第16話 そこはかとない安心感
お待たせして申し訳ありません。連載再開しました!
俺はソフィアと共に、いつもの応接間に座っていた。
するとそこに、これまたいつも通りと言うべきか、困り顔のリザが入ってきた。
「どうでしたか、リザさん」
「うん、今、吸血鬼の国の人に念話で確認してきたんだけどね。もう国を出たってさ。そして、ウチの学園は、いつでも参観を受け付けるって規則になっているから、こうなったら止めようがないね」
割とあっさりと、しかし重大な事をリザは告げて来た。
「あー……マジですか……」
「そ、そんなに落胆しなくても、大丈夫ですよ、クロノさん! 私たちの関係は基本的に秘密ということになっていますし、支配の鎖だって、いつも出ているわけじゃないですし、そう簡単にバレませんから」
「確かにねえ。クロノとソフィアちゃんの鎖は、命令した時しか出ないし、今まで通り言葉遣いに気をつけさえしていれば、問題ないと思うな」
「まあ、そこは当然気を付けますけどね」
ソフィアとの関係がばれて吸血鬼の王と争うとか、本当に嫌だし。俺はこの学園でゆったり学びながら、友達を作って、楽しく暮らしたいだけなんだから。だから、念には念を入れておきたい。
なので情報を集めることにした。
「吸血鬼の王様の参観ってのは、何日後の何時くらいから開始されるんですかね」
「うーん、その辺りは、王様がこの学園にたどり着いてからじゃないとはっきりしないけれど……吸血鬼の国からこの王都までどれくらいの時間かかったかな、ソフィアちゃん」
「ええと、魔道馬車を使ってゆっくり道を行けば、丸三日ほどでたどり着きます。そこまで離れていないんですよね」
なるほど。ソフィアの父親は既に国を出ているということだから、二日か三日後にはこの学園に到着するのか。
「よし、その辺りで警戒度を引き上げるか」
「あ、あはは……き、きっと、大丈夫だと思いますよ? お父様はそこまで怖い方ではないので、話せば分かってくれる可能性もありますし」
「可能性があるって言葉はあんまり信用できないぞ、ソフィア」
話して分かってくれなかったら、割と血を見そうな言いぶりをしてくるのがまた困るな、と思っていると、
「あー、なんというか、その辺りは心配しなくても大丈夫だよ、クロノ」
リザが俺の手をぎゅっと握りながらそんな事を言って来た。
「今回の件は、私たちの事故による不可抗力って面が大きいんだからさ。全力で庇うし、全力でクロノを守るから」
更にその上に、ソフィアの手も重なる。
「私もですよ! クロノさんを全力でフォローしますから!」
とりあえず二人は全面的に協力してくれるようだ。
「ああ、そう言って頂けると助かりますね」
「うん、フォローは全部任せちゃっていいよ! ……まあ、クロノは私たちが守る必要がないくらい強いと思うけれどね」
「あ、はは……それは、確かに同意です」
「いやいや、そういう守護をしてくれること自体が有り難いですよ。吸血鬼と戦うと、大体ロクなことになりませんし。ましてや王様にもなれば、とんでもない強さでしょうしね」
絶対にやり合いたくない、と言ったら、何故かリザとソフィアが目を丸くした。
「えっと……あれ、その言い方をするって事は、クロノ、吸血鬼と戦ったことあるの?」
「え? あ、はい。ありますよ?」
「そ、その、どうやって? 普通、吸血鬼って強力な魔力を持っているから、普通の魔族は挑んだりしないと思うんだけど……」
ああ、確かに吸血鬼は強力な魔力と体を持っているので、好き好んで戦う輩はいないだろう。自分だって吸血鬼と戦いたくて戦った訳じゃないし。
「その、何と言いますか、俺が戦っているのは、なりそこないの野良吸血鬼ですよ。ほら、人間が、吸血鬼化の儀式に失敗して出来ちゃう暴走体ってやつです」
吸血鬼は種族としているだけではなく、後天的に人間が吸血鬼になることも可能だ。
『吸血鬼化』と言われる儀式が必要になるのだけれども、基本的には強力な魔力の持ち主が吸血鬼になったりする。
ただし、失敗すれば意思を失ったモンスターとなってしまい、危険な存在として討伐されることがある。
自分の故郷の街では、そういう存在が近場に出たら、青年団として自分が退治に出る事が多かったのだ。
そう言ったら、額に汗を浮かべたソフィアが口を開いた。
「あ、あの……その暴走体って、私たちの国の近くでも偶に出るんですが……吸血鬼の特殊部隊が出るレベルなんですが……ええと、クロノさん一人で戦ったんです?」
「まあな。俺しか若い奴がいなかったし、爺さん婆さんは動きたがらないからさ。そのままにしておいたら、畑や林が荒らされるから、俺がやるしかなかったんだよ。……大体がめっちゃ強くて、凄く困った覚えがあるよ。倒すのに文字通り骨が折れる事もあったしさ」
「……こ、骨折しても勝ったんですか。一人で」
「どうにか、だけどな」
今となっては、もう少し爺さん婆さんに文句を言って、分担するべきだった。
まあ、今さら言っても仕方ない事なので、苦い思い出にするしかないんだよな、と心の中で頷いていると、
「……なんというか、リザさん。私、お父様が来ても大丈夫なような気がしてきました」
「奇遇だねえ。私もだよソフィアちゃん」
何故かソフィアとリザの二人が意気投合しながら頷き合っていた。
……俺としてはあんまり大丈夫じゃない説明をしたつもりなんだけどなあ。
そんな事を思いつつも、俺はソフィアとリザと共に、吸血鬼の王様が来たときの対策を練り上げていくのだった。
というわけで、吸血鬼の王様来訪編、開始です。




