人知れず泣いてしまいました。
それは血の涙でした。
本当の涙じゃないのでシンデレラの中ではノーカウントでした。
「世の中には私よりも苦しい人がいるんだ」
そう思って、シンデレラは苦しみに耐えていきました。
すると、どうでしょう?どこからともなく声が聞こえてきました。
「泣いてはダメ。シンデレラ。夢を信じるのよ……」
シンデレラは驚いて顔を上げ、周りを見回しますが不思議なことに誰もいません。
「……誰?」
「夢を信じるの。どんな辛い時でも、夢を信じるのよ、シンデレラ」
「あなたは誰?どこにいるの?ついでに私は泣いていないわ。血の涙だからノーカウントよ」
シンデレラが自分のこだわりを言うと、不思議なことにどこからともなく光の粒がふわふわと現れ、それが集まっていきました。
なんということでしょう。驚くことにその光の粒は人の形となり、1人の魔法使いがシンデレラの前に現れました。
「夢を信じるの。シンデレラ。前を向いて、祈るように夢を信じるのよ、シンデレラ」
「さっきから同じこと言ってる!」
「夢を信じるのよ、シンデレラ……」
魔法使いは言いました。
「夢を信じていれば奇跡は起こるわ、シンデレラ……」
「奇跡…………」
肌寒い夜の元、意地悪な継母にドレスを切り刻まれたシンデレラは湖のように澄んだ魔法使いの瞳をじっと見つめていました。
「さぁシンデレラ、願いを言うのよ。あなたの望む夢は何?」
「私の望む……夢…………?」
びゅうっとした風が吹き抜けます。
「私……私に…………」
シンデレラは胸に手を当て言いました。
「私に闇の力をおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!」
「あれえええぇぇぇっ?!」
その途端、シンデレラの周囲に黒い闇が纏わり付いていきました。
「わ、私の魔法が強制発動されている?!」
魔法使いはビックリしました。
シンデレラはその強靭な意思、不屈の精神力をもって魔法使いの魔力に干渉しました。「あなたの願いは?」と聞いた魔法使いの言葉を利用して、シンデレラは強制的な契約を魔法使いと結んだのでした。
シンデレラの姿が変貌していきます。
ボロボロになった衣服は漆黒のドレスに、傍にいた何も関係のない野良犬はシンデレラに従順な魔犬ケルベロスに、傍の畑にあった無数のカボチャにはジャック・オー・ランタンのような悪魔の僕が宿っていきました。
なんということでしょう。
闇の力を纏ったシンデレラ……闇デレラが誕生した瞬間でした。
「ハーハッハッハッハッ!実に清々しい気分よっ!この力があれば!この力があればなんだって出来るわ!」
「あぁっ!シンデレラ!なんということをっ!」
「感謝するわ!魔法使い!確かにこれは奇跡よっ!私という世界の変革者が生まれた奇跡の瞬間だわっ!ハーハッハッハッハッ!」
そうして闇デレラは魔犬ケルベロスに跨り、宙へと浮かびました。
「どこへ行く気っ!?シンデレラっ!」
「決まっているでしょ?素敵なドレスも手に入ったことだし、ちょっとパーティーにねぇ……」
そう言って、闇デレラは今まで苦楽を共にしてきたナイフを舌でぺろりと舐めました。
するとどうでしょう。ぼろぼろで刃こぼれしていたナイフは銀色の輝きを放つ研ぎ澄まされたナイフへと変化しました。
「さぁ、パーティーの始まりよぉ…………!」
凄みがありました。
「暴れようったって無駄よ!シンデレラ!その魔法は夢のようなもの!真夜中の鐘と共にあなたにかかった魔法は解けるのだわ!バカな考えは改めて諦めなさい!」
「……もちろん、それについても考えがあるわ」
そう言って、闇デレラは手に持ったナイフを魔法のステッキ代わりにして、魔力を込め、魔法使いに向けました。
「私は魔法をかけられた普通の人間ではなく、私自身が魔法使いになればいいのよ」
「シンデレラ……ど、どういう…………」
「あなたの魔法の力、頂くわ」
その瞬間、魔法使いの中にあった魔力が闇デレラに引っ張られていきました。ダ●ソンを思わせるような吸引力で魔法使いの力が闇デレラへと流れ込んでいきます。
「そ、そんな……バカな…………」
「灰を被り、灰汁を舐めるということは……こういうことよ」
闇デレラの鬱屈とした精神力は彼女の魔法の力を飛躍的に高めていました。
魔法使いは闇デレラの力に抵抗できず、力のほとんどすべてを吸い取られその場に倒れ伏せてしまいました。
あぁ、大変なことが起こってしまいました。
妖精である魔法使いが敵わないとなれば、もう誰にも闇デレラを止めることは出来ません。
ケルベロスは宙をかけ、周囲にはかぼちゃのお化けの群れが集い、闇デレラはきらきら光るお城へと向かっていくのでした。
* * * * *
「きゃーーーーーーーーーーっ!」
「怪物だーーーーーーーーーっ!」
お城は荒れに荒れました。
空中から突撃してくる強大な魔犬を止める術はなく、お城の外壁を破壊しながら闇デレラは易々とパーティーへ侵攻いたしました。
「さぁ!ランタンたちよ!このお城中の全ての食事をかき集めなさい!」
「かぽぉっ!」
闇デレラの目的は始めから1つでした。
お城のおいしい料理をおなか一杯食べてみたい!その一心で強大な力を望んだのでした。
お城の衛兵たちが闇デレラに敵う筈がありません。衛兵たちは全員、中をくりぬいた大きなかぼちゃの中に閉じ込められてしまいました!
