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第5話 報酬は莫大

 初代魔王のダンジョンから遺産を手に入れた俺は、超特進クラスの部屋に戻ってきていた。


 初めてのダンジョン探索にしては収穫が出来てよかったな、と俺が手元の指輪と球体を見ていると、


「クロノー。こっちに来てー。ダンジョンから戻って来た後の作業を説明するから」


 共に戻ってきていたリザが、部屋の端のほうから呼んできていた。

 何をするんだろう、と思ってリザの元に行くと、彼女はなにやら壁際に置かれた機械仕掛けの装置を弄っていた。


 水晶とレンズを組み合わせたような装置にはいくつかのスイッチが付いており、リザは次々にそれらを押していく。


「これ、なんです?」

「ああ、これはね、歴代魔王の一人が作った魔法の鑑定装置なんだ。ここに台座があるでしょ? そこに手に入れた魔王の遺産を置くと、分析してデータを出してくれるんだ。だからこれを使って収穫物をチェックするのが、ダンジョンから帰って来たらやることなんだよ」


 そう言ってリザは、装置のスイッチを押していく。すると彼女が遺産を置く台座と説明した場所に光が入った。


「さ、もう使えるよ。一つ一つ置いていってね」

「了解です。んじゃあ、まずは指輪からっと」


 俺はその台座に黒い宝石の付いた指輪を置く。

 数秒後、台座の光はその指輪を包み込んだ。


「これで、チェック出来ているんです?」

「うん、そうだよ。結果は装置側面の下から出てくる紙に書き出されているから、見ておくといいよ」


 言っている間に、装置の下のスリットから、一枚の紙が出て来た。

 どんなことが書いてあるのだろうと思いながら、俺はその紙を見た。


『商品名:初代魔王ミスティアの指輪 種別:装備品』


 まず紙の上部にでかでかと品名と種別が書いてある。

 どうやら初代魔王の指輪であっていたらしい。ただ、その下に書いてあることが問題で、


『特殊能力:不明 査定額:五十万ゴールド』


「ん? なんか、特殊能力が不明って出てるんですけど……」


 どういうことだろう、と思いながらリザに紙を見せると、彼女も首をかしげた。 


「あれ、本当だ。珍しいなあ、この機械で判断できない遺産があるだなんて。装置の中に入っているデータが不足しているのかな?」

「普通は分かるんですか?」

「うん、一応、四十九代目までのお宝は全て鑑定範囲だからね。でもまあ、不明なら不明で、あとで調べれば良いだけだし。この指輪は適当に持っておいてよ」


 リザは台座から指輪を抜き取ると、俺の掌に置いてきた。


「持つって、俺がですか?」

「そうだよ? 基本的に見つけた人が所有していくのがドミネイターズの流儀だからね。なんなら使い潰しちゃってもいいし、邪魔ならこの部屋に倉庫があるから、そこに放り込めばいいけど、そうする?」

「いや。まあ、指輪一つくらいなら別に問題ないですけどね」


 指のどこかに付けておけば良いだろう。装飾は小さい宝石だけで華美じゃないし、日常生活の邪魔にもならないだろうし。


「そう。じゃあ、それはクロノが持っていてね。次は、そっちの球体を鑑定しようか」

「はい、ではお願いします」


 先ほどと同じように俺は、指輪の入れ物を台座の上に置いた。すると、やはり先ほどと同じように光に包まれ、装置の下部から紙が排出された。


『商品名:高純度な金とミスリルの箱 種別:貴金属類 特殊能力:なし 査定額:百二十万ゴールド』


 今度はしっかりとデータが並んでいる紙だった。


「うん、これは普通に成功だね。いつもはこうやって、ちゃんと能力のあるなしが出るんだよね。さっきの指輪はイレギュラーだと思って」

「ああ、了解です。というか、査定額が高いっすね、この箱」


 田舎では半分くらい自給自足の生活をしていたので金銭感覚に疎いという自覚はある。

 だが、それでもこの金額が大金だという事は分かった。


「うん、凄い額だね。高純度の金とミスリルだからね。貴金属としては相当な価値が出るんだろうけれど、これだけあれば学園に教授の一人や二人追加できそうだよ」


 そんな風に話しながら、紙を読み進めていくと、下の方に文字が追加されているのが分かった。


『売却しますか? yes/no』


「え? なんですか、これ」

「ああ、この装置のデータは。古物商や美術商などの商人の家に送れるようになっていてね。売却したいものがあれば、この場で売りのオークションに出せるんだ。お金を稼ぐのも、ドミネイターズの目的だからね。スイッチ一つでお金稼ぎが出来るって訳」


