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自称!平凡魔族の英雄ライフ~B級魔族なのにチートダンジョンを作ってしまった結果~  作者: あまうい白一
第一章

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第31話 魔人の力

 リザを抱きしめた状態で、ソフィアはクロノの後ろ姿を見ていた。

 平然と止まることなく、竜に向かって歩いていく。


「――ル……ォ!」


 竜も同じく、クロノに牙をちらつかせながら近寄っていくのだが、クロノの歩みは止まらない。


「く、クロノさん……。リザさんがここまでボロボロになっている竜を相手に、どうしてあんな平常心で立ち向かってるんですか……」


 クロノが強い事は分かっている。ただ、それでも魔王をここまで傷つけた竜を相手に、おびえることなく向かっていける意味がわからなかった。

 そうして声を震わせていると、胸元のリザがぽつりと言葉をこぼした。


「私は前にクロノと話した事があったんだけど、その時も竜狩りを何てことないように言っていたんだよね」

「え……それはどういう……」

「クロノの故郷は、こういうのが日常の一部だったのかもしれないってこと」


 ソフィアはリザの言葉を聞きつつも、上手く理解できなかった。

 竜狩りが日常であるなんて、そんなこと、普通はありえない。そう思って何かをリザと話そうとしたのだが、それよりも早く、


「――!」


 竜の頭突きがクロノのいた位置に叩きこまれた。


「ひゃっ……!」


 その頭突きは床を揺らしてぶち抜くほどの威力だった。

 こちらまで伝わってくる衝撃と埃の波に、ソフィアは己の翼を前方に丸め堅めて、盾とした。

 ビシビシと木の破片が当たってくるが、吸血鬼の翼はそれくらいでは傷も付かない。


「わー、ナイス防御だよー、ソフィアちゃん」

「あ、ありがとうございます。で、でも、クロノさんが……!」


 こんな衝撃をまともに受けたのだ。いくらクロノでもただでは済まないはずだ。


 そんな思いでソフィアは恐る恐る翼の盾をほどき、目の前の光景を確認した。

 すると、そこには、

 

「――え?」


 床に頭と前足を垂らして、膝を付いている竜がいた。

 その頬には巨大な鈍器で殴られたような痕が付いている。


 そして打撃痕の横には、クロノが立っていた。


「ワンダウン、だ」


 その右腕に黒い光の鎖で出来た鎧を纏いながら。


「え……?」

「カウンターが入ったというか……すごいねえ、クロノは。あそこまで強かったんだねえ」


 その光景を見てリザは関心を、ソフィアは驚きをあらわにしていた。

 そして二人とも、茫然としながら、クロノと竜を見つめていると、


「魔王様! お待たせしました!」


 後ろからダンテが走ってきた。


「あー……ダンテ教授? 戻ってきたんだ」

「ええ、応援を呼びました! 私は穴に飛び降りてショートカットしましたが、本隊も数分で来るはずです! だからあの竜は――」


 そこまで矢継ぎ早に言った後で、ダンテは目の前の竜を見た。

 そして、竜に膝をつかせている光景を認識したようだ。 


「……魔王様。ソフィア君。この状況は一体……?」


 愕然とする彼に答えを返したのはリザだった。


「うーん、ダンテ教授。ありがとね。でも、本隊は間に合わないというか、その前に終わると思うなあ」

「あれは……クロノ君なんですか? 右半身に鎧のような黒光を纏っていますが……」

「そうだよ。あそこに出張ると邪魔になっちゃうから、今はしっかり見ておこう。……それに、クロノの本気が見れる機会は、早々来ないだろうからさ。ね、ソフィアちゃん」

「え、あ、はい!」


 リザの言葉に頷きながらも、ソフィアは目の前で力を振るう魔人を見つめ続けた。目を離すことは出来なかった。

 


