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自称!平凡魔族の英雄ライフ~B級魔族なのにチートダンジョンを作ってしまった結果~  作者: あまうい白一
第二章

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第21話 初めての街歩き

「また来てねー」


 昼も大分過ぎた頃合いで、俺たちはマリーの店を出た。


「最初に俺のダンジョンの中に置けそうな寝具、次に雑貨、でしたよね」

「うん。その辺りは相談した通りで。細かな買い物はクロノにお任せするー」

「オッケーです。じゃあ、まずは家具屋っすね」


 相談の結果、まずは寝具を買う事になった。。

 それというのも、いつまでたっても、マットレスでゴロ寝というのは何とも格好がつかないからだ。

 もっと言えば、眠っている時に、俺はソフィアとユキノを引き付けてしまう訳で、あの狭いマットだと絶対に誰かが転がり落ちる羽目になる。

 

 それは少し可哀想だし、睡眠における体力回復の効率を下げる事にもなる。

 ダンジョンを潜る仕事があるのにそれはいかん、ということで、今日中に何かしらデカイベッドでも揃えよう、ということになったのだ。


「家具屋はこっちで……いいんですよね?」


 店を出てしばらくして、横を歩くユキノに尋ねた。

 俺の手はマリーから受け取った地図があるが、それでも初めての街だ。

 地理を知っている人に聞いておきたい。

 

「うん。多分、こっちで合ってる。地図でも、そうでしょ?」

「ええ。……こんだけ広い街だとは。地図を貰っておいて良かったですよ。ユキノさんがマリー先輩を紹介してくれたおかげです」

「ワタシは……何もしてない。あの子に気に入られた、クロノとソフィアが凄いだけ」


 ユキノは照れているのか顔を赤くしていた。

 

 ……最初は無表情かと思ったけれど、やっぱり感情豊かなヒトだなあ。

 

 そんな事を考えながら街を歩く。

 地図を見ればここから数分も歩けば家具屋に着く距離になっている。

 大通りなので迷う心配もないし、街を見学しながら歩けるな、と思っていると、


「それにしても、クロノ、よくあのお茶をがぶがぶ飲めたね」


 ユキノがそんな言葉を口にした。


「お茶、ですか? ……そう言えば、ウィンドさんは沢山お代わりをついでくれましたけど……ユキノさんもソフィアもあんまり飲んでいませんでしたね」

 

 思えば、一杯を飲みほした後、ユキノもソフィアもお代わり分に口をつけなかった。

 喉が十分に潤ったんだろう、と思っていたのだが、

 

「あれ、魔力の強いマンドラゴラを一匹分使って、エキスを抽出したお茶だから。そこまで大量に飲めない」


 どうやら別の理由があったらしい。


「マンドラゴラっていうと、あれですよね。薬草型モンスターで、引き抜くときに呪いを掛けてくるっていう」

「それ。どんなに弱いマンドラゴラでも、強力な魔力がエキスに入っているから。飲み過ぎると魔力酔いを引き起こすもの。私でもあんな風にがぶ飲みしたら、すぐに酔うし」


 ただ、彼女の語る言葉には、俺の知識と食い違いがあるようで。


「うん? 俺の実家、薬剤師ですけど、マンドラゴラのエキスで酔うっての初耳ですよ」

「え?」

「いや、だって、街の花壇に生えている十匹くらいのマンドラゴラを粉末状にして、大量摂取するような使い方は街の人たちもやっていましたけど、全然酔いませんでしたし。俺も子供のころから滋養強壮だ!って言われて飲まされ続けましたけど、酔った事ありませんでしたから――」

「――待って。……クロノ、色々待って」


 俺が話していると、ユキノが手のひらを突き出して話を止めてきた。そして、静かに口を開いた。


「……マンドラゴラが、街の花壇に生えている? 引き抜く際に、呪いに抵抗しないと死ぬあのモンスターが?」

「ええ、生えてますよ。それに大袈裟ですよユキノさん。呪いって言ったって、少し手足がしびれるだけで死ぬようなレベルじゃないですって」


 少なくともウチの地元に生えているマンドラゴラの呪いを受けて、死んだ住民は一人もいないし。そう伝えたら、再び質問が来た。

 

