第8話 幼馴染と依頼
「いやあ、大浴場は大勢で入るとやっぱり楽しいな! クロノに背中を磨かれたら、鱗がいい感じに削れてピカピカになるし、いい経験になったぜ」
「ああ、ウチの街には竜人もいてな。よく多種族で集まって流しっこしたから覚えてるんだよ」
「マジか。多種族が集まる街なんて珍しいな。一~二種族がまとまっているところは良くあるけどさ」
「一とか二じゃすまないな。エルフとか吸血鬼とか魔人とか、本当に沢山いたからさ」
そんな風に同級生と話しながら俺は魔王城の一階まで戻っていた。
「また特進クラスの講義にも来てくれよ。オレももっと話したいし」
「ああ、そうだな」
思えば、俺は超特進クラスに入るためにこの学園に来たわけじゃない。
一年間しっかり色々な事を学んで、故郷に戻れればいい。
だから、ダンジョンに集中的に潜るのは奴隷問題が解決するまでで、それが終わったら色々な講義に出ればいい。新しい知識を得られるのは楽しみだしな。
そんな事を思いながら歩いていると、
「あ、クロノさん、向こうにいましたよ」
「本当だ。おーい、クロノー」
向かい側から、ソフィアとリザがぶんぶん手を振っている。
「お呼びのようだぞ、クロノ」
「みたいだな。……んじゃ、ちょっと行ってくるわ。今日はありがとうな」
「気にするな。また明日な」
そんな感じで同級生と別れてリザ達の元へ行く。
「やー、同級生と楽しそうな所悪かったね」
「いや、別に構わんですよ。でも、二人してどうしたんですか?」
そう思っていると、リザとソフィアは揃って苦笑した。
「いやあ、実はね? 今日は一日使ってソフィアちゃんの体とマザーコアがどうつながっているか、調べていたんだよ。魂がどういうふうに繋がっているかって感じでね?」
「そうなんです。成果はあんまり出ませんでしたが」
「なるほどなあ」
彼女たちも彼女たちで事態の解決に動いてくれていたのか。それは有り難い話だ。
「それで、今帰りってことなんですか?」
「そうなんだ。ただね、さっきダンジョンから上級生が一人帰って来ていてさ、クロノに会いたいって人がいたんだ」
「俺に、ですか?」
「うん。クロノの名前を聞いたら、すぐに会いたいって言うからさ。だから、ソフィアちゃんにも協力してもらって、クロノを探していたんだ。本当にお風呂に行く所を邪魔してごめんね、ソフィアちゃん」
「いえいえ、構いませんよ。それじゃあ、私はこのまま浴場に行ってきますね」
そう言って会釈をしたソフィアは、大浴場の方へ向かった。
「本当に人がいい子だなあ」
「そうだねえ。あんなにかわいい子、逃しちゃダメだよ、クロノ」
「はは、そうですね。友人としてもっと自然に接することが出来るように、奴隷解除を急ぎたいところです。――ところで、俺に会いたいって上級生は、どんな方なんです?」
「魔王のダンジョンの研究を仕事にした子だよ。なんだかクロノに依頼があるそうだから、今から会ってもらう事って出来る?」
「まあ、別に良いですよ」
今日はもう自宅に戻って休むだけだし。少しくらいやることが増えても全然大丈夫だ。
そう言うと、リザはホッとしたような笑みを浮かべた。
「良かったあ。じゃあ、応接間に行こうか」
そして俺はいつもの応接間に向かう事になった。
●
俺とリザが応接間に入ると、そこには一人の女性が座っていた。
長い耳と豊満な体を持ったエルフ系の少女だ。彼女はこちらを見ると二コリとほほ笑んだ。
「ありがとう、リザ。彼を連れてきてくれて、助かったわ」
「別に良いってー。それよりも、ほら、話さなくていいの?」
言われた巨乳エルフの少女は、そうね、と頷いてから俺を見た。
「こんにちわ。クロノ。私のこと、覚えているかしら?」
「覚えている……と言われましても」
俺としてはこんなに巨乳のエルフを見たことがないんだが。そう思っていると、彼女は少し悩んでからこう切り出した。
「リュミエールって名前に聞き覚えはない? 昔、貴方の家のお隣に、エルフの姉妹がいたと思うんだけれど」
そう言われて、思い出す。俺がまだ子供のころ、家の隣にエルフの姉妹が住んでいた事を。そして片方は俺の三つくらい年上の女の子で、よく一緒に遊んでいた事を。
「――まさか、リュミエ姉?」
「うん、その通りよ、クロノ! 久しぶりね!」
そう言って、リュミエは俺の体に抱きついてきた。
柔らかな感触でぷるぷるしたような感触がくっついてくる。
「うぶ……リュミエ姉。ちょっとひっ付きすぎだろう」
「ふふ、良いじゃない。昔はこうしていたんだから」
確かに昔、抱きつかれていた経験はあるけれども、ここまで大人な体をしていなかったから、気にしていなかっただけだ。
こんなふわふわして柔らかな感触を子供時代に味わった記憶はない。というかこのエルフの成長は早すぎじゃないだろうか。
種族的にもう少し緩やかに成長する筈なのに。
「うーん、なんというか、上級生にクロノの故郷出身の子がいただけでもビックリだけど、こんな関係だったんだねえー。いやあ、驚いた」
俺がふわふわな感触を味わっている横で、リザは苦笑している。
彼女も俺とリュミエの関係性は知らなかったらしい。
俺だって今の今まで知らなかったから当然なのだが。
「十何年も前だもんなあ。リュミエ姉が引っ越したのは」
「そうね。あの街はかなり特殊だったから、クロノの事を心配していたんだけど。無事に学園に来てくれて嬉しいわよ」
「そりゃどうも。俺としてもリュミエ姉に会えたのは、嬉しい事だよ。というかここで何やってるのさ」
「私は魔王城で働いているの。基本的にはマザーコアと、ダンジョンの研究者をやっていてね。まあ、ダンジョンに潜って、問題の対処をしているのよ」
「へえ。そうだったのか」
昔の知り合いが魔王城に勤務しているとは。変な気分だな。
ともあれ、懐かしみの歓談はこの辺にしておくとして、
「それでリュミエ姉は、俺に依頼があるんだって? リザさんが言っていたけど」
「ええ、そうなの。クロノに助けてほしいことがあってね」
そう言ったリュミエは意を決したように俺に頭を下げて来た。
「十代目魔王のダンジョンを一緒に攻略してほしいの。そこに眠る万病を治す宝――『神の水』を手に入れて、妹を救うために」
そして出されたのは共闘の提案だった。
年末進行でグロッキー中ですが、更新は頑張って続けていこうと思います。