「あー……おいしー……しあわせー…………」
闇デレラは満面の笑みを浮かべながら、頬っぺたが蕩けそうになる料理をおなか一杯味わいました。それはもう、天にも昇るような心地になったというものです。
顔をほころばせながらもっきゅもっきゅと料理を味わう闇デレラは今、世界一幸せな女の子でした。
しかし、料理は食べても食べても尽きません。
もうおなか一杯で食べられないとなってもまだ料理は山のように残っています。
「どうしよう……残すのは勿体なさ過ぎるわ…………」
闇デレラはかなりの貧乏性でした。まぁ、それまでの生活を考えれば当然と言えば当然の事でしょう。
自分が食べきれないのなら他の誰かが食べるべき。そう考えた時、闇デレラの中にあった自分の中の強い思いが浮き出されます。
『世の中には私よりも苦しい人がいるんだ』
それは闇デレラの中にあった強い強い思念でした。
この考えがあったから彼女は辛い日々を耐え抜いてきましたし、この考えがあったから彼女はこの世の中を憎んでもいました。
周りを見渡すと、この城はなんと豪勢なことか。
無駄に大きなシャンデリア。無駄に豪勢な調度品。無駄にお金のかかった贅沢品。
無駄無駄無駄。
彼女の中で何かががっちりと嵌まっていきました。
「貴様っ!何者だっ!」
宙に浮かびぼうっと城を見渡す闇デレラに大声で怒鳴りつける人物がいました。
「おぉっ!王子っ!」
「王子様が聖剣を携えて来てくれたわっ!」
「竜殺しの王子が助けに来てくれたっ!」
そうです。この国の王子は武を持って名を馳せた英雄だったのです。
妖精から授かった聖剣を携え、国を荒らす竜をやっつけた王子様は国中の憧れでした。今日のパーティーは王子様が竜を倒し城に帰ってくることを記念したパーティーだったのです。
それにつけて、彼の父親は王子の嫁探しも兼ねてしまったのですが……そちらは上手くいっていません。
疲れから早く部屋に引っ込んでしまった王子は騒ぎを聞きつけ、竜を殺した聖剣を携えて戻ってきます。
闇デレラと視線が交錯しました。
「あら、英雄様。料理ご相伴にあずかりましたわ。とっても美味しかった。ありがとう」
「君がどこの誰だか知らないが、この国に仇為すというのなら僕が相手になろう」
「あら、私と踊ってくださるの?光栄ね?」
そう余裕たっぷりに言いながらも、闇デレラはいそいそと余った料理を魔法で別の空間に閉まっていきました。戦いが始まって料理が台無しになってしまったら悔やんでも悔やみきれません。
「魔女めっ!覚悟っ!」
「ふふっ!さぁっ!来なさいっ!」
地に下りた闇デレラと王子のダンスは始まりました。
闇デレラのナイフと王子の聖剣が交錯していきます。闇デレラは自らの体に魔法をかけ、その身体能力を大きく向上させていました。
激しい剣戟が続き、何度も鉄と鉄が交わる火花が散っていきました。
「なにっ!?」
王子は違和感に気付きました。
自分の聖剣が刃こぼれしていっているのです。闇デレラの愛用のナイフが聖剣を削り取っていっているのです。
「バカなっ!」
「これは、当然の結果……」
2人の視線が交錯します。
「その聖剣は妖精から授かったものらしいですね。でも、私はその妖精である魔法使いの力を丸々取り込んだのですよ」
「何っ!?」
「聖剣よ、さらば」
闇デレラがナイフを振りました。
すると、あぁ!なんということでしょう!