「……ォォオ!」


 ダウンして数秒もしないうちに、グラトリザードは俊敏な動きで起き上がった。


「おお、やっぱり起きるか。樹木っぽく見えても竜だもんな」


 打撃の手ごたえはあったが、骨格が堅い。

 一撃で砕くことは出来なかった。


 ただ、倒れている時間で体を観察できた。そのお陰でこの魔王の遺産は田舎の竜と身体構造が同じだという事が分かった。

 

 ……田舎の竜と同じ身体構造だからこそ、やりようは幾らでもあるな。

 

 最もやりやすいのは竜の弱点である逆鱗を狙う事だろう。


 首と顎の間についた部位で、他の鱗よりも堅く出来ているのだが、内部には竜の生命線である魔力塊が埋まっている。

 そこを貫けば、竜は絶命する急所になっている。


 色がわずかに違うので、見慣れていれば分かりやすい部分だ。


 ……それがこの竜にもあった。


 ならば狙う部位は確定で、あとは力をふるうだけだ。


「ガ、アァ!」


 起き上がりざま、地を薙ぐようにして噛みついて来ようとする。けれど、


「ああ、やっぱり初代魔王の槍よりも遅いな」

 

 ほんの少し体を後ろに動かせばかわすことは簡単だった。


 口の中に床しか入っていないことに気付いたグラトリザードはそのまま立ちあがる。


「――ッ!」


 そして足腰に力を超めて、チャージの準備を始めた。

 おそらく、突っ込みながら俺を食おうとしているのだろう。


 ……近くに来てくれるならちょうどいいや。


 俺は右腕を引いて構える。


 すると、そこに黒い光の鎖が巻きついて集まってくる。

 この光は、魔人の角にため込まれていた、自分の生命力と魔力の混合物だ。 

 

 と言っても出来る事は限られている。推進力に変換するか、衝撃に変換するか、体の保護に使われるか。その程度しか汎用性がない。

 

 竜を狩るときには、もっぱら体の保護と推進力を得るためのブースターとして使われる。


 ……田舎にいたころは鎖っぽい形はしてなかったんだが……まあ変わらず使えるなら問題ない。


 先ほども一度ブースターとして扱ったが、支障なく殴り飛ばせた。むしろ田舎にいたころよりも素早く、強くなっていた気がする。だから、

 

 ……逆鱗をぶち抜くのに、何一つ問題は無い。


 右腕にまとわりついている光が尽きるまで、ブースターとして役立ってくれる。


 この力は、とても地味で、単純で、機械などでも代用が効いてしまえて、魔人だけの特徴なんて言えない。魔族らしさというものもあまりない、普通の力ではあるけれども、


「そんな力でも、目の前の脅威を払えるならば十分だ」

「オ、オオオオオオオ!」


 渾身の力を込めて、グラトリザードは突撃を敢行してきた。

 だから俺も腕を最大限に引き絞って、前に突き進む。


 俺が向かってきたことで、グラトリザードは獲物を食おうと頭を下に向けようとした。だが、


「故郷で覚えた、魔人伝統の技だ。思いっきり食らえよ」


 それよりも早く、俺は竜の顎下にもぐりこんだ。

 そして掬いあげるような動きで、竜の顎の逆鱗に向かって拳を振るう。

 

「魔人技――《デーモニッシュ・ブロウ》」


 瞬間、俺の腕に巻きついていた鎖が全て、黒い光となって突き進む。

 放たれた拳以上に鋭く早く、黒い光の柱は逆鱗に直撃し、

 

「――!」


 勢いそのままに、グラトリザートの顎下から頭頂部までを打ち抜いた。

 

 頭部を砕かれた巨体は衝撃によって持ち上がり、ゴロン、転がるように倒れていく。

 その後数秒もせずにグラトリザードの体は急激にしおれ、動かなくなった。


 それを見届けて俺は害獣駆除の終了を確信する。


「ふう、いつも通り終わって、何よりだな」


 魔王のダンジョンの竜でも、いつもと同じように勝てた。

 その事を有難いと思いながら、俺はソフィアたちの元に戻っていった。

 

最近文章が長くなりまくりですみません……。

というわけで、一章クライマックスの決着でした。


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