第22話 新たな収穫
樹木の檻からライカンスロープの少女を助けたあと、俺たちは一旦魔王城まで戻ることにした。
ダンジョンの中に仕掛けられた罠や魔王の遺産は驚異ではあるが、モンスターは相変わらずペコペコしっぱなしなので、帰り道はとても楽に済む。
「もう良い時間だし。お城に戻ったら夕ご飯だねー。ソフィアちゃん、食堂に女性に嬉しい隠しメニューがあるんだけど、教えてあげるね」
「あ、ありがとうございます」
リザなどは、前方で周りを警戒せずにソフィアと話をしている始末だ。
まあ、襲ってくるのは魔王の遺産と罠くらいなので、そんなユルユルな状態でも全く問題なかった。
ただ、個人的に問題があるとするならば、
「あの、サラマード先輩? さっきからずっと裾をつかんできているのは何でですかね?」
銀髪の狼少女が、俺の服の裾をつかみながら歩いているということだった。
「ダメ……?」
彼女は薄い表情のまま首をかしげて聞いてきた。
「ダメっていうか、なんでかなと」
彼女は俺が歩きづらくない程度に絶妙な力加減で摘まんできている。その意図が分からなかった。
……なんだろうな。さっきから目線も俺の方に固定されているような気がするし。
だから聞いてみると、彼女は自分の胸元を指さした。
「ワタシの自己紹介、してないから。するタイミングを測っていた」
「ああ、はい。なるほど」
そのためにずっと俺の裾を絶妙な力加減で握っていたのか。
口で言えばいいのに、この先輩はかなり口下手なのか不器用なのか。ともあれ理由が分かったのならば、それでいい。
「じゃあ、さっさとやってしまいますが、俺は魔人のクロノです。さっき自己紹介しましたよね」
俺から話しかけると彼女は一気に口を動かし始めた。
「……うん、よろしくクロノ。ワタシはユキノ・サラマード。サラマードは狼の一族の名前だから、名前で呼んで。じゃないと個人が分からない」
「ああ、じゃあユキノさん」
「うん……それでいい。それがいい……!」
俺が名前を呼ぶと耳と尻尾をピコピコ動かした。
口下手で不器用だけれど、耳としっぽのお蔭で感情が分かりやすい。
彼女にそういう魔族の特徴があってくれたのは、有難いことだ。
「というか、ユキノさん。体の方は大丈夫ですか?」
「割と。……体調は良くないけど」
ユキノは助け出した直後は腰が抜けて立てもしなかった。
今ではどうにか歩くことが出来ているが、フラフラだ。ただ、その程度で済んでいるのはむしろ幸運だろう。
「水に流された後、あのムチで撃たれたんですよね? よく骨とか折りませんでしたね」
「ライカンスロープだから。多少の再生能力はある。――ただ、あのムチはワタシを打ち付けた後、ずっと檻になって閉じ込めて来たから、体力が持たなかった」
ライカンスロープの魔族的特徴は超絶的な再生能力だ。そのお陰で、彼女は今でもぴんぴんしているんだろう。
本当にそういうモノを持っている魔族はいいなあ、と思いながら、俺は自分の腰回りを見る。
そこには未だに俺の裾をつかむ彼女の手があった。
というか俺の体に鼻と頭をこすりつけていた。
「あの、ユキノさん? 自己紹介は終わったんですけど、まだ何か?」
「……アナタの動き、ワタシより早く見えたから。本当に魔人かなって? なんだか全身の肉の付き方、変だけど」
普通に生活していただけなのに肉のつき方が変とか言われたよ。
太ってない筈なんだが、ちょっと微妙な気分になるぞ。
「まあ、何と言いますか。それでも見ての通り。小さい角があるだけの、ただの魔人なんですよ」
「――うん、分かった。変なこと言って御免なさい。そして言い忘れていたけど、助けてくれてありがとう、クロノ」
礼を言いながらユキノは小さく頭を下げてきた。
「ああ、いや、気にしないで下さい。俺も色々と情報がほしくてユキノさんの所へ行ったんですから」
「そうなの? ならそれも分かった。アナタには恩があるから、情報で返すね。ライカンスロープは一度受けた恩は絶対に、返すから」
ユキノはそう言って、小さく微笑んで、俺の裾をふたたびギュッと掴んできた。
……口下手そうではあるが、感情は結構豊かな人だな。
むしろ子供っぽそうな感覚もある。
そんな事を思いながらユキノと顔を見合わせていると、
「クロノー。そろそろ出口だよー」
前の方にいたリザが駆け寄ってきた。そして俺にぎゅっと捕まるユキノを見て、リザは意外そうな顔をした。
「おー? 気難しいサラマードがこんな風になるなんて珍しいね」
「気難しい? ユキノさんがですか?」
口下手には思えたが、相当素直な方だと思うのだが、リザにとっては違うのだろうか。
「私でも打ち解けるのに数カ月かかったのにー。まあでも、二人とももう仲良くなっているようでなによりかな! 仲良くするのが一番だしね」
仲良くというか、どちらかというと懐かれたような気がする。
いや、年上の先輩だから懐かれる、という表現が正しいのかわからないけれども。とりあえず、仲が悪くならなくて良かったと思っておこう。
「さ、それじゃ皆。お城戻って、報告書を作成しながらご飯を食べよう。さあさあ、レッツゴー」
そんな感じで、テンションの高めな魔王と共に、俺たちはダンジョンを脱出した。
こうしてドミネイターズに入って三日目。
俺は、先輩一人をダンジョンから連れ戻して、無事に城に帰ることに成功したのだった。
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