国の財宝である聖剣が闇デレラのナイフによっていくつにも引き裂かれてしまいました!その攻撃を受けきれず、王子の体にもたくさんの傷がつき、血を吹き出し、その場に倒れてしまいました。
「きゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「王子様あああぁぁぁっ!王子様あああぁぁぁぁぁっ!」
周りにいた若い女性から悲鳴が轟きます。
王子様は魔女に敗北してしまったのです。
「さぁっ!ランタンたちよ!この城の中にある贅沢品を全て回収してやりなさいっ!」
「かぽぉっ!」
闇デレラは王子様に最低限の治療を施して、この城の金目の物を略奪していきました。
豪華な壺、綺麗なネックレス、絨毯、金箔、ありとあらゆる贅沢品を奪っていきました。城の中身はすっからかんとなりました。
「この絵画も高く売れそうですね」
闇デレラが壁に掛けられた絵画に近づいた時、闇デレラは突然すっ転んでしまいました。
それはもう見事にゴロンと転がり、べちんと床に鼻を打ってしまいました。
さっきまで激しい剣戟を行っていた魔女の姿とは思えない恥ずかしい姿でした。
「~~~~~~ッ!?」
闇デレラが転んだ体を起こし、背後を見るとそこには脱げたガラスの靴がありました。
ガラスの靴は脱げやすく機能性に欠けていました。
「靴をガラスで作るんじゃないわよぉっ!」
闇デレラは怒りました。
「ダメに決まってるじゃない!なんで靴がガラス製なのよ!全体重乗っかる一番頑丈じゃなきゃいけない靴をなんでわざわざ脆いガラスで作るわけ!?
壊れるわ!割れて砕けるわっ!当然よっ!ダメに決まってるでしょ!」
彼女はわーわー言っていました。
「機能性なし!贅沢品っ!割れるわっ!走ってる最中割れるわっ!当たり前でしょ!ダメに決まってるでしょ!意味が分からないわっ!ダメ!ダメ!贅沢品!このっ!贅沢品っ!」
まぁ、確かに常識的に考えて靴をガラスで作るなんてあり得ません。普通割れます。
そう言って闇デレラはもう片方のガラスの靴も脱ぎ、2つまとめて魔法で打ち砕いてしまいました。
ガラスの靴はあっけなくばらばらになってしまいました。
その様子を、朦朧とする意識の中、王子様は確かに見ていました。
「あぁっ!とても楽しいパーティーだったわ!また機会があったら呼んで頂戴ね!」
闇デレラはそう言って魔犬ケルベロスに跨り、素足のまま壁に開いた大きな穴から夜の闇へと消えていきました。
「ハーハッハッハッハッハッハ!」
その笑い声はどこまでもどこまでも響いていくのでした。
* * * * *
「いや!やめて!離して下さいっ!」
「いやー、やめてって言ってもねぇ?俺たちも仕事なんだよ、分かる?シスターさん?」
「そーそー、孤児院の経営が厳しいのは分かるけどさぁ?金、払うもの払ってくれないとこっちも困っちゃうわけ?分かる?」
なんということでしょう!
真っ暗になった夜の中、暗い孤児院の中でガラの悪い複数の男が1人の若いシスターを囲んでいました。
孤児院を支える若いシスターの元へ、悪どい貴族の者たちが借金取りに来たのでした。
「来月まで!来月まで待ってください!なんとかお金を用意いたしますから!この子たちの居場所を奪わないで!」
「くー!泣かせるねぇ!本当はダメなんだけどさぁ?俺たちも優しいから、お金以外のもので勘弁してあげてもいいかなー?って思ってんのよ」
「そう!俺たちやさしー!」
「お……お金以外のものって…………」
顔が青白くなりながらシスターが聞きました。
「分かってんだろ?若くて綺麗なシスターさん?」
「あんたなら、すぐにたくさん、金、稼げるから」
男たちは厭らしい笑みを浮かべながらシスターにより近づいていきました。
怖くて怖くてシスターは震えてしまいました。
「やめろぉ!シスターのお姉ちゃんに手を出すなぁ!」
「……なんだぁ」
貴族の者たちが振り返ると、そこには木刀を持った孤児院の少年が数人震えながら立っていました。物音がして起きてきたのです。
「シスターのお姉ちゃんから離れろぉ!」
「僕たちの家から出ていけぇ!」
「…………この餓鬼どもが……」
なんて酷いことでしょう!悪い男は子供が振る木刀をいなしてその子供を蹴り飛ばします。男の子は鼻から血を垂らし泣いてしまいました。
「いやっ!やめて下さいっ!子供たちに手を出さないでっ!なんでもしますからっ!」
