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自称!平凡魔族の英雄ライフ~B級魔族なのにチートダンジョンを作ってしまった結果~  作者: あまうい白一
第二章

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第7話 特進クラスと超特進クラスの講義の差

 魔王城の三階には、巨大な本棚が並ぶ資料室がある。

 学生ならば使い放題であるそこに、俺は同級生たちと共に足を踏み入れていた。


「改めて来たけど、広いな。この資料室。今まで使わなかったからじっくり見る事も少なかったけども」

「お、そうなのか? だったら中を案内出来てよかったぜ。オレたちは講義のあと、分からないことがあったらこっちに来るように言われてるから、食堂の次に使い慣れている場所になってるんだ」

「へー、そうなのか」


 ダンジョンから帰ってきたら調べ物をしようと思った事は何度もあるが、中々足を運ぶ機会がなかった。

 リザに聞けば大抵の答えが返ってきたり、調べるよりも先にすべきことが多くなったり、色々あったけれども。ようやく来れた。

 そして、これだけの本棚と、座り心地の良さそうな読書用ソファーを見ると、


「……やばいな。これだけの本と資料があると、読み耽りたくなる」


 故郷にはこんなに沢山の読み物なんてなかったし、時間が出来たらずっと読んでしまうかもしれない。そう思って呟くと、隣のコーディがにやりと笑った。


「おお、クロノも読書好きか。気が合うな」

「お、コーディもか?」

「はは、似合わねえだろ?」

「いや、そんなことないさ。竜人は思慮深いってのは、良く言われているしな」


 ガタイが良くていかつい見た目をしているが、竜人は沢山の知識をため込むことが多かったりする。


「竜人が本好きでも、不思議なことじゃないさ」

「そう言ってもらえると有り難いぜ。オレが特進クラスの講義の後にここにきて本を読んでいると、普通クラスの連中に訝しんで見られることもあるからな。まあ、それも慣れたが」

「そうか……。しかし、資料室に来なきゃ分からないことがあるって、特進クラスの講義は難しいのか?」


 特進クラスの講義には最初の数日だけしか出なかったから、内容が分からないんだよな。


「ダンテ教授にやられたようなダンジョン系の講義ばかりだと思ったんだが」

「まあ、それもある。ダンジョンに入って揉まれて、戦闘用の魔力の使い方を覚えていくってやつだな。ただ、それ以外に座学もあるんでな。知識系はこっちで補てんすることが多いんだ。例えば先週は魔族の歴史を学んだりもしたし。魔王城に来てダンジョンを作って学習するって風習は、魔族全体の寿命を上げるために作り出されたもの、とかな」

「あー、そんな話もあったなあ」


 俺も昔、両親から軽く教わっていたが、それを詳しくやったんだろうな。

 

「結構な昔は、魔族ってだけで人間に狩られたりもしたらしいからな。俺たちの体は素材にもなるし、俺たちが作ったダンジョンからは、魔石とかも取れるしさ」


 魔族の身体構造は人間と異なっていることが多い。

 そのため、狩りの獲物とされていた時代があった。遥か昔で、その時代を知っているモノは少ないけれども、確かにあった歴史だ。


「まあ、講和した今ではそんな不届き者はあんまりいないけどな。それでも身を守るための手段として、戦闘用の魔法や、ダンジョンの構築、操作能力を教えてくれるってのは有難い話さ」


 そう言ってコーディは腕をぽんぽん、と叩く。


「オレたちみたいな魔族は日常的に魔力を使っていたから、魔法を覚えるのは楽だしな。――竜人なんて、まずは皮膚防護がないと、鱗がチクチクしてしょうがないから、子供のうちに覚えちまうし」

「はは、まあ、その分防護力があるんだから良いだろう」

「そうだな。――クロノは種族的には魔人だっけ? 何か魔人だけの魔法とか、特別な力を使えたりはするのか?」


 コーディは俺の角を眺めながら言ってくるが、魔人の角はただのエネルギー貯蔵庫で、特別な力も何もないんだよな。それに、


「俺は全然だな。人間みたいって言われるほど魔族的特徴もないから、適した魔法もないしさ。故郷にいた時に教えてもらった体術が全てだな」


 俺の言葉に、コーディは大きく頷いた。


「ああー、体術ってダンテ教授の狼を抑え込んだやつか。俺たちのほとんどが視認できなかったんだよなー」

「え、視認できないって、――割と怖々と動いてたんだぞ? ダンジョンウルフとやらに通じるか分からなかったから慎重にさ」


 かつてを思い出しながら言った瞬間、同級生たちがざわめいた。


「あ、あれで慎重なのかよ……」

「マジかー。自分、獣人系で動体視力は良い方なんだけど、捉えきれなかったし。――とんでもねえな」


 などと感想を述べられてしまった。

 なんだか、また少しエアポケットができた気がする。


 ただ、そんな風に空間を開けつつも、コーディ達はすぐに再度近寄ってくる。


「なんつーか、凄いな。そんな体術を教えられるって、クロノの故郷の魔人って、何かしらの英雄だったりするのか? 侵略を吹っかけて来た奴らを追い返したとか、そういう逸話がある人があったりさ」

「いや、田舎だからな、俺の故郷? 英雄とかそんな大それた人ではない気がするぞ」


 田畑を耕して獣を狩って、自給自足を楽しみながら暮らしている連中が多い街だ。英雄なんて言葉とは程遠いと思うんだよな。そもそも、


「体術を教えてもらったのは近所のおっちゃんとか婆ちゃんだし、それに魔人に教わっただけじゃないんだ。俺の故郷は複数の種族が集まって暮らしている場所でさ、色々と教えられた結果の複合がこうなっただけなんだよ」

「な、なるほどな。近所のおじさんおばさんが体術を使うって、割と魔境だな」


 魔境とは酷い言い様だな。

 まあ、野山が近かったし、自然が厳しい時もあったし、移動手段も限られていたし。

 環境的には必ずしも不自由ない訳じゃなかった。

 けれど、そこそこ楽しく生きられる空間だったんだよな。


「偶に外部から、別種族の人が技術を教えに来てくれたりな。基本的には近所の人からの伝達されて、楽しく覚えたんだよ」

「そ、そうか。……クロノの力のルーツが分かって良かったような。これ以上知るのが怖いような、不思議な気持ちだぜ」


 コーディのセリフに、周りの同級生もうんうん、と頷いている。俺の故郷を怖がられるとちょっと悲しくなってくるぞ。

 

「まあ、俺の故郷の話はともかく、資料室を見れて助かった。他に使える場所とかあったら教えてくれ」

「お、おう、そうだな。三階には食堂とは別個のバーラウンジがあるから、次はそっちに案内するぜ」

「よろしく頼むわ、コーディ」

「いや、任せておけよ、クロノ」


 そうして資料室を後にした俺は魔王城案内ツアーを楽しみながら同級生との仲を深めていった。


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