「……あの、参考までに聞くけど、そのマンドラゴラ、何色?」

「紫色ですよ」

「……うん、一番毒性と呪性が強いアビスマンドラゴラだね。引き抜いたら半径百メートルくらいの生物が死ぬ奴。……なんで死んでないの?」

「ちょっと! いきなり物騒な問いかけをするのはやめてくださいよ! というか、その、アビスマンドラゴラですか? もしかすると、それじゃないのかもしれませんよ。改良された品種だった、って可能性もあり得ますし」


 むしろそっちの方があり得そうな話だ。とユキノに意見したのだが、


「そう。確かにクロノの地元のマンドラゴラが特別魔力が弱い品種って可能性はあるけど……クロノを見る限り、その確率は低そう。うん。クロノの街だし」


 思い切り首を横に振られた。意外と酷いぞ。


「俺の故郷の評価を変な感じにするのはやめてくださいよ。長寿の魔族なんですから、人知れず改良されている可能性だってあるんですから。なあ、ソフィアもそう思うよな」


 横に歩いているソフィアに声を掛けた。しかし、


「……」

「ソフィア?」

 

 彼女は俺の言葉が聞こえていないのか、どこか上の空な表情で虚空を見上げていた。そして、

 

「好きな道を自由に、かあ……」


 そんな言葉をポツポツと呟いていた。

 

「おーい、どうした、ソフィア?」

「え……? あっ、す、すみません、クロノさん! 声を掛けられているのに気づかずに……」

「いや、それは良いんだけどさ。さっきマリー先輩に言われた言葉を呟いていたけど、何か気になったのか?」


 尋ねると、ソフィアは目線を上に逸らした後で、静かに頷いた。


「そう……ですね。ちょっと、好きなことややりたい事って言葉について考えていまして」

「おお、そうなのか。俺も考えていたんだけど、あんまり思いつかなくてなあ。ソフィアは何かあったのか?」

「ええ、まあ。ちょっとだけ、まだ明確なイメージが出来ていないので、説明することも出来ないレベルですけれどね」


 ソフィアは遠くを見るような視線で呟いた。

 上手く言葉にできなくても何か目指している物が彼女にもあるんだろう。

 ああ、なんであれ、やりたいことがあるってのは凄い事だ。 

 少なくとも俺よりもしっかり未来を見ているって訳だし。だから、


「そっか。じゃあ、それが出来るように俺は応援してるよ」

「え?」


 そう言ったら、ソフィアは意外そうな瞳で俺を見てきた。

 

「あれ、応援しちゃダメなものだったか?」

「あ、いえ、そんなことは無いんですけれども……。クロノさん、応援して下さるんですね」

「そりゃ、当然だろ。友人がやりたいことがあるっていうんなら、背中を押すのが普通なんだし」

 少なくとも俺が故郷で学んだ友人に対する接し方ではそうだった。

 だから、彼女の選択も応援する。

 

「あ、ワタシもクロノに同じく。後輩の選択はもれなく応援する」


 ユキノも俺に追随するように、ソフィアに声を掛けた。すると、

 

「……嬉しいです、本当に……」


 ソフィアは目を弓にして笑った。その目の端には少し涙が浮かんでいる。

 

「お、おい、そんな泣くほど喜ばれても、普通の応援しか出来ないぞ?」

「う、うん。ワタシも出来るだけ頑張るけど、そんなに期待はしないでね」


 正直、応援するといっただけで泣かれるとは思わなかった。だから、俺とユキノが慌ててそう付け足したのだが、目の端をぬぐいながらソフィアは首を横に振った。


「ふふ、普通に応援して頂けるだけで、泣くほど嬉しいってことですから。どうか気にしないでください」

「そう? ……ソフィアがそう言ってくれるなら、気にしない」

「ああ、俺もそうする。けど……何か困ったことがあったら相談してくれよ。力になるからさ」

「はい。ありがとうございます」


 俺たちの言葉を受けて、ソフィアは一層明るく微笑んだ。

 そして、そんな話をしているうちに俺たちは家具屋にたどり着くのだった。

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