「シスターお姉ちゃあああん!」
「ガキはさっさと寝てろぉっ!」
その時でした。
『あら、あなたたちは寝なくていいの?大人はずるいわね』
そんな声が孤児院の狭い部屋に響き渡りました。
ただの音ではなく、脳に直接届き響くような不思議で恐ろしい声。その場にいる全ての人は本能的な恐怖を感じました。
「だ……誰だっ!?」
「どこにもいねえぞ……!?」
「す、姿を現しやがれっ!どこにいやがるっ!」
『…………ここよぉ』
不気味な声と共に、その者は姿を現しました。
真っ黒のドレスを纏い、人ならざる威圧感を漂わせた魔女。
―――闇デレラでした。
闇デレラが普通にドアを開いて、礼儀正しくその部屋の中へと入ってきました。彼女は悪い者の家以外は壊さない主義なのです。
「だ……誰だ…………?」
「へ……へへ……よく、見れば、いい女じゃねーか…………」
「お、俺たちに楯突くなら……お……お前も一緒に、売っぱらってやろーか…………?」
男たちは必死に強がりました。そうしなければ圧倒的な存在感を持つ闇デレラに屈してしまいそうであったからでした。
「あら、素敵」
くすりと笑いながら闇デレラはナイフを一振りし、男たちに魔法を掛けました。
「ぐ……ぐわあああああああっ!?」
魔法の光が男たちを包み込みます。
しかし、何のダメージもありませんでした。平然と男たちは立ち上がります。
「て……てめぇ……今何しやがった……!」
「怪しげな光を放って……お前……一体何なんだ……?」
闇デレラはまたもやくすりと笑いました。
「女の子に乱暴しようとしていたみたいだから……」
「だから…………?」
「男の人にしか反応しないようにしてあげてみたわ。男の人の大事なところが、男の人にしか、ね…………」
男たちはぞっとしました。さっと血の気が引きました。
「ま、まさか……そんなこと……そんな魔法みたいなこと…………」
「あるわけが…………」
しかし、男たちは妙な違和感を覚えていました。
黒のドレスに身を纏った美しい闇デレラを見ても何も感じず、たった今襲おうとし、衣服の乱れたシスターを見ても何も感じません。
先程まで感じていた興奮感が嘘のように消えてしまったのです。
「お、お前……そんなに逞しい体をしてたっけ…………?」
「…………え?」
「お、お前こそ、よく見ると……結構綺麗な顔してんな…………」
「…………え?」
「……………………」
男たちは仲間内で顔を仄かに赤らめていきました。
妙な空気が流れていきました。
「う!うわあああああぁぁぁぁぁっ!魔女っ!魔女さんっ!俺たちが悪かったぁっ!今すぐ戻してくれぇっ!」
「悪かったぁっ!もう二度としないから、俺たちを戻してくれぇっ!何でもするからぁっ!」
「あら、同性愛は別に悪いことじゃないわ?私は応援しているわよ?」
「そんなこと言わないでぇ!魔女様ぁっ!」
男たちは闇デレラに縋りつきました。このままでは男の仲間内で酒池肉林の宴が始まってしまいそうだったからです。
「特別に許してあげてもいいけど……一つ条件があるわ」
「な、なんでしょう……?」
「あなたたちのような悪い人たちが集まったアジトの場所を教えなさい?汚い金をたっぷり抱えた、汚いアジトをね?」
「………………」
男たちに否定する権利はありませんでした。
「あの、魔女様、ありがとうございました…………」
「魔女様、ありがとう」
孤児院を出ようとする闇デレラにシスターと子供たちが声を掛けました。
するとどうでしょう。闇デレラは貴族たちから奪った贅沢品や料理を異次元から取り出しました。
「…………え?」
「まずはおなか一杯にしなさい。それからよ。そして、このお金で経営を立て直して、そうね……ちゃんとした経営者でも雇いなさい」
「な……なんでそこまで…………」
「ハーハッハッハッハッハ!」
シスターの質問には答えず、高笑いをしながら闇デレラは宙高くへと舞っていきました。
ケルベロスに乗り男たちを連れ、また夜の空へと消えていったのでした。
その晩、人々を苦しめていた悪い貴族が一つ姿を消したのでした。
* * * * *
「へっへっへ、お主も悪よのぉ…………」
「いえいえ、お代官様ほどでは…………」
「話はしかと聞かせてもらったわっ!そのお金!私が頂戴するっ!」
「なっ!?貴様っ!?何者!?」
「まさか!?今噂の闇デレラ!?」
