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自称!平凡魔族の英雄ライフ~B級魔族なのにチートダンジョンを作ってしまった結果~  作者: あまうい白一
第二章

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第2話 深窓の銀狼と契約の力

 先輩支配の問題が発覚してから数時間後、リザやユキノと共にどこまでを秘密にして、どんな感じでフォローしていくかを粗方決めた後、俺は城の中庭に来ていた。


 今日は天気がいいので昼飯を外で食べようと思ったのだ。


「はあ、久しぶりに外に出た気がする」


 なにせこの数日間、ほとんど城から出ていなかった。

 俺のダンジョンはでかいから解放感はあるけれども、こうして日の光をゆっくり浴びる機会はあまりなかった。


 こんな日差しの中でベンチに座り、食堂で買い込んだサンドイッチを食べるのは本当に気持ちいい。そう思っていると、


「ワタシも久しぶり」


 隣にいるユキノがぐうっとノビをしていた。

 彼女も何故か付いてきていたのだ。


「ユキノさんは病み上がりなのに、外に出て大丈夫なんですか?」

「問題ない。既に肉体の再生は終わっているし、体調を確認するためにも、散歩がしたかった」


 言いながら、手足をぐいぐいと伸ばしている。

 こういう所を見ると動物的な所が大きいよなあ、と思いながら食事をしていると、


「え、クロノと一緒にいるあの人、深窓の銀狼じゃないか? 病弱だけど強いって噂のお嬢様」

「おお、マジだ。すげえ、この前も食堂にいたらしいけどさ、深窓の銀狼を見れるなんて一年で数回しかないって話だろ? 一つ上の兄貴は見る事さえできなかったって言ってたけど、ツイてるなあ、俺たち」


 なんて話が、中庭の遠くから聞こえて来た。

 見れば、特進クラスの同級生だ。

 俺が軽く手を振ると会釈をされた。距離感は最初の時より縮まっているので有難いが、それよりも気になった事がある。


「あの、深窓の銀狼ってなんですか、ユキノさん。病弱とか言われてるんですけど」

「ワタシがダンジョンとか超特進クラスに引きこもっていて、あんまり城の方に出てこないからそう言われてるみたい。去年とか、三日くらいしか城に出なかったし」

「へえ。そうだったんですか。……でも病弱というのは違うんじゃないですかね」

「ただ、面倒だから訂正とかしないだけ」

「いや、そこは訂正しましょうよ」


 健康的で艶もある肌をこれでもかというほど見せているのに、病弱も何もないだろうに。

 あと深窓感も少ないし。


「別に。私は人からどう思われていてもかまわない。……クロノに、恩知らずって思われるのは嫌だけど」

「そこは思ったりしませんから大丈夫ですよ」


 そう言うと、ユキノは小さく微笑んだ。


「そう、ありがと。――それで、ありがとうついでにクロノ。ワタシの体調は戻ったのだけど、ダンジョンに潜る前にちょっと確認したいことがある。協力してもらう事は出来る?」

「協力って、何をするんですか」


 聞くと、彼女は俺の両手をぎゅっと握って尻尾を振りながらこう言った。


「二代目魔王のダンジョンで手に入れた契約印石、持っているでしょ? あれを使ってモンスターを出してみて」

「契約印石を使う、ですか」


 俺はポケットに入れっぱなしの石ころを取り出す。これは二代目魔王のダンジョンではモンスター避けとして活躍してくれたものだが、


「確か本来は、モンスターを操るもの、なんでしたっけね」

「そう。支配の鎖を刺して、ダンジョンで従わせていたモンスターの名前を呼べば出てくる。多分、ダンテ教授とかも狼を呼び出して見せたことあるでしょ? あんな感じで出るから」


 ダンジョンでキノコをペコペコさせておくだけの石ではない、というのは前々から教えてもらってはいたが、考えてみれば意識的に使ったことがなかった。


 丁度いいからこの機会に使ってみようか、とも思うが、


「ここにキノコを出して大丈夫ですかね? 割と沢山いたような気もしましたが」


 ここは中庭で、周囲には学生もいる。いきなりキノコを出して問題にならないだろうか。


「平気。契約印石で出したモンスターはコントロールできるし、……そもそもこの城はリザが管轄しているダンジョンだから、あんまり数を呼べない筈だし。それでも一体二体は来てくれる筈だから。それと手合わせして、体調確認出来ればありがたいと思う」


 なるほど。一体二体なら確かに平気かもな。見た目は一メートルくらいのキノコだし、そこまで怖くないし。 


「それじゃ、俺も練習がわりに出してみます」


 そう言って俺は腕から黒い鎖を出し、契約印石に突き刺す。そして、二代目ダンジョンにいたモンスターの名を発した。


「来い、マタンゴ!」


 瞬間、俺と契約印石をつなぐ鎖の周囲にマタンゴが現れた。


 ……お、成功だ。本当に呼べるんだな。


 と、俺は心の中で喜んでいた。だが、


「クロノ……」

「なんです、ユキノさん」

「……出し過ぎ」


 目を離したすきに、一気にキノコは増えていた。

 ほぼ一瞬で、三十体ほどが出現していた。


「――あの、出すぎじゃないですかね」

「だからそう言った」


 それほど数は出てこないんじゃなかったのか。

 あと、なんだかキノコの一本一本が太い気がする。

 田舎でみたマタンゴよりは小さいが、ダンジョンにいた奴らよりも手足がでかくて威圧感は中々あった。

 そんなキノコの集団を見たからか、


「く、クロノってモンスターの召喚まで出来たのかよ」

「ダンジョンの操作だけでも、生産系も問題なくこなせるんだな、あいつ……」


 中庭の奥の方から、またエアポケットが広がりそうな声が聞こえてきた。

 最近はちょっと縮まってきた筈なんだけどなあ。また逆戻りかもしれないな。


 ただまあ、今、それを気にしている場合ではない。


「クロノ、流石にワタシも、三十体を同時に相手するのは無理だよ」

「そうですね。ええと、でしたら一体一体を相手にしてもらう感じにした方がいいですよね」

「それだと有難いけど……クロノ、これ操れる?」


 聞かれてちょっと不安になった。


「あー、どうなんでしょうね。とりあえず命令してみますが……右向け右」


 だから命令すると、キノコたちは一斉に右に向いた。


「操れちゃいますね」


 良く見ればキノコの一本一本に俺の黒い鎖がひっついている。

 しっかり俺の力と命令は伝わっているようだ。

 そう思っていると、ユキノは驚きの目で俺の顔を見ていた。


「……ちょっとクロノの支配力凄いね。魔王のリザ管轄の城でここまでのモンスターを出す上に、支配し切るなんて、予想以上。ホント、ビックリ」

「俺も出すぎてびっくりしましたけどね。……とりあえず一体一体立ち合わせるんで、体調確認の方していってください」

「うん。ありがと、クロノ」


 そうして、ユキノはマタンゴ一体と格闘戦をしていった。

 その動きに淀みはなく、もうユキノの体調は万全のようだ。


 ……まさか、この石がこんなところでも役に立つとはなあ。


 ダンジョンでのモンスター避け以外にもマタンゴの契約印石は使えるらしい。

 魔王の遺産の使い方を昼飯中に学べるとは、思わぬ収穫だった。

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