第3話 魔王のダンジョンを支配するもの
特進クラスでのあれこれが終ったあと、俺は応接間の椅子に座っていた。
崩れかけた部屋からボロボロの状態で這い出てきた教授に、魔王が来るまでそこで待つと良いと通されたからだ。
ただ、待っている時間はほんの数十秒で済んだようで、
「やあ、お待たせ、クロノー」
リザは足取り軽く応接間にやってきた。
そしてほほ笑みながら俺に声をかけてくる。
「特進クラスの講義内容、聞いたよー。いきなりダンテ教授のダンジョンの天井を動かしたんだって?」
「そうですね。なんか動いてしまいましたね」
「いやあ、頼もしいよ。ああ見えて、ダンテ教授の力は強いんだよ? それをぶち抜くだなんて、本当にすごい。これから大事になってくる力だからね。どんどん成長して、使っていってね!」
リザは親指を立てながらそんなことを言ってくる。部屋一つが壊れかけたというのに、あんまり気にしていないようだ。
それはそれで俺からすると有難いのだけど、と思っていると、
「それじゃ、超特進クラスの部屋に行こうか」
彼女は応接間の壁に手を触れた。すると、
――ゴゴ。
と重い音を立てて、応接間の壁が左右に開き始める。
「リザさん。これって隠し扉ですか」
「うん。この魔王城も一種のダンジョンでね。結構好き勝手に動かすことができるんだ」
言っている間に、応接間の壁は動きを止めた。
そして壁だった場所には、人二人が入れそうな通路が出来上がっていた。
「――さ、はいろっか」
言いながら、リザは俺の手をぎゅっと握ってきた。
そして彼女の導きに従って俺は暗い通路の中へと入っていく。
●
リザにひかれて暗い通路を歩くこと数分。
俺がたどり着いたのは、応接間よりも数倍広い部屋だった。
中央には大きな円卓が、そしてその周りには、やわらかそうな椅子が置かれていた。
また向かい側の壁には立派な鉄扉があり、どこかにつながっているようだった。
「ここが、超特進クラスの部屋、ですか?」
「そうだよ。綺麗な部屋でしょ?」
確かに、掃除が行き届いているというか、とても落ち着くような感じがする。
ただ、これだけ椅子があるのに、人の気配が全くない。
「えっと、超特進クラスの他の人たちはいないんですか?」
「うん、今日は君の体験だけだからね。他の人は私以外はお休み。本当ならもうちょっとだけ賑やかなんだけどね」
言った後で、リザは円卓の前に立つ。
そしてにっこりと笑い、俺に手を差し伸べてきた。
「それじゃ改めて。ようこそ。超特進クラス――ドミネイターズへ」
「どみ、ねいたーず?」
また聞いた事の無い名称が出たぞ。
「ドミネイターズってのは、別名ですか」
「ううん、超特進クラスが異名で、こっちが正式名称。この魔王城とダンジョンを支配して運営する。それが私たちのやることだからね」
超特進クラスは、やる事が他のクラスとは違う、と聞いていたけれど。
「やることは支配と運営、ですか。ちょっと意味が分かりませんけど、どういうことです」
「うんうん、素直でいいねえ。だから順々に説明してあげる。……クロノはこの魔王城がどういう資金で運営されているか、知っている?」
「それは、歴代魔王の私財と運用によって賄われているのでは? だから二十歳になった魔族全員をほぼ無料で受け入れられている、と聞きましたが」
講義は無料で、教材費も同じく無料。
食事も魔王城の食堂を使えば格安だ。普通に生活を送る分にはそこまで金はかからない。
その上、ダンジョンという住処までくれる。
……ほしいものがあれば魔王城で日雇いの仕事をして、買うこともできるし。
歴代魔王の財産のお陰で、ものすごいサービスが出来るんだなあと思っていた。
そう言ったら、リザは頷いた。
「そうだよ。だけどね、その歴代魔王の私財というものは、魔王城に置いてあるわけじゃないんだ。存在しているけど、ここには無いんだ」
「えっと、どういうことです?」
「私たちドミネイターズが集めているんだよ。私たち自身が、歴代魔王のダンジョンに潜ることでね!」
力強く言いながら、リザは円卓の向こうにある扉を指さした。
「君もオリエンテーションか、初等教育本で学んだと思うけれど、ダンジョンは持ち主が死んでも、ダンジョン深部にある契約石を抜かない限り滅びることなく存在し続ける。だからダンジョンの中にある資産、財宝はそのまま手つかずになる。そんな宝の山があの扉の奥にはあるんだよ!」
「――つまり、まとめるとあの扉の向こうには歴代魔王のダンジョンがあり、ドミネイターズの活動はそこから財宝を集めること、と」
「その通り! クロノは話を要約するのが上手いねえ。飲み込みも速くて助かるよ!」
リザはそう言ってくれるが、まだ話の全容を飲み込みきれてない。
だからまず頭に入れることに徹しようと、彼女の言葉を聞いていく。
「せっかく品物があるのに、腐らせておくのはとても勿体ないからね。私たちドミネイターズが回収し、使うなり換金するなりさせて貰っているの」
「魔王の宝なのに、割と扱いが軽いっすね」
「はは、まあ、使えるものは溜め込んでおくけどね。お金にしかならないなら、お金にするよ。――ただ、だからといって、無作為に学生を選んで突入させるわけにはいかない。魔王のダンジョンには外敵用の仕掛けが施されているからね。強い人じゃないと無理だから、毎年、選別試験で上位に入った人を選んでドミネイターズに勧誘しているんだ」
「それで今年は俺だと?」
「うん! マザーコア一つを塗りつぶすなんて、伝説の魔王を超えるレベルなんじゃないかって震えが走ったもん」
なるほど。超特進クラスについては何となく理解した。
魔王のダンジョンに潜れるのも、ちょっとだけ楽しそうではある。
ただ、あまり楽そうには思えないのが難点か。
「まあ、とりあえず口頭だけの説明はこれくらいかな。実際の活動を見たら印象は変わるかもしれないし、とりあえず私と一緒にダンジョンに潜って体験してみない?」
「え、魔王のダンジョンですよね? 危険はないんですか?」
「もう九割型攻略してある安全な魔王のダンジョンだから大丈夫。そこで動きながら説明しようかって思うんだけど。……時間はあるかな?」
「あー、問題ないですよ」
放課後だが、特にやることもない。
学食が夕飯を出す時間になるまでの間、暇を潰せるならそれはそれで有り難いし。何より体験したいと言ったのは俺だ。
ここはダンジョン探索に行っておこう。
「やったあ。じゃあ、初代魔王の極楽ダンジョンにレッツゴーだね」
そして俺は、リザの楽しそうな声を聴きながら、魔王のダンジョン探索をすることになった。
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次話は朝に。