「とうっ!」
「うぎゃあああああああああ!」
「ふっふっふ!同じ台詞しか喋れなくなる魔法はいかがかしら?」
「お主も悪よのぉ……お主も悪よのぉ…………」
「お代官様ほどでは……お代官様ほどでは…………」
「ハーハッハッハッハッ!1ヶ月はおなじ苦しみを味わっておきなさい!この料理……と後、ここに積まれたお金は頂いていくわ!とうっ!」
「お、お主も悪よのおおぉぉ……お主も悪よのおおおぉぉぉぉっ……」
「お代官様ほどではーーーっ!」
* * * * *
「へっへっへっ!貴族の娘を誘拐して身代金を奪い取ってやったぜ!」
「やったぜ!兄貴!これで俺たち遊んで暮らせるな!」
「んー!んー!んー!んー!」
「それで?口を塞いでいるこの貴族の娘さんはどうやって返すんだ?金はもう受け取ったぞ?」
「へへっ、お前は馬鹿だなぁ、返さないでこの娘も売っぱらっちまえばもっと金になるだろーが!」
「流石兄貴!悪い男だぜ!」
「!? んーっ!んーっ!んーっ!んーっ!」
「へへ、暴れてやがるぜ。可哀想に。この娘さんもこれから一生、惨めな人生か…………」
「話は聞かせてもらったわ!その娘!私が頂戴するっ!」
「なっ!?貴様っ!?何者!?」
「てめぇ!どこからっ!?」
「まさか!?今噂の闇デレラ!?」
「とうっ!」
「うぎゃあああああああああ!」
「ふっふっふ!逆に自分たちが誘拐されてしまう魔法はいかがかしら?」
「なんだぁっ!?馬の大群がこっちに!?」
「うわぁっ!?馬に!馬に運ばれてしまう!?」
「俺たちをどこに連れていく気なんだよぉっ!?」
「それはお馬さんたちだけが知っているわ!さらばっ!誘拐犯たちよっ!地平線のその向こうまで!」
「待ってくれーーーーー!助けてくれぇーーーーー!」
「で?貴族の娘さん?気分はいかがかしら?」
「あ……ありがとうございます。助けて頂いて……なんとお礼を申し上げていいのか……」
「お礼なんていらないわ。家までちゃんと送り届けてあげる」
「そ、そこまでして貰えるんですか!?ほ、本当にありがとうございます。闇デレラさんって本当はいい人なんですか?」
「そんなことないわ」
「こうして無事家のお金も戻ってきたことですし……」
「そのお金は私が貰うわ」
「……え?」
「そのお金は私のものよ」
「……あれ?」
「あなたを送り届ける駄賃がそれよ。別にそのお金が無くても貴族であるあなたの家、貧窮するって訳じゃないでしょ?」
「は、はい……そうですけど…………」
「さぁ!飛ぶわよ!しっかり掴まりなさい!」
「あれーーーっ!?」
* * * * *
「はっはっは!今日も贅沢三昧じゃ!」
「ちくわでも食ってろ、この豚ああぁぁぁっ!」
「闇デ……ふごおおおおおぉぉぉぉぉっ!?」
* * * * *
「オオカミが出たぞー!オオカミが出たぞー!」
「またあの少年が嘘をついているぞ」
「ほんとしょうがない嘘付きの子供ね」
「ダメだ……本当にオオカミがやってくるのに誰も信じてくれない…………もうダメだ…………」
「話は聞かせてもらったわ!」
「あなたは……!今噂の闇デレラっ!」
「狼たちには餌をたんまりやったから今頃おなか一杯よ!やっぱりまずはおなか一杯じゃないとね!」
「ほんとう!?ありがとう!闇デレラ!あぁ!助かってよかった!」
「でもいつも嘘ついてばかりの子にはお仕置きが必要ね!」
「…………え?」
「喰らえ!ただ単純に痛いビーーーーームッ!」
「ぎゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ……………………!?」
* * * * *
「マッチはいかがですかー……マッチはいかがですかー……
だめ……全然売れないわ……寒い……そうだ……マッチの火で温まれば…………
あぁ……暖かい……それに……なんでだろう……炎の向こうに……おいしそうな……ご馳走の……幻影が…………」
「幻影なんかじゃないわっ!好きなだけ食べなさいっ!マッチ売りの少女よっ!」
「え!?あ、あなたは……今噂の闇デレラ…………!?」
「好きなだけ食べなさい!頬っぺたが落ちるほど美味しんだから!」
「え……でも……いいんですか…………?」
「それにこれもあげるわ!貴族から奪った宝石よ!マッチよりもずっと売れるわ!」
「え……でも、そんな宝石買うお金なんて……私……持ってないですよ…………」
