第3話 自宅ダンジョンの特性
「ふう……いい汗、かいた」
「お疲れ様です、ユキノさん」
マタンゴとユキノの手合わせは昼休みの間中で終わった。
数十分間、じゃれあい半分の殴り合いを繰り返していたわけだが、ユキノの体には傷一つついていない。
「ユキノさんは本当に少しくらいの傷はすぐに治ってしまうんですね」
「ワタシの再生能力は一応、銀狼の中でもトップクラスだから。打撃で内臓がつぶれてもも治ると思う」
「いきなりグロい方向にもっていかないでくださいよ」
先輩の内臓がつぶされている光景とかあんまり見たくないんだが。
「む、それは申し訳ない。……このキノコたちのパンチ、気を抜いて受けたら本当に危ないくらいの速さがあったから、ついね」
「そうですか? 確かに、二代目魔王のダンジョンにいたキノコたちよりも素早くなってますが……」
「うん、あのダンジョンにいたやつらよりも大きくて早くて、なかなか大変だった。その証拠に、一体相手でも割と本気で動いていたし。複数体でかかってこられたら大変だった」
どうやら、このきのこたちは結構な性能をしているようだ。
「二代目魔王のマタンゴがそのまま出てくると思っていたんですが、違うんですね」
「うん。モンスターは一緒だけれども、その能力やサイズ、数は現所有者の魔力次第だから。クロノの力で大きくなったり、硬くなったりしているんだと思う」
「そうなんですか。まあ、有効に活用できたようなら何よりです」
もう昼休みも終わりだし、そろそろ超特進クラスの部屋か、適当な講義を受けにどこかの教室に行くべきだろう。
そう思った俺は、手にしている契約印石を見た後で、キノコたちに視線を移した。
「ユキノさん。このマタンゴ達って、どうやって消せばいいんですかね」
手合わせという目的が終わったので、いったんマタンゴたちには退場してもらいたいのだが、そのやり方がわからなかった。
……俺が動くたびにマタンゴたちがついてくるしな……。
俺が少し離れようとするとマタンゴたちは集団で追いかけてくる。
そのせいで周囲の変な注目を集めることになったので、このまま動くわけにはいかない。
そう思ってユキノに聞くと、彼女は俺の手元の石を指さしてきた。
「普通の召還ならば、帰還って命令すれば、召還したモンスターは消えるはず」
「ああ、そうなんですか」
自動的に戻るわけじゃないのか。それならばさっさと命令して戻ってもらおう。
「じゃあ……帰還」
俺は言葉にして帰還の命令を出してみた。けれども、
「……」
マタンゴたちは全く、消えるそぶり一つ見せなかった。
俺をただじっと見つめてくるだけだ。
「……あの、ダメなんですけど」
言うとユキノは俺と鎖でつながる契約いん石をじっと見た。
「……二代目魔王の遺産だから。もしかしたら仕組みが特別で違うのかもしれない」
「そういう特別はいらないんですけどねえ。とりあえずリザさんに聞くなり、資料室で調べるなりしたい所ですが……」
ただ、その前に、このキノコたちをどうにかすべきだろう。
こんなに大勢で資料室に押し掛けるわけにもいかないし。なによりモンスターをうろうろさせておくのはまずいだろうし。
「どこかに一旦、置いておく?」
「どこかって……」
これだけのモンスターを受け入れてくれる場所はあるのか。
キノコ一体一体でも嵩張るのに、それが三十体もいる。
相当な広さがないと隠すのは難しいだろうと、そこまで思ってから、気づいた。
「あ、そうか。俺のダンジョンに押し込んでおけばいいんですよね」
「クロノのダンジョン……? そういえば、歴代で類を見ないくらい広いんだったね」
「ええ、以前ちょろっと説明しましたが、四〇〇階層くらいありましてね。まあ、物置としては十分すぎるくらい場所があるので」
「四〇〇って……うん、クロノはワタシの想像を軽々越えてくるね」
「オレとしても予想外だったんですけどね」
ともあれそうだ。今までただ帰って寝る場所としか認識していなかったけれども、広さという利点が俺のダンジョンにはあったんだ。
「それじゃ、適当なドアを使ってダンジョンへの扉を開いて、こいつら押し込んできますわ。右向け右。そして進めー」
そうして順々にダンジョンへキノコを放り込んでいった。
「く、クロノは何をしているんだ……」
「モンスターを消すことなくダンジョンにいれているが、軍団でも作る気なのか」
「すげえな、アイツ。在学中に軍隊でも作る気なのかよ…」
とかなんとか、同級生が言っていたけどとりあえず、今は気にしないことにした。
エアポケット問題はあとでどうにかしよう。
ともあれ初めて、自分の広大なだけのダンジョンを有効活用できたような気がしたよ。




