第17話 足でも稼げる
俺たちは手に入れた遺産を片手に、俺たちは超特進クラスの部屋に戻ってきていた。
昼になった段階で俺たちは一度、ダンジョンから脱出する予定になっていたからだ。
「ふー、戻ってきたー。二人ともお疲れー」
リザは労いの言葉を言いながら、部屋の棚をあさって、水のボトルを取り出して俺たちに渡してくる。
「体力も消耗しているだろうし、ゆっくり休んでよ」
「ああ、ありがとうございます」
「特にソフィアちゃんは初めてのダンジョン探索で精神も消耗しちゃってるだろうし、そこのソファで横になるのもいいと思うよ」
部屋の端に置かれたフカフカのソファを指さしながらリザは言うが、ソフィアはやんわりと首を横に振った。
「ありがとうございます、リザ……ちゃん。でも、私は案内書を貰ってダンジョンがどんな感じか知れていましたし。今日もほとんど先輩のクロノさんの後を付いていっているだけでしたから、結構大丈夫でしたよ。むしろクロノさんは大丈夫でしたか?」
「ん? ああ、俺の方は別に平気だよ。初代魔王のダンジョン程、命の危機も感じなかったしな」
初代魔王のダンジョンは通路に踏み込んだだけで、槍の刺突で致命傷を負う可能性があった、割と危ないダンジョンだった。
それを踏まえて考えると、二代目魔王のダンジョンはまだ危なくは無かった。
「そ、そうですか。あれで危機を感じなかったんですか……」
ソフィアは頬に汗を浮かべているが、まあ、初体験だとあれでも大変だろうな、とは思う。今回もリザは回復薬を常備してくれているらしいが、それでも不安はあるだろうし。
「そもそも、さっき潜った範囲で、全体の二割も行ってないんですよね、リザさん」
「うん、そうだよ。二代目魔王のダンジョンは十二階層あると報告があるからね。さっきまでは二階層と数部屋しか潜ってないから、二割弱だね」
初代魔王のダンジョンよりもかなり広いという。そんなところが魔王のダンジョン初体験の場所になれば、やはり大変なんだろうな。
「それでも午前中っていう短時間で遺産を――『契約印石』見つけられたんだから、凄いことなんだよ? 大事なのは活動範囲よりも成果だからね」
「成果……ですか。でもこれじゃ、俺たちの奴隷契約をどうこうできるわけじゃないんですよね」
「まあねー。美味く使えば新しく奴隷契約を結べるような道具だけれど、打ち消しは出来ないね。……一応他に特殊能力がないか、鑑定にかけてみよっか」
そうして俺が鑑定装置に石を入れると、すぐに結果は戻ってきた。
『商品名:二代目魔王の契約印石 特殊能力:支配力の増強・分割・モンスター一種支配 種別:装備道具 査定額:五百万ゴールド』
「かなり、高いっすね……」
「うん、本当にこれだけの価値がある貴重品だもの。だからこれを見つけたクロノは凄いんだよ。――それで、この契約印石は換金する?」
「いや、色々使い道があるそうなので、持っておきます」
俺は即断した。
実は、これを手に入れてから帰ってくるまで、考えていたことがある。
……これの使い方を学べば、奴隷契約とか支配についてもっと知識を得られるんだよな……。
今の自分ではその価値を理解し切れているか微妙だが、使い道が多くて興味深い道具であるのは確かだ。
後日、資料室などで色々と調べてから、使ってみようとも思う。
だから、今は売らないで確定だ。
「了解。それじゃあ、今回の鑑定は終わりってことで――はいこれ。クロノ達にプレゼントだよ」
鑑定装置から出た紙から目を離した俺に、リザは布で出来た袋を手渡してきた。
中には札束が入っている。
「え……これ、なんですか? 俺はこの石を売ってないですよ」
「ああ、そうじゃなくてね。これはダンジョンのマッピング料金。今回、入った事のない部屋に入ったでしょ?」
「ええ、まあ」
「その情報は大事で、貴重だからね。『情報は金なり』ってことで、最初に入った人達にはこうして報酬が渡されることになっているんだよ。だから、はい。ソフィアちゃんも遠慮せずに受け取ってね」
リザはソフィアにも同じ袋を渡していた。
「わ、私も受け取っていいんですか? し、しかも結構な大金ですよ」
「当然の権利だから気にしないで。ソフィアちゃんだって、発見者の一人だからね」
どうやら、ダンジョンに最初に入っても、それなりの報酬はあるような仕組みになっているらしい。
……ドミネイターズというグループに対して、金払いは結構良いんだなあ。
そんな事を考えながら俺が布袋の中を見ていると、不意に、思いだした事があった。
「『最初に入った』と言えば、……俺達より先に入った先輩と出会いませんでしたね」
あれだけの量のモンスターを蹴散らさずに突破した人だ。
どんな豪傑なのか、少し気になっていた。
というか、リザ以外の先輩と会えるかと思って少しワクワクしてもいた。
「うーん、二代目のダンジョンは広いからね。会えなくても仕方ないよ。まあ、午後には戻ってくる筈だし、その時に紹介するよ」
「ええ、その時はお願いします」
「お願いされたよっ。――それじゃあ、私たちはまず、お昼御飯に行こうか。時間も時間だしね」
確かにもう昼飯時だ。
「ダンジョンを歩いて腹も減っているし、食べるには良い頃合いだな」
「そうですね。私もお腹ぺこぺこです」
「ようし、食べざかりの二人に、私、おごっちゃうぞー」
リザはそう言うと、この部屋と応接間をつなぐ通路がある方向に歩きだした。
しかし彼女は通路に入らず、その横にある扉に手をかけた。
「あれ、ここから出て、城の食堂で食べるんじゃないんですか?」
「うん、一々向こうに戻るのは面倒だからね。実はドミネイターズだけが使える食堂もあるんだよ」
「へー、そんなものがあるんですか」
「結構面白いところだよ。さ、案内するから付いてきてよ」
リザは扉を開けて、中へと入って行った。微妙に暗くて中はどうなっているのか視認できなかったけれども、
「い、行きましょうか、クロノさん」
「おう」
緊張の色を見せるソフィアと共に、超特進クラス専用の食堂とやらで昼飯を食べに行くことにした。