「物々交換よ!私はそのマッチを全て貰うわ!」
「え…………?」
「さぁ!料理を食べましょう!何事も、おなかを一杯に膨らませてからよっ!」
「は……はいっ…………!」
* * * * *
月を見上げていました。
闇デレラは美しい月を見上げていました。
黒いドレスは月の輝きを吞み込んでしまいますが、闇デレラの綺麗な金色の髪だけは月の光を受け輝いておりました。
何も罪のない純白の美しさ。
闇デレラは月の輝きにその美しさを感じ、自分の闇と対比し、ただ眩しい光を見上げていました。
「…………随分好き勝手やっていたようだな……」
そんな彼女の傍に1人の男性が現れました。
この国の王子様です。闇デレラが覚醒したその日、打ち倒した竜殺しの英雄様でした。
「あら、王子様。お久しぶりでございます。ご機嫌はいかがですか?」
「機嫌か……機嫌はどうだろう…………最近は国を騒がす魔女が暴れていて頭が痛かったからな……」
「あら、それは大変。ひどい魔女もいたものですね」
闇デレラは皮肉めいた笑いを作りました。
王子もまた同じような笑みを浮かべたのでした。
「それで?王子様?どうしてここに?」
「君に用があってきた」
「まぁ!王子様のような方にご足労させてしまうとは!言って下されば私の方から王宮に出向いて差し上げますのに!」
「…………君を斬りに来た」
「………………」
闇デレラは立ち上がり、王子様の正面を向きます。
「斬る?私を?出来ますか?実力の差は大分前にお見せした筈ですが?」
「…………君に一つ聞きたい」
「……なんでしょう?」
「君は一体何がしたいんだ?」
王子の質問に闇デレラが動きを止めます。
そして一呼吸、二呼吸……ゆっくりとした時間が流れます。
「…………さぁ?」
「……え?」
「……一体私は何がしたいんでしょうね?あなたが教えてくださいますか?王子様?」
そう言って闇デレラは子供のように無邪気な、しかしとても悲しそうな笑みを王子に向けました。
月のように儚げで美しい笑顔でした。
「そうか……大義のない悪ならば……僕は君を斬ろう、闇デレラ…………」
「出来ませんわ、あなたには」
「出来る」
王子様の覚悟のこもった言葉の後に、とある人物が現れました。
王子様のすぐ傍に光の粒が集まり、それが人の形を成していきました。
「……え?」
―――それは魔法使いでした。
闇デレラが力を吸い取った妖精の魔法使いが王子の傍に現れました。
「シンデレラ……いえ、闇デレラ……あなたを生み出してしまった私の責、ここで果たします」
「……少し驚いたけれど、でもあなたに何が出来るの?私に勝てるの?」
「勝てます」
強い語気で魔法使いはそう言い、抱えていたあるものを王子様に手渡しました。
「王子様……これであの子を止めてあげて下さい……」
「あぁ、大丈夫。任せて。この剣ならば…………」
魔法使いが手渡したのは剣でした。
それはガラスでできた剣でした。
「…………はぁ?」
闇デレラは首を傾けます。
「そんな脆そうな剣で私と戦おうというの?ガラスで?砕けやすくて、実用的でなくて、ただのお飾りのような剣で私を斬ろうというの?」
「あぁ……この剣だからこそ、君を斬れる…………」
「バカにしないでっ!そんな脆いもので私が斬れる訳が…………!」
「だってこのガラスは…………!」
ガラスの剣が月の光を受け輝きました。
「君のガラスの靴を混ぜた剣なのだから」
「…………!?」
「君が不要として砕いた君自身のガラスの靴を混ぜ込んだ、魔法の剣だ!」
そして、王子様は大きくガラスの剣を振りかぶりました。
王子はガラスの剣にありったけの魔力を込めます。それに呼応してガラスの剣は強く強く刀身の輝きを増していきました。
「喰らえっ!闇デレラああああぁぁぁっ!」
「―――――ッ!?」
まるでプリズムの光の分散のようにガラスの剣からは様々な色の光が溢れ出て、王子を眩しく美しく照らしていきます。
王子がガラスの剣を振ると、その光が闇夜を切り裂きながら闇デレラへと向かっていきました。ガラスから溢れ出す光が剣の閃光となって飛んでいき、光の波動が闇デレラを呑み込んでいきます。
「バ…………バリアああああぁぁぁぁっ!」
闇デレラは全身全霊の力を込めてバリアを張りました。