 装置に取り付けられた『yes/no』スイッチを指さしながらリザは言った。


「ちなみに登録した商人しか参加できないから、言い値を付けて逃げるとかもないし、集金率は良いんだよ」

「なるほど。……で、これは売るんですか?」

「それはクロノが決めることだよ」

「え?」

「言ったでしょ。所有するのはクロノだって。まあ、貴金属類は換金しないと役に立たないから、売った方が得だとは思うけど……判断は君に任せてるからね! どっちでもいいよ」


 ほほ笑みながらリザは『yes/no』スイッチの前から離れた。

 どっちかを押せということだろう。


 ……まあ、貴金属の箱を持っていても仕方ないんだよなあ。


 最初の一回だし、試しに売りに出してみよう。そう思って、俺は『yes』のほうのスイッチを押した。

 瞬間、装置の輝きが一層強まった。


「うお、これ、光ってますけど大丈夫です?」

「平気平気。今、データ類を商人たちに送っているだけだからね」


 簡単に言うけれど、この鑑定装置は凄い仕組みをしていると思う。


 ……こんなものを作り出すとは、歴代の魔王はみんな凄い技術を持っていたんだろうな。


 そんな風に考えながら俺が、装置のあちこちを眺めていると、装置の下部から一枚の紙が吐き出されてきた。

 そこに書かれているのは、


『売却契約、成立しました』


「あ、売却されたみたいだね」

「え、早っ!? イエスを押してから、ほんの数十秒ですよ?」


 それなのに、売却が成立するとは、どうなっているんだ。


「この装置から売り出される品は人気でね。商品が査定された瞬間入札されることとかザラにあるんだよね。そんなに長々と待っていられない人もいるから、即決価格とかも設定してあったりしてね。どっちにしろ、すばやく大きく稼げるんだよ。今回は即決だろうけれど、今頃、料金は魔王城管轄の銀行に振り込まれている筈だよ」

「なんというか、凄まじい仕組みですね……」

「いやあ、クロノのほうが凄いよ。なにせ初日から百二十万ゴールドを稼いだんだからね! 歴代で最速・最高の記録だよ!」


 リザは装置の傍の棚に、先ほど売却された箱をしまいながら言ってきた。

 色々と高速すぎていまいち実感は湧かないけれど、利益が出たんならいいか。そう思っていると、


「それじゃ、はい。これはクロノの分ね」


 彼女は、棚から出してきたらしい札束を、俺の手の上に乗せた。


「……え、なんですこれ」

「うん? だから査定額の百二十万ゴールドだよ。紙幣だけどね。そこの棚の金庫から取り出してきたんだ」

「えっと……学園の運営費になるんじゃないんですか?」


 超特進クラスの目的とはそれじゃなかったんだろうか。そう思って聞くと、リザは苦笑しながら首を横に振った。

 

「いやいやいや、そうしたら、売った人がただ働きになっちゃうじゃない。ドミネイターズはそんな事はしないよ。あくまで自分の利益を追求しつつ、そのおこぼれを運営費に回すっていうのが基本だからさ」

「おこぼれ、ですか?」

「うん。そうだよ。売却のやり方がオークションだからね。商人たちに競争してもらって、値を釣り上げてもらうことで、大抵、査定の倍額以上で売り払えているんだ。即決価格も当然倍以上だし。所有していた人に査定額を渡しても、全く問題はないんだよ。もちろん、それは最低保証で、もっと欲しい人には交渉次第でもっと渡すけどね」


 なるほど、オークション形式で射幸心をあおっているのか。

 かなり工夫(・・)した売り方をしているみたいだ。


「だから、この百二十万ゴールドは君のモノだよ。改めて、初日の収穫おめでとう、クロノ! 君の力は予想以上に凄くて、今日はとっても楽しかったよ!」


 リザは俺の手をぎゅっと握りながら、嬉しそうにそう言った。


 こうして俺は、初めての超特進クラスの活動で、大金を手に入れたのだった。

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