しかし、どういうことでしょう、ガラスの剣の光はバリアをすっとすり抜け、闇デレラの守りを全て透き通り、闇デレラの体の中に入り込んでいきました。
「な……なんで…………!?」
それもその筈。
ガラスの剣は闇デレラのガラスの靴を元に作られています。
闇デレラの力が混じりこんだその剣の光は闇デレラのバリアに阻まれることはありませんでした。自分の力を受け入れるかのように、ガラスの剣の力は闇デレラの中へと滑り込んでいくのでした。
「きゃ……きゃああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ…………!?」
防御は一切通用せず、闇デレラはそのガラスの光によって体の内から崩壊が始まっていきました。体の内から光が膨らんでいき、闇デレラの体を傷つけながらその光は外へと溢れ出していったのでした。
ガラスの剣はたった一回の攻撃でひび割れ、ばらばらに砕けていきました。当然です。魔法で作られたとはいえ、ガラスはガラス。剣として耐えうる実用的なものではなかったのです。
しかし、そのたった一撃で勝負は終わりました。
闇デレラはボロボロで、体中の至る所から血が噴き出していました。体の内側からダメージを負っていたのです。
闇デレラは立っていられず崩れ落ちました。
彼女は贅沢品として自らが否定したガラスの靴によって敗れたのでした。
勝負は決しました。
闇デレラは倒れ、王子様には傷一つありません。魔力を使い切った王子様も息切れはしておりましたが、ただそれだけでした。
風は吹き、月は輝いておりました。
ガラスの剣が放つ光は夜を切り裂かんばかりに輝いておりましたが、今はもうその光は薄れ、暗い夜に戻ろうとしていました。光の破片がただ夜の闇に小さく小さく瞬いているだけでした。
世界最高峰の戦いは人知れず始まり、人知れず終わりました。
王子様がゆっくりと闇デレラの体に近づいていきます。
闇デレラの傍で片膝をつき、慈愛のこもった手つきで彼女の頬を撫でました。
「……結局君は……一体何がしたかったんだ…………?」
「………………」
「義賊のような活動をして……君は一体何を得たかったんだ…………?」
「………………」
流石と言うべきでしょうか、体の内側から大きな傷を負った状態でも闇デレラはその命を繋いでおりました。普通の人なら……いや、英雄と呼ばれるような人間でも死ぬような傷を負いながらも、闇デレラの命は執念の炎ようにしぶとく淡く光っているのでした。
「…………さぁ、分かりません。……本当に分からないのです」
「…………分からない?」
「…………『世の中には私よりも苦しい人がいるんだ』
私はその考えを支えに自分の辛い人生を耐え抜いていました。実際に、私の暮らしは屈辱にまみれるものでしたが、命の危機に怯えるような生活ではありませんでした。
いつもお腹はすいていたけれど、飢えて死ぬような苦しみではありませんでした」
「………………」
闇デレラはゆっくりとゆっくりと誰にも明かさなかった胸の内を言葉にして紡いでいきます。
「…………『世の中には私よりも苦しい人がいるんだ』
その考えは私にとって祝福であり、呪いのようなものでした。この考えがあるから何とか強く生きていけた。でも、この考えがあると、死ぬほど苦しい今の自分よりも苦しい人の人生に思いが巡り、世界が惨く、とても憎たらしく見えました…………」
「―――――」
「自分よりも苦しい人生を生きる人の事を思うと、自分は不幸であると嘆いてはいけない気分にもなりました。この世界で自分は不幸だと叫ぶ権利を持つ人は、この世界で最も不幸な人だけなのだろうという思いも出てきて、私はただただどうすることも出来ず、世界を憎むことしか出来なくなっていきました…………」
夜の空気は冷たく、その場にいる人たちの体も心も冷やしていきました。
「…………『世の中には私よりも苦しい人がいるんだ』
耐えきれないほどの苦しみを抱える自分よりも苦しい道を歩む人はたくさんいて、その人たちの涙を思うと、ただただ怒りが込み上げてきました。
死にそうなほど苦しい人生を送り、そして人は実際に死んでいて……飢えに殺され、屈辱に殺され、不幸に殺され、悪意に殺され、世界に殺され、どうしようもない世界に殺されていて……人にはどうしようもない世界と言う大きな闇に殺されていて…………!
たくさんの人が世界と言う闇に飢えさせられ殺されていて…………!
世界はなんて残酷なんだ!世界はなんて意地悪なんだ!世界は無慈悲で!悪意に満ちていて!残酷で!苦しくて!酷くて!悲しくて!悲しくて、悲しくて、悲しくて…………」
「―――――」
「それなのに裕福な人は貧しい人からお金を巻き上げ、自分たちがただ楽しいだけのパーティーを開いている……苦しい人たちのために一切ならないパーティーを開いていました…………
そのお金があれば、たくさんの人が、たくさん、たくさんの人が、おなか一杯になれるのに…………」
王子は何も言えません。ただ息を呑むしかできませんでした。
闇デレラは泣いていました。血の涙ではない、綺麗で透明な涙でした。
「壊さないといけないと思いました。
良いことをしても苦しい人は救えない。だって世界は残酷なんですもの。悪い世界から苦しい人を救うためには、悪いことをしないとダメなんだって思いました。悪い世界を壊して、悪い世界に苦しんでいる人たちを救わないといけない…………
みんなをおなか一杯にするためには、世界を壊さなくちゃいけないんだって…………」
「―――――」
「…………何がしたかったのかは分かりません…………目的があったわけではありません。
ゴールはありませんし、ただ衝動的なものでしたし、描いている未来もありませんでした。
ただ、ただ……おなか一杯になりたかった……皆をおなか一杯にしたかった…………」
ぽろぽろと零れ落ちる闇デレラの涙は、辛く苦しい人生のせいで歪み、捻じ曲がり、しかしそれでも真珠のように綺麗でした。
「…………私はここで終わりです。どうぞ殺してください」
「……なぜ?」
「どうせ私は死刑でしょ?」
その通りです。
義賊とはいえ盗賊は盗賊。悪党は悪党。捕まれば死刑は免れません。
闇デレラが生き残る道はもうありませんでした。
「あぁ、殺そう……」
「………………」
「闇デレラはここで死ぬ……」
王子様の言葉を聞いて、闇デレラは何かが途切れたかのように力の抜けた表情を浮かべました。
しかし、どういうことでしょう?それに反して王子様の目には力強い火が灯っていました。
「でも、僕の傍にいてくれないか?」
「…………え?」
「僕の傍で働いてくれ。君はとても優秀だ。君の心はとても力強い。僕の傍で働き、僕を支えて欲しい」
「……え?…………え?」
「君の力が必要だ、シンデレラ」
「…………どういうこと?」
「君はここで死んだ。でも、僕の力になってくれ」
「―――――?」
戸惑う闇デレラの手を王子はぎゅっと握りました。
訳が分からず目を丸くし、呆けている闇デレラの手を王子様が信頼を込めて、力強く、あらん限りの力で握りしめていました。
王子様は共に戦う相棒を求めていたのでした。
「ガラスの靴が無くても、君の心は綺麗だよ」
月の光が手を結ぶ2人を明るく照らしておりました。
祝福の光のように眩しく照らし、傍で砕けたガラスの剣がきらきらときらきらと輝いていたのでした。
* * * * *
むかしむかし、遠いところの小さな王国に『闇デレラ』という魔女がおりました。
闇デレラは悪い魔女であり、国を荒らし、たくさんの財宝を奪い取っていきました。
しかしその一方で弱い人にその財宝を分け与えていたという噂も残っておりました。
いや、闇デレラは残虐で冷酷で悪魔のような魔女であったという人と、いや、闇デレラは弱い人の味方であり正義の義賊であったという人がおり、正しいところはよく分かっておりません。
ただ、その闇デレラを倒したのは国の英雄、竜殺しの王子様でした。
月の明るい夜に、竜殺しの王子様がガラスで作った剣によって闇デレラを斬り裂いて殺したのだと、国の記録には残されております。
それ以来、闇デレラが現れたという記録は全く残っておりません。
なので、闇デレラがそこで死んだというのは正しい歴史なのでしょう。
ただ一つ。
その時を境にして王子様にある優秀な秘書が付くようになりました。
その女性の名前はエラ。突然、どこからか王子様が連れてきた仕事のパートナーでした。
そのエラと言う女性はとても美しく、そして何より仕事のできる女性でした。
時に王子を暖かく支え、時に王子の尻を叩き、猛烈な勢いで働いておりました。
特に彼女が力を入れていた仕事は貧困問題の解決で、多くの飢えた貧しい人たちが彼女の手によって救われたのでした。
何故だかは分かりませんが、彼女はまるで自分の罪を贖うかのように、自らの給料のほとんどを恵まれない子達へと募金しておりました。
まさしく国を変えるほどの優秀で優しい人材でした。
彼女は愛犬を大切にしており、また家にはたくさんのかぼちゃの人形を飾っておりました。
かぼちゃの人形が動いたところを見たことがある、という城の人間の証言が残っておりますが、まぁ、それはきっと何かの見間違えでしょう。
そうやって王子様とエラは仲睦まじく仕事に励んでおりました。
国を大きく変えてしまう程の大変な仕事も、2人は力強く進めていったのでした。
まるで世界を変えてやるぞと言わんばかりに、彼ら2人は力を合わせて精一杯働いていきました。
2人はいつまでもいつまでも力を合わせ、共に人生を歩んでいったのでした。
めでたしめでたし
そんな2人の恋物語は、また別のお話。
おしまい
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最後までご覧頂き、ありがとうございました。